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コンプリートガチャについてユーザーの返金請求は認められるのか
2012年06月07日 14時58分

消費者庁は5月18日、DeNAやグリーなどが運営するソーシャルゲームに導入されてきた「コンプリートガチャ」は景品表示法にて禁じられている「カード合わせ」に該当するとして、同法の運用基準を改正し7月1日から行政処分の対象とすることを発表した。

コンプリートガチャは景品表示法に違反するものではないかという批判は以前からあり、消費者庁が何かしらの規制を発表することは時間の問題と見る向きもあった。DeNAやグリーなどのソーシャルゲーム運営会社は5月18日の消費者庁の発表を待たず、自主的に5月末をもってコンプリートガチャを廃止することを発表したが、この対応にはコンプリートガチャに対する批判が広がる前に事態の沈静化を図った面もあると考えられる。

ところが、コンプリートガチャを廃止したので話はそれで終わりかと思いきや、まだ大きな問題が残っている。それは、ユーザーからの返金請求が認められるかどうか、ということだ。

もしコンプリートガチャについて、ユーザーと運営会社の間の契約が過去に遡って無効と判断された場合は、ユーザーはこれまで費やしてきた料金を運営会社に返金請求することが可能になる。これはユーザーからすれば良い話だが、ソーシャルゲーム運営会社にとっては経営に大打撃を受けかねず、まさに死活問題になる。

現時点では返金請求が認められるかどうかについての公的な判断はされていないが、果たして、裁判でその可否が争われた場合、ユーザーからの返金請求は認められることになるのだろうか。消費者契約に詳しい秋山直人弁護士に見解を聞いた。

「コンプガチャは、景品表示法3条、『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限(公正取引委員会告示)』で禁止されている『カード合せ(絵合せ)』に該当するとの見解を消費者庁が固めたようです。ただ、景品表示法での規制に違反したとしても、当然に、利用者と事業者の間の契約が無効になるわけではありません。」

「景品表示法のような法律の禁止規定は、行政上の理由から一定の行為を禁止・制限し、その違反に対して刑罰や行政上の不利益を課す規定で、『行政取締規定』と言われています。判例上は、行政取締規定に違反した行為が、直ちに私法上も(契約当事者の間でも)無効になるわけではない、と考えられています。ですので、コンプガチャの利用者が運営会社に対して、これまでコンプガチャに使用した金額の返還請求訴訟を起こした場合、コンプガチャが景品表示法での行政取締規定に違反しているとして、その違反が、契約を無効にするほどのものかどうかが審理されることになると思われます。」

「コンプガチャが利用者の射幸心をあおる程度、当選確率について利用者の誤解を生む可能性の程度、実際にどの程度の年齢の利用者がどの程度高額な利用をしているのかといった実態等をもとに、公序良俗違反(民法90条)として契約を無効にするほどの違法であるか、という判断がなされると考えられます。従って、現時点では結論は分からないと考えますが、規制対象にあたるとの消費者庁の見解が出る前の利用については、裁判所はそう簡単に契約を無効とは判断しないようにも思います。」

つまり、コンプリートガチャの実態が著しく公序良俗に違反すると判断されることになった場合には、契約は無効としてユーザーからの返金請求が認められる可能性が高まり、反対に、景品表示法には違反するものの、契約を無効とするほどまでには公序良俗に違反しているとはいえないと判断された場合には、返金請求は認められないと考えられる。

この問題を考える上で注意したいことは、ユーザーが判断能力のある成人に限った話であれば、運営会社が確率操作など不当な行為をしていない限り、おそらく契約を無効とするほどの判断にはならないのではないかと思われるが、小中学生などのまだ判断能力が充分でないと思われる年齢のユーザーがコンプリートガチャに嵌り、数万円単位の多額の金額を費やしたという事例が報告されていることだ。

もしこのような事例が多数存在するのであれば、その社会的影響などが考慮され、コンプリートガチャの実態は著しく公序良俗に反すると判断される可能性は否定できない。

ソーシャルゲーム運営会社の高収益を支えてきたコンプリートガチャだったが、一転して大きな経営リスクを招きかねない状況になってしまったようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

消費者庁は5月18日、DeNAやグリーなどが運営するソーシャルゲームに導入されてきた「コンプリートガチャ」は景品表示法にて禁じられている「カード合わせ」に該当するとして、同法の運用基準を改正し7月1日から行政処分の対象とすることを発表した。

コンプリートガチャは景品表示法に違反するものではないかという批判は以前からあり、消費者庁が何かしらの規制を発表することは時間の問題と見る向きもあった。DeNAやグリーなどのソーシャルゲーム運営会社は5月18日の消費者庁の発表を待たず、自主的に5月末をもってコンプリートガチャを廃止することを発表したが、この対応にはコンプリートガチャに対する批判が広がる前に事態の沈静化を図った面もあると考えられる。

ところが、コンプリートガチャを廃止したので話はそれで終わりかと思いきや、まだ大きな問題が残っている。それは、ユーザーからの返金請求が認められるかどうか、ということだ。

もしコンプリートガチャについて、ユーザーと運営会社の間の契約が過去に遡って無効と判断された場合は、ユーザーはこれまで費やしてきた料金を運営会社に返金請求することが可能になる。これはユーザーからすれば良い話だが、ソーシャルゲーム運営会社にとっては経営に大打撃を受けかねず、まさに死活問題になる。

現時点では返金請求が認められるかどうかについての公的な判断はされていないが、果たして、裁判でその可否が争われた場合、ユーザーからの返金請求は認められることになるのだろうか。消費者契約に詳しい秋山直人弁護士に見解を聞いた。

「コンプガチャは、景品表示法3条、『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限(公正取引委員会告示)』で禁止されている『カード合せ(絵合せ)』に該当するとの見解を消費者庁が固めたようです。ただ、景品表示法での規制に違反したとしても、当然に、利用者と事業者の間の契約が無効になるわけではありません。」

「景品表示法のような法律の禁止規定は、行政上の理由から一定の行為を禁止・制限し、その違反に対して刑罰や行政上の不利益を課す規定で、『行政取締規定』と言われています。判例上は、行政取締規定に違反した行為が、直ちに私法上も(契約当事者の間でも)無効になるわけではない、と考えられています。ですので、コンプガチャの利用者が運営会社に対して、これまでコンプガチャに使用した金額の返還請求訴訟を起こした場合、コンプガチャが景品表示法での行政取締規定に違反しているとして、その違反が、契約を無効にするほどのものかどうかが審理されることになると思われます。」

「コンプガチャが利用者の射幸心をあおる程度、当選確率について利用者の誤解を生む可能性の程度、実際にどの程度の年齢の利用者がどの程度高額な利用をしているのかといった実態等をもとに、公序良俗違反(民法90条)として契約を無効にするほどの違法であるか、という判断がなされると考えられます。従って、現時点では結論は分からないと考えますが、規制対象にあたるとの消費者庁の見解が出る前の利用については、裁判所はそう簡単に契約を無効とは判断しないようにも思います。」

つまり、コンプリートガチャの実態が著しく公序良俗に違反すると判断されることになった場合には、契約は無効としてユーザーからの返金請求が認められる可能性が高まり、反対に、景品表示法には違反するものの、契約を無効とするほどまでには公序良俗に違反しているとはいえないと判断された場合には、返金請求は認められないと考えられる。

この問題を考える上で注意したいことは、ユーザーが判断能力のある成人に限った話であれば、運営会社が確率操作など不当な行為をしていない限り、おそらく契約を無効とするほどの判断にはならないのではないかと思われるが、小中学生などのまだ判断能力が充分でないと思われる年齢のユーザーがコンプリートガチャに嵌り、数万円単位の多額の金額を費やしたという事例が報告されていることだ。

もしこのような事例が多数存在するのであれば、その社会的影響などが考慮され、コンプリートガチャの実態は著しく公序良俗に反すると判断される可能性は否定できない。

ソーシャルゲーム運営会社の高収益を支えてきたコンプリートガチャだったが、一転して大きな経営リスクを招きかねない状況になってしまったようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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