戦中、戦後の混乱でフィリピンに取り残された「フィリピン残留日系人」のうち、父母の婚姻が証明できない4人が、日本人としての戸籍を求めて那覇家庭裁判所などに「就籍」の家事審判や就籍許可を申し立てた。4人の代理人が8月5日、都内で記者会見を開いて明らかにした。
これまで、父母の婚姻が確認できる「嫡出子」の国籍取得を支援してきたが、非嫡出子への支援に踏み出すのは初めて。申立人は平均年齢80歳を超えており、代理人らは「今、救わなければ間に合わない」として、憲法が保障する「法の下の平等」を根拠に司法判断を求めている。
●父親が日本人でも…結婚していなければ「国籍」は認められない
申立人の代理人は、フィリピン残留日系人の支援に長年取り組んできた河合弘之弁護士ら。
申立人4人のうち2人は、父親が日本人であることがDNA鑑定などで確認されている。しかし、戦中・戦後の混乱により、父母の婚姻が証明できない、あるいは実際に婚姻していなかったため、現行の運用や判例では国籍取得が認められないという。
河合弁護士は「これまで支援してきた300人以上はいずれも、父母が正式に結婚した『嫡出子』だった。今回は初めて『非嫡出子』への支援に踏み切った。嫡出子と非嫡出子の差別につながるので、父親が日本人であれば、国籍を認めるべきだ」と強調した。
●フィリピン残留日系人は過酷な歴史を歩んできた
会見では、残留日系人が歩んできた過酷な歴史も共有された。
日本軍による侵攻を受けたフィリピンでは、戦後、反日感情が高まり、残留日系人の子どもたちは暴言や暴力にさらされ、命の危険から出自を隠して生きざるを得なかったという。戦火で多くの出生記録や婚姻証明も焼失し、親の情報すら得られず育った人も少なくないそうだ。
代理人の北村賢二郎弁護士は「『国籍』や『地元』がまったくない状況を想像してほしい。自分がどこの国の人間なのかも証明できず、国からも認められない。そういう状態に置かれてきて、今ようやく『日本人として国籍を取りたい』と声を上げているのです」とうったえた。
●「日本国籍を取得したい」と強く希望しているのは約50人
フィリピン残留日系人は、少なくとも3800人いたとされるが、そのうち1800人以上が国籍を得ることなく亡くなったという。現在、「日本国籍を取得したい」と強く希望しているのは約50人。平均年齢は80歳以上と高齢化が進んでおり、まさに時間との闘いとなっている。
今回の申し立てと合わせて、外務省による訪日事業も動き出している。8月6日には、申立人の1人である竹井ホセさんが来日予定で、その後、記者会見や親族との再会が予定されている。代理人らは、ホセさんを皮切りにさらに支援を加速させたいとしている。
今回の4人は、DNA鑑定などで父子関係が認められたり、親族と対面できているケースで、いわば"突破口"だ。代理人らは、ほかのフィリピン残留日系人についても、準備が整い次第、申し立てをおこなっていくとしてる。