職場の机の引き出しに入れていた「ポッキー」がある日なくなっていた──。こんな内容の投稿がXで注目を集めました。ポッキーは同僚が勝手に食べていたそうです。
この投稿を受けて、同僚に私物を勝手に持って行かれてしまった人たちによる怒りの体験談が相次ぎました。
「机の上にインスタントコーヒー置いていたら、こっそり飲まれていた」 「引き出しの中に置いてあった頭痛薬を無言で箱ごと持っていかれた」
さらには「箱ティッシュ」を勝手に使われたという人もいました。高級ティッシュとして知られる「鼻セレブ」だったそうです。
こうした投稿に対して「勝手に他人の引き出しを開けるとか信じられない」「職場の食い尽くし系?」「ただの犯罪では?」といった批判も上がっています。
一つひとつの金額は小さいかもしれませんが、私物を勝手に持っていかれた人たちは釈然としないようです。こうした被害に「打つ手」はないのでしょうか。竹内省吾弁護士に聞きました。
●お菓子を無断で食べれば窃盗罪だが…
——職場で他人のお菓子を無断で食べたり、頭痛薬を勝手に持ち去る行為は、窃盗罪などの罪に問われる可能性はありますか。
お菓子を無断で食べる行為や頭痛薬を勝手に持ち去る行為は窃盗罪(刑法235条)に該当します。
ただし、犯罪に該当はするものの、実際に起訴されて前科がつくかというと、程度次第ですが、可罰的違法性がないと判断されて起訴されず、前科がつかないケースが多いと思います。
「ポッキー1袋、机にポンと置かれていたものを、ほんの一回食べてしまい、バレたあとその同僚にお詫びにプレミアムポッキーをプレゼントして受け入れてもらった……」といったようなケースでは、起訴されることは少ないでしょう。
一方で、数千円から数万円するような高級お菓子を同僚の引き出しの中から頻繁に持ち去るなどといったケースでは、起訴される可能性は十分にあります。
●同僚に損害賠償請求できる?
——盗まれたものが少額でも、盗んだ同僚に対して、損害賠償請求は可能なのでしょうか。
盗んだものがポッキー1袋など少額であっても、同僚には不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)が生じますので、請求することが可能です。
しかし、非常に少額ですので、同僚が任意の支払いに応じない場合、少額訴訟などの手続きをすることは現実的ではないでしょう。
執拗に窃盗を繰り返すような場合や、ことさら緊急性・必要性の高い薬を盗んでいくなど、嫌がらせ目的と取れるような場合には慰謝料の請求もあり得ます。ただ、それでもせいぜい数万円程度が見込まれ、高額になるのは稀です。
●会社に「職場環境を安全に保つ義務」がある
——こうした私物を勝手に持って行かれることを上司に相談したところ、「取られる方も悪い」と言われた人もいるそうです。従業員からこうした被害の相談があった場合、会社には何か対応する義務などはありますか。
取られるほうは悪くありませんよね。
会社としては、安全配慮義務(労働契約法5条)により、職場環境を安全に保つ義務があります。窃盗がおこなわれるような職場の秩序を改善し、維持する義務が会社にはあるといって良いでしょう。
具体的な対応としては(1)十分なヒアリング(2)行為者の特定(3)再発防止に向けた私物管理のルール作り(4)その周知──です。
刑事処罰や賠償請求が難しい場合でも、会社が適切に対応すれば、被害の再発を防ぎ、職場環境を守れます。