14309.jpg
「印鑑証明」見直しを千葉市長が表明 「実現」のためのハードルは?
2013年06月25日 15時35分

「印鑑証明という前時代的な本人確認手段が見直せない行政に合理化など期待できません」「千葉市は条例改正で見直します」――。再選を果たしたばかりの熊谷俊人・千葉市長がツイッターでこのように表明し、話題になった。

印鑑証明とは「この印鑑は本人のものだ」と市町村がお墨付きを与える証明書のこと。発行してもらうには事前の登録と「印鑑証明カード」などが必要になる。

熊谷市長は「慣習的に印鑑証明を求めている役所の各種手続き」について、本人確認ができれば十分なものもあると主張した。印鑑証明カードを忘れた場合にはその場で廃止手続きを行い、新規発行している現状があると指摘し、制度見直しの必要性を訴えている。

この印鑑証明、そもそも法的にはどのような位置づけなのだろうか。また、条例改正で見直すためにはどんなハードルがあるのだろうか。千葉県で活動する梅村陽一郎弁護士に聞いた。

●印鑑+印鑑証明の証明力は「アナログ界最強」

「実務上、実印が捺印された書面に印鑑証明が添付されていれば『国内・アナログ界最強の証明力』を持っています。その理由は、実印を登録したり、印鑑証明を取得するのに『一定の手続が必要だから』です。

ある程度のめんどうくささがあるからこそ、それに反するよほどの証拠がない限り、実印が捺印された書面は『本人の意思で捺印されたということにする』という取り扱いになっているのです」

――民間に比べて、非合理的・非効率的では?

「たとえば、銀行では、カードと暗証番号、通帳と印鑑という一定のアイテムがそろっているからこそ、お金を引き出せます。本人確認できるからといって、免許証ではお金は引き出せません。

カードや通帳をなくせば再発行、暗証番号を忘れれば新しい暗証番号の登録のように、アイテムをそろえ直す手続きは、やはりある程度の手間がかかるようになっています。手間をかけることで、間違いや不正を減らせるからです。銀行・預金者が安心していられるのは、このような手続きが安全性を高めているから、ともいえます」

――「めんどうな手続き」自体も重要だということ?

「免許証やパスポート、健康保険証で印鑑証明が取得できるということになると、最強のアイテムを今より簡単にそろえられるということになります。わざわざ印鑑登録カードを要求している(めんどうくさくしている)意味がなくなります。

熊谷市長は『本人確認ができても印鑑証明は発行できない』ため『その場で廃止手続き・新規登録で発行している現状』があると指摘しています。この場合も、少なくとも再発行する手続きやその履歴は残り、事後的に検証することもできます。その場で再登録できるなら、むしろ民間銀行よりも融通は利いています」

――熊谷市長の提言をどうみる?

「市の条例やそれぞれの市町村の内部運用などで決まっている手続きなら、千葉市単独で『印鑑証明は必要ない』と決めることはできます。廃止した場合の副作用も考慮しつつ、普通の捺印やサインで済ませられるケースは改善していけば良いと思います。

ただ本当に法律の根拠がないのかは、よく確かめる必要があります。全国的な統一手続きの通達が総務省から出ているケースもあれば、逆に法律があってもその立法事実が既に失われている場合もあるでしょう。慎重に検討すべきだと思います」

どうやら、千葉市だけでできることには限界があるようだ。本人確認や意思表明がますます重要化するこの社会で、「印鑑」を今後どうしていくべきなのか——。熊谷市長の提言をきっかけに、広く多角的な議論を盛り上げていきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

「印鑑証明という前時代的な本人確認手段が見直せない行政に合理化など期待できません」「千葉市は条例改正で見直します」――。再選を果たしたばかりの熊谷俊人・千葉市長がツイッターでこのように表明し、話題になった。

印鑑証明とは「この印鑑は本人のものだ」と市町村がお墨付きを与える証明書のこと。発行してもらうには事前の登録と「印鑑証明カード」などが必要になる。

熊谷市長は「慣習的に印鑑証明を求めている役所の各種手続き」について、本人確認ができれば十分なものもあると主張した。印鑑証明カードを忘れた場合にはその場で廃止手続きを行い、新規発行している現状があると指摘し、制度見直しの必要性を訴えている。

この印鑑証明、そもそも法的にはどのような位置づけなのだろうか。また、条例改正で見直すためにはどんなハードルがあるのだろうか。千葉県で活動する梅村陽一郎弁護士に聞いた。

●印鑑+印鑑証明の証明力は「アナログ界最強」

「実務上、実印が捺印された書面に印鑑証明が添付されていれば『国内・アナログ界最強の証明力』を持っています。その理由は、実印を登録したり、印鑑証明を取得するのに『一定の手続が必要だから』です。

ある程度のめんどうくささがあるからこそ、それに反するよほどの証拠がない限り、実印が捺印された書面は『本人の意思で捺印されたということにする』という取り扱いになっているのです」

――民間に比べて、非合理的・非効率的では?

「たとえば、銀行では、カードと暗証番号、通帳と印鑑という一定のアイテムがそろっているからこそ、お金を引き出せます。本人確認できるからといって、免許証ではお金は引き出せません。

カードや通帳をなくせば再発行、暗証番号を忘れれば新しい暗証番号の登録のように、アイテムをそろえ直す手続きは、やはりある程度の手間がかかるようになっています。手間をかけることで、間違いや不正を減らせるからです。銀行・預金者が安心していられるのは、このような手続きが安全性を高めているから、ともいえます」

――「めんどうな手続き」自体も重要だということ?

「免許証やパスポート、健康保険証で印鑑証明が取得できるということになると、最強のアイテムを今より簡単にそろえられるということになります。わざわざ印鑑登録カードを要求している(めんどうくさくしている)意味がなくなります。

熊谷市長は『本人確認ができても印鑑証明は発行できない』ため『その場で廃止手続き・新規登録で発行している現状』があると指摘しています。この場合も、少なくとも再発行する手続きやその履歴は残り、事後的に検証することもできます。その場で再登録できるなら、むしろ民間銀行よりも融通は利いています」

――熊谷市長の提言をどうみる?

「市の条例やそれぞれの市町村の内部運用などで決まっている手続きなら、千葉市単独で『印鑑証明は必要ない』と決めることはできます。廃止した場合の副作用も考慮しつつ、普通の捺印やサインで済ませられるケースは改善していけば良いと思います。

ただ本当に法律の根拠がないのかは、よく確かめる必要があります。全国的な統一手続きの通達が総務省から出ているケースもあれば、逆に法律があってもその立法事実が既に失われている場合もあるでしょう。慎重に検討すべきだと思います」

どうやら、千葉市だけでできることには限界があるようだ。本人確認や意思表明がますます重要化するこの社会で、「印鑑」を今後どうしていくべきなのか——。熊谷市長の提言をきっかけに、広く多角的な議論を盛り上げていきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る