16118.jpg
「マスク・消毒液の転売禁止」処罰難しい? 初の検挙に疑問の声、第二波までに法改正を
2020年05月27日 10時19分

新型コロナウイルス問題で、マスクを取得価格よりも高く転売することが3月から禁止された。以後約2カ月、検挙者は出なかったが、5月22日になって、およそ倍額で転売したとして、三重県の衣料品販売会社の社長が書類送検された。

報道によると、ネットで購入したマスク1000枚(1枚およそ80円)を、5枚セット税込み770円(1枚あたり154円)で店の客に転売した疑いがあるという。容疑を認めているそうだ。

法令上は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性がある。

しかし、行政法にくわしい平裕介弁護士は、「仮に起訴しても、裁判所が犯罪成立に必要な『物価要件』を満たさないと判断する可能性があるだろう。現行法で罰するのは難しいのではないか」と疑問を呈する。

新型コロナウイルス問題で、マスクを取得価格よりも高く転売することが3月から禁止された。以後約2カ月、検挙者は出なかったが、5月22日になって、およそ倍額で転売したとして、三重県の衣料品販売会社の社長が書類送検された。

報道によると、ネットで購入したマスク1000枚(1枚およそ80円)を、5枚セット税込み770円(1枚あたり154円)で店の客に転売した疑いがあるという。容疑を認めているそうだ。

法令上は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性がある。

しかし、行政法にくわしい平裕介弁護士は、「仮に起訴しても、裁判所が犯罪成立に必要な『物価要件』を満たさないと判断する可能性があるだろう。現行法で罰するのは難しいのではないか」と疑問を呈する。

●要件は「マスクの価格」ではなく「物価」の高騰

高額転売禁止の根拠になっている法律は、オイルショックを受けて、1973年につくられた「国民生活安定緊急措置法」だ。不足する物資などを政令で指定し、譲渡の禁止などを定めることができる。

コロナ問題を受け、政府は政令を改正し、3月15日からマスクを規制対象にした。

転売禁止の仕組み。経産省の資料から(https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200310002/20200310002-1.pdf

ただ、根拠となっている同法26条1項では、「物価が著しく高騰し又は高騰するおそれがある場合において」という条件(要件)がついている。

「ここで問題になっているのは、マスクなど個々の『物資の価格』ではなく『物価』です。同法3条でも、この2つは明確に書き分けられています。

現状では客観的にみて『物価が著しく高騰・・・するおそれがある』状態というまでには至っていないと裁判で判断される可能性もあると思います」(平弁護士)

法制定時の状況はどうだったのか。参考指標の1つとして、消費者物価指数をみると、1973年は前年比11.7%、1974年は23.2%と大幅に上昇している。一方、2020年4月は前年同期比で0.1%の上昇でしかない。

「著しい物価の高騰のおそれという物価要件が本当に認められるのかが1つのポイントになると思います。物価要件(同法26条1項)の規定の仕方(文言)や、罪刑法定主義(同法37条等)の観点からも、物価要件は厳格に解釈・適用されるべきでしょう」(平弁護士)

●転売禁止、法改正で明確にすべき

コロナ問題では、アルコール消毒液などの転売も5月26日から規制された。

しかし、平弁護士が指摘するように「物価」が要件であれば、現行法下では捜査されることはあっても、処罰までは難しいということにもなりそうだ。

5月下旬になって、マスク転売での検挙報道が出てきたのは、アルコール消毒液の転売禁止に先駆けた「牽制」という側面があるのかもしれない。

「物資が行き渡るようにすることは大切ですが、他方で転売をする経済的自由の方を無視するわけにもいきません。

法治主義国家ですから、物価要件を満たすかという判断は捜査段階においても慎重に検討されるべきです。そのような検討がなされず、いわば『脅し』が目的となってしまうような捜査は、もちろん、やってはいけないことです。

急を要するなどの事情から、政令改正での対応になったのかもしれません。ただ、第二波、第三波が予想されることを考えれば、財産権など憲法問題を議論したうえで、法律の改正で早期に対応するのが妥当ではないかと思います」(平弁護士)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る