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司法修習の給費制廃止により、弁護士や裁判官が多重債務者に?
2012年09月30日 07時25分

弁護士や裁判官、検事を目指し、司法試験合格後に司法研修所などで約1年間の修習を行なう司法修習生について、これまで修習期間中は国家公務員に準ずる立場として毎月給与が支給されてきた(給費制)が、2011年11月より給費制が廃止され、返済が義務付けられる貸与制になった。

司法修習生には修習に専念する義務があり、副業やアルバイトは禁止されている。つまり修習期間中は自ら収入を得ることが難しいので、蓄えがあるか収入がある配偶者がいるなどの条件を備えていない限り、生活費は貸与制を利用して国から借りることになるということだ。

なお、この貸与は司法修習生なら無条件に認められるわけではなく、貸与を受けるためには連帯保証人を2名揃えるか、信販会社オリエントコーポレーション(オリコ)の保証制度を利用する必要がある。

連帯保証人については年収や資産の条件があり、例えば両親を連帯保証人にしようとしても、どちらかが働いていない場合は条件を満たさずに認められない可能性が高い。連帯保証人を揃えられなければオリコの保証制度に頼るほかないが、この保証制度の利用にあたっても審査があるようだ。

いずれにせよ、貸与された金額については返済する義務があり、法科大学院(ロースクール)に通った後に司法試験に合格した人の場合、ロースクールの学費ローンとあわせて、弁護士や裁判官になった時点で多額の借金を抱えた状態に陥っているようなことが現実的に起こりうる。

それではもし弁護士や裁判官になったものの、その後修習期間中に国から貸与された金額を返済することが難しくなってしまった場合には、どのようなことが起きるのか。荒川和美弁護士に聞いた。

●弁護士、検事、裁判官が多重債務者になる可能性も

「連帯保証人を揃えて貸与を受けた場合、本人の返済が滞れば連帯保証人に対して保証債務の履行が求められることになります。連帯保証人が支払をすれば、貸与を受けた本人は、連帯保証人に対して求償債務を負うことになります。通常、親族は、訴訟などによって本人に対し強硬な請求はしないと思われますが、そうでない場合は取立訴訟の事態もあり得ます。」

「オリコの保証制度の場合は、同社が保証債務を本人に代わって弁済するわけですが、当然、貸与を受けた本人に対して求償権を行使することになるでしょう。その支払が困難であれば、債務整理や、別の金融機関からの借り入ということになり、場合によっては、消費者金融から借り入れる人も出てくるでしょう。つまり、弁護士や裁判官が多重債務者となってしまうのです。」

●貸与された金額を返済できなければ資格を失うことに

「返済不能となれば、自己破産という事態もあり得ます。そうなれば、一時的にしろ法曹資格を失うことになります。資格を失っている間は事件処理ができないため、懲戒となる人も出るかも知れません。裁判官であれば免職となるでしょう。」

「そうした事態の被害者は、貸与を受けた本人のみならず、国民でもあります。このような事態を避ける防止策を検討すべきでしょう。」

●お金のない相談者が救済されなくなる?

給費制の廃止についてはこれから司法試験を受ける世代だけでなく、現役の弁護士や有識者からも反対の意見が根強くあり、「金持ちしか弁護士になれなくなる」「弁護士になった時点で高額な借金を抱えていれば、利益の低い案件に対応することができなくなるので、お金のない相談者が救済されない」といった懸念も示されている。

決して弁護士や裁判官を目指すものだけに関わる話ではなく、巡り巡っては一般市民への法律サービスに影響を与える問題なので、ぜひ多くの方々に関心をもっていただきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

※本記事は情報サイト『Business Journal』との共同企画です。

弁護士や裁判官、検事を目指し、司法試験合格後に司法研修所などで約1年間の修習を行なう司法修習生について、これまで修習期間中は国家公務員に準ずる立場として毎月給与が支給されてきた(給費制)が、2011年11月より給費制が廃止され、返済が義務付けられる貸与制になった。

司法修習生には修習に専念する義務があり、副業やアルバイトは禁止されている。つまり修習期間中は自ら収入を得ることが難しいので、蓄えがあるか収入がある配偶者がいるなどの条件を備えていない限り、生活費は貸与制を利用して国から借りることになるということだ。

なお、この貸与は司法修習生なら無条件に認められるわけではなく、貸与を受けるためには連帯保証人を2名揃えるか、信販会社オリエントコーポレーション(オリコ)の保証制度を利用する必要がある。

連帯保証人については年収や資産の条件があり、例えば両親を連帯保証人にしようとしても、どちらかが働いていない場合は条件を満たさずに認められない可能性が高い。連帯保証人を揃えられなければオリコの保証制度に頼るほかないが、この保証制度の利用にあたっても審査があるようだ。

いずれにせよ、貸与された金額については返済する義務があり、法科大学院(ロースクール)に通った後に司法試験に合格した人の場合、ロースクールの学費ローンとあわせて、弁護士や裁判官になった時点で多額の借金を抱えた状態に陥っているようなことが現実的に起こりうる。

それではもし弁護士や裁判官になったものの、その後修習期間中に国から貸与された金額を返済することが難しくなってしまった場合には、どのようなことが起きるのか。荒川和美弁護士に聞いた。

●弁護士、検事、裁判官が多重債務者になる可能性も

「連帯保証人を揃えて貸与を受けた場合、本人の返済が滞れば連帯保証人に対して保証債務の履行が求められることになります。連帯保証人が支払をすれば、貸与を受けた本人は、連帯保証人に対して求償債務を負うことになります。通常、親族は、訴訟などによって本人に対し強硬な請求はしないと思われますが、そうでない場合は取立訴訟の事態もあり得ます。」

「オリコの保証制度の場合は、同社が保証債務を本人に代わって弁済するわけですが、当然、貸与を受けた本人に対して求償権を行使することになるでしょう。その支払が困難であれば、債務整理や、別の金融機関からの借り入ということになり、場合によっては、消費者金融から借り入れる人も出てくるでしょう。つまり、弁護士や裁判官が多重債務者となってしまうのです。」

●貸与された金額を返済できなければ資格を失うことに

「返済不能となれば、自己破産という事態もあり得ます。そうなれば、一時的にしろ法曹資格を失うことになります。資格を失っている間は事件処理ができないため、懲戒となる人も出るかも知れません。裁判官であれば免職となるでしょう。」

「そうした事態の被害者は、貸与を受けた本人のみならず、国民でもあります。このような事態を避ける防止策を検討すべきでしょう。」

●お金のない相談者が救済されなくなる?

給費制の廃止についてはこれから司法試験を受ける世代だけでなく、現役の弁護士や有識者からも反対の意見が根強くあり、「金持ちしか弁護士になれなくなる」「弁護士になった時点で高額な借金を抱えていれば、利益の低い案件に対応することができなくなるので、お金のない相談者が救済されない」といった懸念も示されている。

決して弁護士や裁判官を目指すものだけに関わる話ではなく、巡り巡っては一般市民への法律サービスに影響を与える問題なので、ぜひ多くの方々に関心をもっていただきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

※本記事は情報サイト『Business Journal』との共同企画です。

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