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「理3を諦めたら負け犬とばかにされる」“学歴至上主義”高2少年の歪んだ犯行動機 東大前共通テスト刺傷事件
2025年05月24日 09時23分
#教育虐待 #東大前駅 #負け犬 #学歴至上主義

東京メトロ南北線東大前駅(東京都文京区)で5月7日、大学生の男性が刃物で切り付けられた事件で、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された無職の男性(43)は、動機について「東大を目指す教育熱心な親たちに度が過ぎると、私のように罪を犯すことを世間に示したかった」と供述したという。

歪んだ犯行の背景は、起訴されれば刑事裁判のなかで一定程度明らかにされることだろう。

3年前にも、試験会場の東大前で受験日に人を刺した事件があった。当時高校2年の少年は「東大理3」志望を公言したが、追い詰められていた。裁判の場で、少年の両親は「勉強ばかりしていて心配だった」と悔やんだのだった。

※本稿は、日本経済新聞の「揺れた天秤」取材班著『まさか私がクビですか? なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日経BP)を抜粋・編集したものです。

東京メトロ南北線東大前駅(東京都文京区)で5月7日、大学生の男性が刃物で切り付けられた事件で、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された無職の男性(43)は、動機について「東大を目指す教育熱心な親たちに度が過ぎると、私のように罪を犯すことを世間に示したかった」と供述したという。

歪んだ犯行の背景は、起訴されれば刑事裁判のなかで一定程度明らかにされることだろう。

3年前にも、試験会場の東大前で受験日に人を刺した事件があった。当時高校2年の少年は「東大理3」志望を公言したが、追い詰められていた。裁判の場で、少年の両親は「勉強ばかりしていて心配だった」と悔やんだのだった。

※本稿は、日本経済新聞の「揺れた天秤」取材班著『まさか私がクビですか? なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日経BP)を抜粋・編集したものです。

●進学校に通っていた少年「人を殺せば罪悪感で自殺できると思った」

2022年1月15日、都心は朝から冷え込み、空はうっすら雲がかかっていた。午前8時半ごろ、高校3年だった女性は大学入学共通テストを受けるため、会場の東京大に向かって歩いていた。セーターにジャンパーを重ね着し、マフラーを巻いて寒さ対策は万全だった。

キャンパス前で突然、体に衝撃を感じた。走り去る学生服姿が見えた。リュックサックと服を貫通するほどの力で背中を刺され、その場に倒れ込んだ。

女性を含む3人に対する殺人未遂などの疑いで逮捕されたのは、名古屋市内の進学校に通う少年。法廷では凶行に及んだ理由を「人を殺せば罪悪感で自殺できると思った」と語った。何にそこまで追い詰められていたのか。

●中学の塾の仲間はみんな合格なのに「自分だけ落ちた」

法廷供述によると、少年は中学2年の頃、世界で活躍する医師をテレビ番組で見て憧れを抱いた。好きな漫画などを断って勉強にのめり込み、呼応するように成績は伸びた。3年時に学年で1桁台の順位をとり、通っていた塾から愛知県外の進学校の受験を勧められた。これが結果的にターニングポイントとなった。

県外高はすべて不合格で、県内の進学校に通うことになった。塾の仲間は全員が一緒に受けた県外の高校に受かっていた。

「自分だけ落ちたという醜態、失態が許せなかった。汚名返上、名誉挽回をしたいという気持ちになった」。医学部に進む東京大理科3類の合格を自分に誓った。

「理3に行く」。高校入学時、少年はクラス全員の前で宣言した。当時のクラスメートは「ひとりひとりに使っている参考書を聞いて回っていた。印象に残っている」と振り返る。休み時間も勉強していたという。

●睡眠2時間…眠くなるとカッターで傷つけ勉強「理3を諦めたら負け犬とばかにされる」

2年に進級した頃、睡眠は2時間ほどになっていた。起きているほとんどの時間は勉強に充てた。眠くなったときはカッターナイフなどで自分の体を傷付けた。

周囲も同じように受験勉強に力を入れだすと学内の順位はみるみる落ちた。勉強しても一向に上がらない。両親や担任は志望校の再考や文系への転向を促した。その方がいいと頭で理解しつつ「理3を諦めたら周りに負け犬だとばかにされる」と考えた。

成績が伸び悩む自分を許せなくなった。2年の冬には「偏差値70以下は人間じゃない」と父親に話すほどに思い詰めていた。後に精神鑑定に携わった専門家は「勉強からどう逃れようか苦しさが垣間見える時期だった」と分析した。少年は自殺と家出を考えるようになり、1カ月後、事件を起こした。

●法廷の両親「勉強ばかりして心配だった」「もう少し気にかけてあげられれば」

事件を起こす前、自分の学歴や収入をあげるためなら他人は蹴落とす対象だと捉えていた。逮捕後も拘置所内で開いたのは参考書だった。「自分には勉強しかない」。罪を償うため、稼げる職業につくには学力が必要だと考えていた。

検察側は懲役7年以上12年以下の不定期刑を求刑。弁護側は保護処分を求めた。更生を願っていたのだろうか。「周りからの救いがあれば事件を起こさなかったのではないか」と投げかける裁判員もいた。

法廷で証言に立った両親は、進学先や将来の職業について強要したことはなく、息子の内心は事件後に初めて知ったと明かした。「勉強ばかりしていて心配だった」「もう少し気にかけてあげられれば」と悔やんだ。

●裁判長「勉強以外のものさしを」少年「素直に生きたい」

「勉強以外にも人を測る『ものさし』を考えてみてください」。被告人質問でそう諭した裁判長は23年11月の判決公判で「正面から向き合って、改善する努力をしてください。人生に対する希望を見つけて、社会復帰してほしい」と説諭した。判決は懲役6年以上10年以下の不定期刑。閉廷後、少年は背中を曲げ、頭を下げ続けた。

「虚栄心や功利、学歴で自分を押し殺したり、自分の価値を決めたりせず素直に生きていきたい」。最終意見陳述で嗚咽をもらしていた少年。価値観を変えるのは勉強よりも難しいかもしれない。視野を広げるために周囲や社会がどう関われるのか。事件はそんな教訓も残した。

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