15006.jpg
生活保護と「働く能力」の関係は? 糖尿病と腰痛の「高齢男性」2審も勝訴
2015年07月30日 19時25分

糖尿病や腰痛を抱える静岡市内の高齢男性(70)が「体調不良で働ける状況にないのに、働く意思がないとして、生活保護を停止されたのはおかしい」として、静岡市を相手取って停止処分の取り消しを求めていた裁判で、東京高裁(青野洋士裁判長)は7月30日、処分取り消しを命じた1審判決を維持し、静岡市の控訴を棄却する判決を下した。

糖尿病や腰痛を抱える静岡市内の高齢男性(70)が「体調不良で働ける状況にないのに、働く意思がないとして、生活保護を停止されたのはおかしい」として、静岡市を相手取って停止処分の取り消しを求めていた裁判で、東京高裁(青野洋士裁判長)は7月30日、処分取り消しを命じた1審判決を維持し、静岡市の控訴を棄却する判決を下した。

●男性は「働く能力」を活用していたか?

生活保護法では、生活保護を申請する人が生活維持のために「資産や能力を活用していること」が、保護を受けるための条件となっている。今回の裁判では、男性が「能力」を活用していたかどうか、男性が働いてお金を稼げる能力(稼働能力)があったのかどうかが、争点となっていた。

静岡市葵福祉事務所は、男性が就労指示に従わず、真面目に就職活動をしなかったなどとして、男性が稼働能力を活用していないと認定。2009年4月29日に生活保護を停止した。

一方、男性側は、その当時64歳で、3社の面接を受けたが雇ってもらえなかったことや、医師から「病気のために就労できない」と診断されていたこと、ハローワークでも「身体を治してから来て」と言われたことなどを主張。稼働能力を活用していたから、生活保護を受ける権利があったと訴えていた。

1審の静岡地裁や2審の東京高裁は、男性の主張を受け入れ、「積極的な求職活動が認められる」として、静岡市の福祉事務所の生活保護停止処分を取り消すよう命じた。

●3年前から流れが変わってきた

この裁判は、2010年4月1日に提訴されたということもあり、支援者らの間では「静岡エイプリルフール訴訟」と呼ばれていた。

この訴訟を支援してきた静岡大学の笹沼弘志教授によると「稼働能力」を理由にした生活保護の却下・停止をめぐる裁判は、同時期にいくつか起きているが、2012年に控訴審判決が出た通称「新宿七夕訴訟」から流れが変わってきたという。

笹沼教授は「稼働能力は客観的に図るのが難しいため、以前は福祉事務所のさじ加減で、保護を打ち切る口実として利用されていた。しかし、一連の裁判によって、『稼働能力』を理由にして生活保護を停止するためには、『稼働能力が活用されていないこと』を福祉事務所の側が証明しないといけない、という流れになったと思う」と指摘していた。

弁護団長の望月正人弁護士は「まだ静岡市側が最高裁に上告する可能性も残っているので、判決が確定するまで安心できない。ただ、保護停止が違法だという1審判決が維持され、勝訴できたことはよかった」と話していた。原告の男性は「判決確定後に大喜びしたいと思います」と話していた。

一方、静岡市の田辺信宏市長は「本市の主張が一部認められなかったことは非常に残念です。今後の対応につきましては、判決の内容を十分検討したうえで決定したいと考えております」というコメントを発表した。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る