民法改正により新たに導入される「法定養育費」について、法務省が省令案を取りまとめ、「月額2万円」とする方向で検討していると報じられている。
法定養育費とは、離婚時に養育費の取り決めをしなかった場合でも、法律上一定額を請求できる仕組みで、来年5月までに施行される予定だ。
しかし、この「2万円」という額に対しては、SNSで賛否が分かれている。
「この物価高に2万円は安すぎる」「お米5㎏が4000円を超える時代に生活できない」といった批判がある一方、「ゼロよりはまし」「2万円以上になると支払えずに生活が破綻する人もいるのでは」といった意見も見られる。
法務省の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「この制度は養育費の最終的な基準額を決めるものではなく、あくまで暫定的なセーフティーネットだ」と説明する。
では、なぜ「2万円」になったのか。法務省に詳しく聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●「養育費が決まるまで暫定的なもの」
──「法定養育費」とはどのような制度なのでしょうか。
本来、養育費は父母の収入や子どもの年齢など、個別の家庭の事情を踏まえて適正な額が定められるべきものです。しかし、取り決めには時間を要することがあり、これまではその間、「養育費がゼロ」という状況もありました。
それでは子どもの養育にとって厳しい状況になるため、最低限度の生活を維持するセーフティーネットとして、法律で法律で一律に額を暫定的に定め、請求できるようにするのが趣旨です。
つまり、「法定養育費」は、養育費の取り決めがされるまでの暫定的・補充的な仕組みです。
●「一律のために低くせざるを得ない」
──なぜ2万円という金額になったのでしょうか。
金額の根拠については、改正民法の委任内容に基づいています。
法律では「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して、子の数に応じて、法務省令で定めるところにより算定した額」と規定されています。これを踏まえ、検討会では、多角的に検討をしました。
──検討会では具体的にどのような要素を考慮したのでしょうか。
実務で取り決めされている養育費の額、生活保護基準の算出方法、ひとり親家庭の消費支出データなどを参考にしました。ひとり親家庭が受給できる児童手当や児童扶養手当などの給付も考慮しています。その結果、月額2万円が相当であると判断しています。
収入など、個別の事情を考慮しないため、実際に最終的に定められる適正な額よりも、ある程度低く設定せざるを得ません。そういった趣旨から、月額2万円が相当であると判断しています。
●「養育費の標準を定めるものではない」
──「2万円」という額に大きな反響が出ています。
法定養育費が、あたかも養育費の基準のように誤解されている報道も見受けられます。
本来の制度趣旨が省かれて、「法定養育費」というキーワードだけが一人歩きし、養育費の標準を法律で定めたというように誤解されやすい気がします。
この制度は、収入などを考慮したうえでの取り決めが速やかにされるのが望ましいのですが、その取り決めがされるまでの暫定的なもので、離婚したときからすぐに請求できるという制度です。この点について誤解がないように伝わればと思います。
あくまでも本来の養育費の取り決めは、個別の事情を踏まえて適正化されるべきものであり、「2万円で足りる」とか「2万円で生活してください」というような標準を定めたものではありません。
──今後、金額が変わる可能性もあるということでしょうか。
はい、現時点では案にとどまります。これからパブリックコメントの手続きをおこない、いただいたご意見も踏まえたうえで決定に至るというプロセスです。 パブリックコメントについては9月から1カ月間を予定しています。