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英空港に「置いてけぼり」 ツアー添乗員や旅行会社の責任は?
2013年07月02日 17時50分

「がんばって、帰ってきてください」――。添乗員付きの欧州ツアーに参加した日本人男性が今年1月、そう告げられ、英国の空港に置き去りにされたとして、旅行代理店に慰謝料などを求める訴えを起こした。

河北新報によると、男性は添乗員や他のツアー客25人と一緒に、英ヒースロー空港で日本に向けた帰国手続きを受けていた。その際、無作為に選ばれて、テロ警戒のための手荷物「再検査」を受けることになった。

添乗員と女性客1人も同じく再検査となったが、先に終わったため搭乗ゲートへ向かった。添乗員はゲートの係員に男性が遅れると伝え、係員の指示で飛行機に搭乗して待っていたが、結局男性は出発に間に合わなかった。

男性は、検査を終えてゲートに駆けつける際、携帯電話で添乗員から冒頭の言葉を告げられたという。その後男性は、現地の旅行代理店を通じて予約したホテルに1泊した後、別の飛行機で帰国した。男性は「添乗員は空港に残って安全確保に力を尽くすべきだった」として旅行会社に費用を請求したが、「過失がない」として補償を断られたと主張している。

裁判の行方には注目したいが、旅行ツアーの添乗員は一般的に、どんな責任を負っているのだろうか。また、何らかの事情でツアー参加者が飛行機に間に合わなかった際などに、旅行会社が補償をするケースはあるのだろうか。消費者問題にくわしい上田孝治弁護士に聞いた。

●旅行業者は、安全かつ円滑な旅行の実施に関し、努力する義務がある

まず、上田弁護士は、旅行業者が一般的に負うべき責任について、次のように説明する。

「いわゆるパックツアーは『募集型企画旅行』に分類されます。この場合、旅行業者は、同行させた添乗員などにより、旅行者の安全かつ円滑な旅行の実施を確保することに努力するという旅程管理義務を負います」

損害賠償請求では、旅行業者の過失の認定がポイント

これをふまえて、上田弁護士は、旅行者が損害賠償等を受け取れる場合として、次のようなケースが考えられると説明する。

「まず、旅行日程や目的地などといった重要な旅程の変更が生じた場合、旅行業者に落ち度(過失)がなかったとしても、旅行者は約款に基づいて一定限度の補償金を受け取ることができます(旅程保証)。

さらに、旅程の変更について旅行業者に落ち度があれば、この補償金だけでなく、債務不履行等を理由とした損害賠償請求(民法415条等)も可能です。

つまり、旅行者が、旅行業者に対して補償金のみならず慰謝料等の損害賠償請求をするには、旅行業者に落ち度が必要になり、本件では、空港への到着時刻や再検査後の添乗員の対応などが、適切であったかがポイントになります」

最後に、本件に関連した判例として、上田弁護士は次のようなケースをあげた。

「添乗員同行の海外ツアーで、添乗員が点呼を怠ったため、観光地で専用バスに乗れず、一人置き去りにされたとして、旅行者が旅行業者に対して慰謝料を請求した事例があります。

その判決で裁判所は、添乗員には、旅行者の生命、身体、財産等の安全を確保するため、契約内容の実施に関して遭遇する危険を排除すべく合理的な措置をとるべき義務があるとして、旅行者の請求を一部認めました(岐阜地裁平成21年9月16日判決)」

このように、旅行業者の過失がなくても、一定の補償金を受け取れる場合があるようだし、過失が認められれば、損害賠償請求も可能ということだ。だが、それはいずれも「事後的な救済」にすぎない。まずは旅行ツアーにおいて、不測の事態が起きないことを願うばかりだ。

(弁護士ドットコムニュース)

「がんばって、帰ってきてください」――。添乗員付きの欧州ツアーに参加した日本人男性が今年1月、そう告げられ、英国の空港に置き去りにされたとして、旅行代理店に慰謝料などを求める訴えを起こした。

河北新報によると、男性は添乗員や他のツアー客25人と一緒に、英ヒースロー空港で日本に向けた帰国手続きを受けていた。その際、無作為に選ばれて、テロ警戒のための手荷物「再検査」を受けることになった。

添乗員と女性客1人も同じく再検査となったが、先に終わったため搭乗ゲートへ向かった。添乗員はゲートの係員に男性が遅れると伝え、係員の指示で飛行機に搭乗して待っていたが、結局男性は出発に間に合わなかった。

男性は、検査を終えてゲートに駆けつける際、携帯電話で添乗員から冒頭の言葉を告げられたという。その後男性は、現地の旅行代理店を通じて予約したホテルに1泊した後、別の飛行機で帰国した。男性は「添乗員は空港に残って安全確保に力を尽くすべきだった」として旅行会社に費用を請求したが、「過失がない」として補償を断られたと主張している。

裁判の行方には注目したいが、旅行ツアーの添乗員は一般的に、どんな責任を負っているのだろうか。また、何らかの事情でツアー参加者が飛行機に間に合わなかった際などに、旅行会社が補償をするケースはあるのだろうか。消費者問題にくわしい上田孝治弁護士に聞いた。

●旅行業者は、安全かつ円滑な旅行の実施に関し、努力する義務がある

まず、上田弁護士は、旅行業者が一般的に負うべき責任について、次のように説明する。

「いわゆるパックツアーは『募集型企画旅行』に分類されます。この場合、旅行業者は、同行させた添乗員などにより、旅行者の安全かつ円滑な旅行の実施を確保することに努力するという旅程管理義務を負います」

損害賠償請求では、旅行業者の過失の認定がポイント

これをふまえて、上田弁護士は、旅行者が損害賠償等を受け取れる場合として、次のようなケースが考えられると説明する。

「まず、旅行日程や目的地などといった重要な旅程の変更が生じた場合、旅行業者に落ち度(過失)がなかったとしても、旅行者は約款に基づいて一定限度の補償金を受け取ることができます(旅程保証)。

さらに、旅程の変更について旅行業者に落ち度があれば、この補償金だけでなく、債務不履行等を理由とした損害賠償請求(民法415条等)も可能です。

つまり、旅行者が、旅行業者に対して補償金のみならず慰謝料等の損害賠償請求をするには、旅行業者に落ち度が必要になり、本件では、空港への到着時刻や再検査後の添乗員の対応などが、適切であったかがポイントになります」

最後に、本件に関連した判例として、上田弁護士は次のようなケースをあげた。

「添乗員同行の海外ツアーで、添乗員が点呼を怠ったため、観光地で専用バスに乗れず、一人置き去りにされたとして、旅行者が旅行業者に対して慰謝料を請求した事例があります。

その判決で裁判所は、添乗員には、旅行者の生命、身体、財産等の安全を確保するため、契約内容の実施に関して遭遇する危険を排除すべく合理的な措置をとるべき義務があるとして、旅行者の請求を一部認めました(岐阜地裁平成21年9月16日判決)」

このように、旅行業者の過失がなくても、一定の補償金を受け取れる場合があるようだし、過失が認められれば、損害賠償請求も可能ということだ。だが、それはいずれも「事後的な救済」にすぎない。まずは旅行ツアーにおいて、不測の事態が起きないことを願うばかりだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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