マンガの海賊版サイトをめぐり、大手出版社4社が米CDNサービス大手「クラウドフレア」に損害賠償を求めていた訴訟で、東京地裁は11月19日、同社の著作権侵害の幇助を認め、総額約5億円の賠償を命じた。
判決を受け、クラウドフレアは同日、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、控訴する方針を示し、「結論には敬意を払いつつも異議を唱える」と強く反論した。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●クラウドフレアが海賊版サイトにCDN提供
訴えていたのはKADOKAWA、講談社、集英社、小学館。判決によると、クラウドフレアは、人気マンガ「ONE PIECE」や「進撃の巨人」などを無断で配信していた海賊版サイトに対し、自社のCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)サービスを提供。出版社側が2020年〜2021年にかけて著作権侵害の通知を送ったにもかかわらず、サービス提供を停止しなかったため、著作権侵害の幇助があったと認定された。 対象サイトは、最盛期(2022年1月)に月間3億アクセスを超え、4000作品・12万話以上を無断配信していた巨大海賊版サイト。出版社側は、クラウドフレアのサービス提供が「運営者の匿名性維持」や「大量配信の継続」を可能にし、被害拡大を招いたと主張していた。
●クラウドフレア「中立的なサービスで削除権限はない」
判決を受け、クラウドフレア社は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、東京地裁の判断について、「この複雑な事案の審理・判断に多大な時間と労力を費やした東京地裁の尽力に感謝すると同時に、判決の結論に対して敬意を表しながらも異議を唱えます」と述べた。
また、判決についての声明も公表。「クラウドフレアのCDNは、中立的なパススルー・サービスであり、削除権限はない」「技術的媒介者への過度な責任追及は、国際的なデジタル基盤の根幹を揺るがす」など、持論を述べた。
一方で、「引き続き、海賊版サイト対策への協力は惜しまない」との意向も示した。
●クラウドフレアによる声明全文
・クラウドフレアのCDNは、中立的なパススルー・サービスです。
当社のCDNサービスは、主にデータを配信するものであり、コンテンツをホスティングするものではありません。CDNは、自らがホスティングしていないインターネット上のコンテンツを制御したり削除することはできません。CDNサービスが停止されても、コンテンツはホストサーバーに残り続けます。そのため、問題のあるコンテンツを制御したり削除する能力を有するのは、ウェブサイト運営者とホスティング事業者です。
・技術的媒介者に対する本判決は、世界的に問題のある先例となります。
クラウドフレアのようなCDNが、ホスティングしていないコンテンツについて法的責任を負うということは、グローバルなインターネットの成長を支えてきた責任制限を取り除くことになります。本判決の判断は世界初であり、日本国内のみならず世界全体において、インターネットの効率、セキュリティ、信頼性にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
・本判決は透明性、公平性、適正手続を揺るがします。
クラウドフレアが法的責任を負わないためには、独立した裁判所からの正式な命令ではなく、通知に基づいてウェブサイトに対するCDNサービスの提供を停止することが必要となり、濫用の可能性が大幅に高まります。
・本件は日本の司法がデジタル・イノベーションの促進を支えるかが問われた裁判でした。
本判決は、日本の技術的成長を促進するという立法趣旨とは相容れないものであり、日本の新興テクノロジー企業の技術革新を阻害するリスクがあります。
・クラウドフレアは引き続き海賊版対策への協力を惜しみません。
クラウドフレアは著作権を重要視しています。透明性、一貫性、衡平性のある解決策を見出すことができるように、権利者や政府を含むすべてのステークホルダーと共に海賊版対策の支援に取り組みます。
クラウドフレアは、世界中の数百万の顧客にサービスを提供しており、Fortune 500企業の38%が当社の有料プランを利用しています。また、小規模企業やサイバー攻撃への耐性が低い公的団体も、インターネットの資産を加速化しつつも守るためにクラウドフレアのサービスを頼っています。迅速で安全かつオープンなインターネットを支える法的原則を守るというクラウドフレアのコミットメントに変わりはありません。クラウドフレアは、オープンで安全なインターネットに不可欠である責任制限の存続を求めて控訴する予定です。