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「あいさつできていない」で7キロ徒歩移動 高校バスケ部顧問の「置き去り指導」に法的問題は?
2025年09月04日 17時26分
#不適切指導 #部活動 #佐久長聖

長野県佐久市の佐久長聖高校で女子バスケットボール部の顧問を務める女性教諭が、新潟市での練習試合の際、部員10人をバスに乗せず7キロ歩かせていた問題が波紋を呼んでいます。

共同通信などが報じたところによると、教諭はしっかりするように指導している日常のあいさつが「できていなかったため」、宿泊先から対戦相手の高校まで徒歩で移動させたといいます。

また、帰路では生徒1人がバスに乗車せず新幹線で帰宅していたことも判明しています。学校側は教諭を厳重注意処分としたそうですが、この指導方法には法的な問題はなかったのでしょうか。教育現場での懲罰的指導の境界線について考えます。

長野県佐久市の佐久長聖高校で女子バスケットボール部の顧問を務める女性教諭が、新潟市での練習試合の際、部員10人をバスに乗せず7キロ歩かせていた問題が波紋を呼んでいます。

共同通信などが報じたところによると、教諭はしっかりするように指導している日常のあいさつが「できていなかったため」、宿泊先から対戦相手の高校まで徒歩で移動させたといいます。

また、帰路では生徒1人がバスに乗車せず新幹線で帰宅していたことも判明しています。学校側は教諭を厳重注意処分としたそうですが、この指導方法には法的な問題はなかったのでしょうか。教育現場での懲罰的指導の境界線について考えます。

● 犯罪が成立する可能性は低い

まず、部員10人をバスに乗せなかった点について、遺棄罪(刑法217条)が成立するか問題となりますが、結論としては成立しません。

なぜなら、「遺棄」は、生命・身体への危険が生じるようなものである必要があるのですが、本件では宿泊先に置き去りにしているため、生命や身体への危険は生じていないからです。

たとえば宿泊先から目的地までが非常に遠く、交通手段もないとか、猛暑や極寒の中を何時間も歩かなければならないようなケースであれば話は別ですが、本件では7km離れた対戦相手の高校まで歩かせた、ということです。バスケットボール部の女子高生であれば十分歩けるでしょうし、生命・身体への危険が生じるとはいえないでしょう。

なお、仮に、置き去りにされたのが幼児だった場合には、遺棄罪が成立する可能性はあります。

1人の部員を新幹線で帰宅させた点についても、特に生命・身体への危険が生じたとはいえないため、遺棄罪は成立しません。

他の犯罪行為、たとえば強要罪(刑法223条)なども、事情にもよりますが普通は成立しないと思います。強要罪の成立には暴行または脅迫が必要ですが、本件で顧問が生徒に暴行を加えたり、脅迫した事情は今のところ(9月4日現在)確認されていません。

●民事上の責任を問われるリスクはある

刑事責任を問われないとしても、民事責任を問われる可能性はあります。

顧問が部活動で生徒に同伴して出かけた場合、生徒の安全に配慮する民事上の義務があると考えられます。生徒を置き去りにすることが直ちに生命・身体に対する危険を生じさせなくとも、解散場所まで安全に送り届ける義務はあると考えられます。

したがって、生徒を置き去りにすることはこのような義務に反していると考えられます。

本来バスに乗せるべきだった生徒を乗せないことで、生徒が新幹線代の出費を余儀なくされたのであれば、顧問や学校側は、新幹線代分の損害を賠償する必要があると考えられます。

また、これらの「置き去り」が、懲罰として行われた場合に、行きすぎた指導としてハラスメントにあたる可能性があります。

今回のケースでは、使用者と労働者の関係ではありませんが、教師による不適切指導もハラスメントとして扱われることがあります。

パワハラの定義は、大まかにいえば、1)優越的な地位に基づくもので、2)教育的指導としての必要性・相当性を欠くものであり、3)相手に身体的・精神的な苦痛を与えること、と考えられています。

生徒をバスに乗せずに置き去りにすることは、これらを満たすといえそうですから、特にそのような措置が必要である事情が認められない限り、パワハラにあたると思われます。

なお、7kmという距離は、バスケットボール部の女子高生の体力を考えればそれほど大した距離ではなく、十分に歩けるため、教育的指導として相当な範囲を超えないという反論も考えられます。

たしかに距離だけを見れば、バスケ部の女子高生にとってはそれほどたいしたことがないかもしれません。しかし、置き去りという措置は「見せしめ」としての要素が強く屈辱的であり、教師に見捨てられたという恐怖を与えるものといえます。

このような措置が教育として必要・相当とは考えにくく、そのような反論は成り立たないと考えます。

したがって、顧問や学校側は、不法行為に基づく損害賠償責任を負い、慰謝料などを請求される可能性があります。

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