先の参院選で15議席を確保し、大きな注目を集めた参政党。同党が発表した「新日本国憲法」草案は全33条と簡潔で、「日本人ファースト」のキャッチコピーを体現する内容だ。
一方で、「基本的人権」や「国民主権」といった現行憲法の根幹を成す規定が明示的に盛り込まれていない点に対し、危険性を指摘する専門家は少なくない。
憲法訴訟を多く手がける平裕介弁護士は「文言によっては、その一部でも実現すると危険」と警鐘を鳴らす。そのうえで、有権者に対しては「草案を読んだうえで投票先を決めてほしい」と呼びかけた。
●連立政権入りによるリスク
参政党は現時点で第一党には程遠いが、衆参ともに少数与党の状況では、現在の与党が野党の協力なしに予算や法律を成立させることは難しい。参院選で議席を大きく伸ばした参政党の存在感は、もはや無視できない。
平弁護士は「仮に参政党が連立政権に入れば、草案の条文の一部だけを憲法改正案に入れるよう求める可能性は十分にある」と指摘。さらに「文言によっては、その一部だけでも実現すれば危険だと言わざるを得ない」と指摘した。
では、なぜ危うさを含む憲法草案が一定の支持を得るのか。その背景には「憲法を一から作る」という発想が、歴史的にみて、日本人の気質に合致している面があるからだという。
明治初期、大日本帝国憲法の公布前には、市民が独自に憲法を起草する「私擬憲法」が数多く生まれた。中でも、国民の権利を盛り込んだ「五日市憲法」は代表例だ。
改正ではなくゼロベースから作る『創憲』を重視した点について、平弁護士は「日本人の気質を理解して戦略的に草案を作っており、侮れない」と分析する。
さらに、草案には「尊厳」などのリベラルな文言も盛り込まれており、時間の限られた記者会見などで「独裁的な内容ではない」と一応反論できてしまうような構成になっている面があると指摘した。
●冒頭の国歌に隠された仕掛け
草案の冒頭には「国歌」の歌詞が記されている。平弁護士は「大半の憲法の専門家では、この発想はできないだろう」と評する。
他方で「多くの人が入学式や卒業式で国歌斉唱を経験している。生活に馴染みがある題材を冒頭に置いて、広く共感を得られるように作っているのではないか」と分析した。
このように、あえて専門家が想定できないような手法で「独自の憲法を一から作っている」というアイデンティティを前面に打ち出したことが、支持者の結束につながっている面があると考えられるという。
●有権者には「草案をちゃんと読んでほしい」
平弁護士は「草案を実際に読んだ有権者はそれほど多くないのでは」とも指摘する。
憲法は遠い存在に思われがちだが、表現の自由をはじめとする個人の基本的人権に関することなど、実は、一人一人の日常生活に直結するルールを定めている。
次期衆院選や自民党の総裁選を控え、再び参政党の政策や憲法草案に大きな注目が集まることが予想される中、平弁護士は次のように強調した。
「憲法は社会の根本的なルール。憲法に関する政策提言は特に重要です。草案をちゃんと読んだ上で投票先を決めてほしい」