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「ゲーム作る」司法修習生、異色のチャレンジ 「法律学習のリアル、体験してほしい」
2020年08月26日 10時35分

多数のツールが存在することから、個人でゲームをつくるハードルは年々下がっている。とはいえ、司法修習生が個人でゲームを制作しているとなると相当珍しいのではないだろうか。

8月上旬、「これ僕が作ってるゲームです。いかがでしょうか」という内容のツイートがゲーム画面とともに投稿された。

ツイートしたのは、現役の司法修習生である「さんかいめ」さん。各地の地方裁判所に配属され、法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)の実務を体験しつつ学んでいく「実務修習」をこなしながら、ゲームを制作しているという。

多忙な司法修習と並行して、なぜゲーム制作を行っているのか。その熱意はどこからくるのか。さんかいめさんに話を聞いた。(編集部・若柳拓志)

多数のツールが存在することから、個人でゲームをつくるハードルは年々下がっている。とはいえ、司法修習生が個人でゲームを制作しているとなると相当珍しいのではないだろうか。

8月上旬、「これ僕が作ってるゲームです。いかがでしょうか」という内容のツイートがゲーム画面とともに投稿された。

ツイートしたのは、現役の司法修習生である「さんかいめ」さん。各地の地方裁判所に配属され、法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)の実務を体験しつつ学んでいく「実務修習」をこなしながら、ゲームを制作しているという。

多忙な司法修習と並行して、なぜゲーム制作を行っているのか。その熱意はどこからくるのか。さんかいめさんに話を聞いた。(編集部・若柳拓志)

●自身の体験から綴られる物語『「法」ガール』

制作しているゲームのタイトルは『「法」ガール』。ジャンルはアドベンチャーゲームで、主人公が法学部に入学してから司法試験に合格するまでの物語がベースになるという。

「自分自身の体験をふんだんに盛り込み、『自分なりのリアリティ』を追及した作品にしたいと思っています。

三部構成で、『法学部入学からロースクール試験合格』までの物語を第一部として2021年春までにリリースする予定です。たくさんの人にプレイしてもらいたいので、今のところ、無料での公開を考えています」

キャラクターデザインや背景画像は外注やフリー素材などを使用しているが、物語や台詞はすべて自分で用意。登場キャラクターにはヒロインに当たる女性も含まれるが、いわゆる「ギャルゲー」とは一線を画し、女性プレイヤーを意識した作りにするという。

「ロースクール入試や司法試験受験を通じたヒロインとの恋愛模様は物語の一要素として加えるつもりですが、恋愛要素も含め、学生生活を高度に再現した群像劇にできればと考えています。

また、法律を扱うのは法曹だけではありませんので、公務員を目指したり会計士を目指したりするようなサイドストーリーがあってもいいのでは、という構想もあります」

●「物語は長年作り続けてきた」

自分の体験を基にした話であっても、「ゲームの物語」に昇華させるのは容易でないはずだが、さんかいめさんにとって、物語を作ることは苦ではないという。

「小学生の時に放送していたアニメ『最終兵器彼女』、『ヒカルの碁』といった素晴らしい作品に触れて以来、自分も物語を作りたい、と強く思うようになりました。

その後もたくさんの文学・アニメ・ゲームに触れて、作家になりたい、ゲームみたいな小説を書きたいと思うようになり、文学を研究したり、新人賞に応募したりしてきました」

物語のことを考えている時間が一番幸せと語るさんかいめさんが、なぜ司法試験を目指したのだろうか。

「最初は、作家だけでやって行くのは厳しいと思い、とにかく将来のため、何でもいいから資格を取ろうと、大学一年生の時に行政書士試験を受験しました。一年目で合格できたので、自分には法律が向いているのではないかと思い、司法試験も受けることにしました。

勉強を続けているうちに、司法試験に合格して弁護士になることは、『作家の夢とも両立するし、相互にいい影響があるのでは』と感じるようになりました。法律家として生きるというのは、人の心を扱うということですし、言葉を大切にすることでもあります。

弁護士になることは、作家を目指す上で、長期的には必ず自分の将来を豊かなものにしてくれる、と思うようになったんです」

●「司法試験合格まで大変だった」

司法試験を受験するため、法学部卒業後はロースクールに進学した。しかし、「そこからが大変だった」と話す。

「ロースクールには既習者コースで入ったのですが、実力不足でついていくのもやっとという状態でした」

ロースクール卒業後に受験した司法試験も苦戦。合格したのは3回目だった。

「1回目で壁の高さを痛感しました。2回目を受験しても合格できる気がしないほどでしたから。悩んだ末にチャレンジした2回目も、手応えがあまりなくてつらかったですね。

それでも3回目に挑めたのは、2回目に臨んだときの勉強を踏まえ、自分に何が足りないのかがようやく具体的にわかって、もう1年頑張ればいけるんじゃないかと思えたからです。もちろん、ここまできたら引き返せないという気持ちもありました」

これらの経験をゲームの物語を作る上で、うまく活かしたいと意気込む。

「物語というのは、人格・境遇など様々なタイプの人がいて魅力が出てくるものだと思います。

自分自身は短期間で合格するという道を歩めませんでしたが、同じロースクールに通っていて短期間で合格した人も見てきましたし、法律を勉強している人の中にも様々な個性があるということを体験してきました。

たとえば、司法試験受験生には、独特の息遣いや心の動きがあるように思います。これらも再現できれば面白くなるのでは、と考えています。

司法試験合格までの物語を作る上では、様々なタイプの受験生を描写できるのは強みだと思いますので、ゲームをプレイする際には追体験するような形で楽しんでもらえたら嬉しいですね」

●コロナ禍で「法律の勉強全般への興味や関心を育むことが困難」

また、さんかいめさんは、コロナ禍において、「自分のゲームが法学部生などの役に立てば」という。

「コロナ禍で、法学部生はキャンパスで講義を受けることができず、リモートでの受講を余儀なくされているなどの話を耳にします。

このような状況ですと、先輩や同期などとの交流で養われる、司法試験を含む法律の勉強全般への興味や関心を育むことが困難です。

自分の作品を通じて、法律の勉強をすることの楽しさや司法試験に挑むことの素晴らしさ、一方である面での残酷さもあることなどを伝え、進路検討のきっかけにでもしてもらえればと思い、すぐに着手し、できるだけ早い完成を目指そうとしました」

ゲームという媒体を選んだ理由は、「新しい体験」を提供できるものとして、物語に自分で選んだ音楽やイラストなども合わせた作品を作りたいという気持ちがあったからだという。

なお、制作に当たっては、司法修習生を採用している最高裁に対し、兼業の許可申請を行い、正式に許可をもらったという。

「ゲームは無償で公開する予定なので、そもそも趣味の範囲内ではないかとも思いましたが、司法修習生という身分を考えると、きちんと許可をとった方が望ましいと考え申請しました」

●弁護士としての当面の目標は「ジェネラリスト」

新型コロナの影響で、実務修習の予定が一部変更されたり、修習の終盤に司法研修所で行われる集合修習はオンラインでの実施になるなど、例年と異なる司法修習となっている。

「緊急事態宣言が出ていた頃こそ予定変更等ありましたが、その分課題が多く出されたりしていましたし、その後は従前と変わりなく裁判所などに通ってます。

修習地によって扱いが異なるようですし、修習生の間でも意見が分かれているところですが、今の修習を終えて弁護士になることに、私自身はそれほど不安ではありません」

司法修習の日程は例年通り2020年11月まで。このまま何事もなければ、2021年春予定のリリース時には弁護士になっているはずだ。目指す弁護士像もあるという。

「労働事件・離婚・交通事故などに関心があり、これらの事件に強い弁護士になりたいという思いもありますが、まずは様々な案件を通じて、『ジェネラリスト』として成長したいと考えています」

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