16601.jpg
NHKが要望「テレビ設置の届け出義務化」の意味 国民との信頼関係が壊れないか
2020年10月19日 16時49分

NHKがテレビなどの「受信設備」を購入したときの届け出義務化などの制度改正を求めている。背景にあるのは、外部委託の徴収員などにかかる多額の費用だ。NHKが10月16日の総務省の有識者検討会に提出した資料によると、年間305億円がかかっているという。

制度が改正されれば、ワンセグ・フルセグつきの携帯電話やカーナビでも届け出が必要ということになるだろう。ネットでは「スクランブルにすればいいのに」「テレビ離れが進む」など、NHKに批判的な声も多く見られる。

歴史的にみれば、届け出の義務化は放送法が成立する過程で削られたという経緯もあり、議論になりそうだ。

NHKの資料より

NHKがテレビなどの「受信設備」を購入したときの届け出義務化などの制度改正を求めている。背景にあるのは、外部委託の徴収員などにかかる多額の費用だ。NHKが10月16日の総務省の有識者検討会に提出した資料によると、年間305億円がかかっているという。

制度が改正されれば、ワンセグ・フルセグつきの携帯電話やカーナビでも届け出が必要ということになるだろう。ネットでは「スクランブルにすればいいのに」「テレビ離れが進む」など、NHKに批判的な声も多く見られる。

歴史的にみれば、届け出の義務化は放送法が成立する過程で削られたという経緯もあり、議論になりそうだ。

NHKの資料より

●GHQの反対に遭う

1950年に制定された放送法では、テレビなどの受信設備を持つ世帯や事業者は、NHKとの契約義務があると定めている(現64条1項)。NHKは法律を守るため、また活動を続けるために受信料を徴収していることになる。

ただし、支払い義務については放送法に記載はない。NHKの規約で定められているのみだ(規約5条)。

同様に放送法には届け出義務についても規定がなく、NHKの規約に「受信機を設置した者は、遅滞なく…放送受信契約書を…提出しなければならない」とあるだけだ(規約3条)。

だが、放送法の初期の草案では、支払い義務と届け出義務(当時は国を想定)はセットで規定されており、無届けの設置者に対する罰則もあった。

GHQの反対でなくなったと言われているが、その後の条文の変遷を見るに、強制的な表現を避けたいという意図もあったようだ。

●視聴者とNHKの関係はどうなる?

こうした受信料の仕組みは、視聴しているのに払わないというフリーライドを生む一方、NHKに対し、受信料の不払いという形で視聴者が抗議する余地も残していた。

たとえば、2004年に発覚した不正支出問題で、100万件を超える支払い拒否が生まれたのが好例だ。

受信料の支払い拒否・保留数の推移

ところが、会計検査院などから徴収率を上げるよう指摘され、NHKは未契約世帯や事業所に対して、積極的に裁判を繰り返す方針をとるようになった。以後、徴収率は上昇傾向を示すようになる。

●視聴者の「理解・納得」が前提

2017年の最高裁大法廷判決は、受信料制度が「契約の自由」などに反せず、合憲とした。ただし、「NHKが契約を申し込んだ時点で、契約が成立する」とするNHKの主位的主張は退けた。

契約はあくまで双方の合意が必要だとし、承諾を拒まれた場合には裁判の判決が必要だとしている。

公平負担という観点からいけば、届け出の義務化や未契約者情報の照会などで、事実上の契約強制が進むのは合理的な面もある。経費を削減できれば、受信料も下げられるだろう。

一方で、徴収員が各世帯を回る現行のあり方は、「視聴者の納得や理解」を得るための必要経費という考え方もできるだろう。

最高裁判決は、「(NHKが)受信設備設置者に対し、…説明するなどして、受信契約の締結に理解が得られるように努め、これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい」とも判示している。

契約の強制化は、NHKと視聴者の間にあった「建て前」を破壊しかねず、実現に当たっては国民の理解を得る必要がある。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る