16580.jpg
「盗まれたほうも悪い」という盗人の「主張」 裁判所は認めてくれるか?
2013年11月19日 16時30分

"盗人猛々しい"とは、このことだろう。モネやピカソ、ゴーギャンといった歴史に名を残す画家たちの絵画を盗んで逮捕された男が、「しっかりした警備をしていなかった美術館側にも責任がある」と主張したというのだ。

報道によると、ルーマニア人のこの男は昨年、仲間とともにオランダの美術館に侵入し、絵画7点(約24億円相当)をわずか3分のうちに盗み出した。男は「あれほどの名画を手薄な警備のもとで展示しているとは思わなかった」と語り、彼の弁護人も美術館側を訴える可能性があるとしている。

保険会社から数億円に及ぶ損害賠償を請求されている男としては、美術館側の過失責任が認められれば、その賠償を分担してもらえると期待しているようだ。

もしこれが日本で起きた事件だった場合、盗んだ側の「盗まれたほうにも責任がある」という主張が認められる可能性はあるのだろうか。阿野寛之弁護士に聞いた。

"盗人猛々しい"とは、このことだろう。モネやピカソ、ゴーギャンといった歴史に名を残す画家たちの絵画を盗んで逮捕された男が、「しっかりした警備をしていなかった美術館側にも責任がある」と主張したというのだ。

報道によると、ルーマニア人のこの男は昨年、仲間とともにオランダの美術館に侵入し、絵画7点(約24億円相当)をわずか3分のうちに盗み出した。男は「あれほどの名画を手薄な警備のもとで展示しているとは思わなかった」と語り、彼の弁護人も美術館側を訴える可能性があるとしている。

保険会社から数億円に及ぶ損害賠償を請求されている男としては、美術館側の過失責任が認められれば、その賠償を分担してもらえると期待しているようだ。

もしこれが日本で起きた事件だった場合、盗んだ側の「盗まれたほうにも責任がある」という主張が認められる可能性はあるのだろうか。阿野寛之弁護士に聞いた。

●美術館にも「落ち度」はあったと言えそうだが・・・

「美術館としては、窃盗のターゲットにされやすい高価な美術品については、窃盗被害を避けるために万全の体制で警備を行っておくべきです。その意味では、美術館に落ち度が認められる可能性はあるでしょうね。

民法には、被害者にも過失がある場合に、加害者の損害賠償責任を減ずる『過失相殺(そうさい)』という制度があります。交通事故ではよく出てくる話ですね」

阿野弁護士はこのように説明する。過失相殺はどんな場合に適用されるのだろうか。

「この『過失相殺』ですが、加害者が故意に(わざと)損害を与えた場合でも、適用されることがあります。たとえば,被害者の挑発に乗り、殴ってケガをさせたような場合は、挑発した被害者にも過失があったとして、被害者の賠償金が過失相殺により減額されることがあります」

美術品を盗まれた際の被害にも、こういった過失相殺の考え方が応用できるのだろうか。

「今回は、盗人が美術館に対して『盗まれた方にも責任がある』と主張している、というケースです。日本の法律だと、この盗人の主張は、美術館にも『警備の落ち度』という過失があるから、『盗まれる方にも責任がある』、すなわち、『過失相殺』により美術館が請求する損害賠償を減額すべきだ、という主張になるでしょう」

●「損害の公平の分担」といえるか?

はたして、こうした主張は認められるのだろうか。

阿野弁護士は「結論から申し上げると、盗人の主張は、まず認められないでしょうね」と話す。それは、どうしてだろうか。

「民法では、不法行為における過失相殺の場合、たとえ被害者側に過失があったとしても、裁判所は、過失相殺をしてもいいし、しなくてもいいと規定されています。

民法の過失相殺は、『損害の公平な分担』という趣旨から認められた制度です。さっきの『挑発して殴られた』というケースも、『挑発があれば必ず過失相殺される』というわけではなく、挑発の内容・程度や加害者の暴行の程度等といったあらゆる事情を考慮して、『被害者にも損害を分担させた方が公平だ』と裁判所が判断すれば、過失相殺されるのです。

今回のケースでは、盗人を挑発しようとして、美術館が警備をゆるくしていたわけではないですよね。こういう場合に過失相殺を認めてしまうと、かえって『損害の公平な分担』にならなくなってしまうでしょう。第一、美術品は盗人が手中に収めてしまっていますしね」

結局のところ、こういった場合の過失相殺を認めるかどうかは裁判所の裁量しだいだが、裁判所が「盗人の言い分」を考慮するとは思えない、ということだろう。美術館側の落ち度があまりにも大きく、たとえば絵画と一緒に「持ってけドロボー」という立て札を立てていたような場合なら、話も変わってくるのかもしれないが……。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る