日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は5月20日、週刊文春で「トリプルボギー不倫」が報じられた選手と不倫相手だったキャディーの男性らに対する処分を発表した。
協会は3人の選手を「厳重注意」とし、男性は「9年間のJLPGAツアー競技又は弊協会に関連するイベント等の会場への立ち入りの禁止」とした。
男性に下した処分の理由について協会は「JLPGAツアーはシード権等一定の出場資格を有する者同士が年間を通じて競い合うものであり、出場資格を有する者同士の紛争は一般的な団体に比べ弊協会の秩序に与える影響が大きいこと」に加えて、「弊協会の会員の配偶者でありながら、弊協会の他の複数の若年の会員に対して積極的に働きかけたことにより引き起こされたこと、酌むべき事情が特にないことなどの諸事情を総合考慮した」と説明する。
男性は自身のものとされるSNSを通じて「大変申し訳ありませんでした」と謝罪している。ネットやSNS上では、処分を妥当だとする意見もあるが、一方で「事実上の追放」ともされる処分を「重すぎる」とみる向きもある。
男性キャディーに対する処分をどのように捉えるべきなのか。労働問題にくわしい笠置裕亮弁護士に聞いた。
●協会がキャディーに下した処分には契約上の根拠がある
——男性キャディーに対する処分が妥当かどうかをどのように考えればよいのでしょうか。
今回の処分は、日本女子プロゴルフ協会が会員やキャディーらサポートスタッフに対して有する懲戒権限に基づいて行われたものです。
懲戒権は、組織が組織内の秩序を維持するために認められた権限です。これに基づき行われる懲戒処分が有効とされるためには、(1)契約上の根拠があること、(2)(行為の性質及び態様その他の事情に照らして)客観的に合理的な理由があると言えること、(3)社会通念上相当であると認められることが必要です。
協会は、会員やキャディーなどに対する懲戒規程を、ウェブサイト上で公開しています。その内容はかなり詳細なものであり、かつ合理的であるように思いますので、(1)契約上の根拠があると言えるでしょう。
問題となるのは、(2)と(3)です。
●私生活の非行について裁判所は懲戒処分の有効性を厳格に判断する
報道によれば、今回の処分の理由となった行為は、キャディーの男性が複数の女性選手と不倫関係を持ったことにあるようです。組織内の構成員同士の不倫関係は、当事者や親族同士では民事上の紛争になり得るでしょうが、組織に対する不正行為に該当するとは通常評価できません。
このような私生活上の非行に関しては、構成員のプライバシーを尊重する必要があることから、裁判所は懲戒処分の有効性を厳格に判断する傾向があります。
たとえば、タイヤ製造・販売会社の社員が深夜に酩酊し、住居侵入罪を犯したことで罰金刑を受けたことについて、会社が懲戒解雇とした事案に対し、最高裁は、私生活上の非行である上、科された刑罰も罰金刑であること等に照らし、懲戒解雇を違法無効と判断しています(横浜ゴム事件・最高裁昭和45年7月28日判決)。
●組織の秩序を乱したといえ、処分には合理的理由がある
週刊文春からの報道が出されたすぐ後に、協会は「協会としては選手の私生活については、必要がない限りは関与しません。しかし、事情を確認し、必要となれば、事実確認の調査を行い、適切な対応をすることを検討したいと思います」とのコメントを出していますが、これは私生活上の非行に対する裁判所の慎重な姿勢を汲んだものではないかと考えられます。
本件では、本来ゴルフ選手をサポートするべきキャディーが、会員の配偶者でありながら、自ら選手側に積極的に働きかける中で、複数の若年の選手との間で不倫関係を持ったという事情があります。
これは、私生活上の非行ではあり、かつ刑事罰の対象にはならないものの、協会の秩序を乱す行為には該当するものと考えられます。そのため、(2)は満たすものと思われます。
他方、9年間もの長期間にわたる立入制限という重い処分を科してよいかについては、慎重に考えるべきです。立入制限という処分は、サポートスタッフに対する処分の中で、3番目に重い処分です。(※)
(※)軽い順に、戒告、けん責、立入制限、資格又は登録の停止、資格又は登録の剥奪
かかる処分を、9年間もの長きにわたって科すということは、事実上の追放を意味するといってよいでしょう。
●結論として処分の内容は「重すぎる」
協会の懲戒規程4条には「3年を超える期間の処分又は無期限の処分を受けた者は、処分開始日から3年経過した後に、会長に対し処分解除申請書及び処分の原因と同種の行為を二度と繰り返さない旨の誓約書を提出し、処分の解除を申請することができる」と定められていますが、確実に解除がなされる保証などありません。
このキャディーの男性が不倫関係を持ち掛けたことが、セクハラに該当すると言えるのであれば、もはや私生活上の非行であるとは言えず、規律違反行為であることになり、追放となるような重い処分を科すことも認められるでしょう。
しかし、複数の選手が対象となっているとはいえ、私生活上の非行にとどまっている本件においては、重すぎる処分であるように思います。