「週に1000万円稼げる」。そんなうまい話があるだろうか? 弁護士ドットコムニュース編集部に届いた、一通のDM。それは、今も被害が絶えない「投資詐欺」への誘いだった。
FX投資で荒稼ぎできると持ちかけ、LINEに誘導し、最終的には「Appleギフトカード」を要求する巧妙な手口だ。日本語の不自然さ、執拗な催促…。「これは詐欺だ」と確信しながらも、編集部がその手口の全貌を明らかにするため、あえて騙されてみた。
その巧妙な詐欺の実態を、実際のやり取りを交えて紹介したい。
●女性アカウントからFX投資の勧誘DM
今回の検証は、編集部で運用するTikTokアカウントに、あるDMが届いたことから始まった。
TikTokアカウントでは、記事や動画のためユーザーの人生相談を募集しており、DMは開放していた。そのアカウントから連絡があったのは8月中旬。人気のキャラクターをアイコンにし、「●●ちゃん」と称する若い女性風のアカウントだ。フォロー、フォロワー数もそれぞれ100人台おり、投稿も10件程度あった。
アカウント「こんにちは、初めまして。少しお話させていただいてもよろしいでしょうか」
最初のメッセージ(画像は一部加工しています)
編集部に届く怪しいDMは大抵、プロフィール画像が外国人やAI風の女性画像だ。このアカウントが若い女性のアカウントには珍しくないキャラクターだったことから警戒心がはたらかず、記者は当初、一般的な相談と思ってしまう。
そこで「何かお悩みがあるのでしょうか?」と返信したところ、いきなり「以前にFX会社と取引したことはありますか?」と尋ねてきた。
怪しいと感じながらも、企画になる可能性を感じ、素直に「ないです」と答えてみる。すると「週に1000万円稼ぐための投資法を教えます」と矢継ぎ早にメッセージを送ってきたのだ。
初っぱなから怪しいメッセージだ(画像は一部加工しています)
「これは詐欺アカウントだ」と確信。改めてこのアカウントの過去の投稿内容をよく確認してみると、いずれも札束の写真ばかりで、何とも胡散臭い。
しかし検証のため、あえてやり取りを継続することにした。
●次第に不自然な日本語に
編集部が投資に興味があるフリをすると、相手は外国為替取引の説明を続けていく。
騙されてみることにした(画像は一部加工しています)
そして本題へ。「実際に取引をするためには、この方の紹介する取引プラットフォームに入金する必要がある」と説明したのだ。そこで、そのプラットフォームと運営会社の名称を尋ねてみた。
相手は「為替ブローカー取引所」と説明。しかし当然ながら、ネット検索でも出てこなければ、国税庁の法人番号公表サイトでも該当する社はなかった。
記者「本当に実在する会社なのでしょうか?」
そう問うと「はい、もちろん」と返答し、再び不自然な日本語で説得を試みてきた。
「あなたの不安はよく分かります。でも、私は誠実な女性であり、高い評判を維持しなければいけないことをご理解ください」
日本語は徐々に不自然になっていった(画像は一部加工しています)
このあたりから、誰がどう見ても立派な詐欺アカウントだとわかる。
もう1点、不信感を強めた特徴もあった。
最初のメッセージは、違和感のない流ちょうな日本語だったが、質問への返答から明らかに不自然な返事になっていったのだ。推測だが、やりとりを始めた前半の説明は定型文であるのに対して、質問に対してはその場で翻訳するため、不自然な日本語になっていったのであろう。
●LINEに誘導、日本語はめちゃくちゃに
やり取りを続けると、予想通り相手はLINEへの誘導を図った。この種の詐欺では多くの場合LINEへの誘導が行われるというが、まさにその典型的な手口だ。
LINE上でも相手の日本語は相変わらず不自然極まりない。自動翻訳をかけているだろうに、意味不明なやりとりになってしまっている。AIの限界なのだろうか。
記者「こんにちは」
アカウント「大丈夫」「それで、私はあなたが先に進む準備ができています」
記者「ご連絡ありがとうございます。もしかして海外の方でしょうか?」
アカウント「コンビニに行って、最初に使いたい金額のAppleカードを購入します。買ったら知らせてください」
外国人なのかどうか、記者が知りたい点は華麗にスルーされてしまう。
そして、ここで初めて「Appleカードを購入」という指示が出てきた。いわゆる「電子ギフト詐欺」とか「電子マネー詐欺」などと言われる手法だと、相手の狙いがようやくつかめた。
●放置していると「こんにちは、あなた」と執拗な連絡とLINE通話
相手も狙いを定めたからだろうか。次第に連絡は執拗になっていく。
記者がギフトカードをすぐに用意できなかったため、約2日間放置してしまった。すると取り立てのような催促が執拗に届き始めたのだ。
ついにはLINE通話もかけてきた(画像は一部加工しています)
「おはよう」「こんにちは、あなた」「Appleカードを買いましたか?」などと、編集部を責めるような口調となり、ついにはLINE通話もかけてきた。
編集部はLINE通話には応答しなかったが、このような追い込み方でギフトカード購入を強要する手法なのだろう。
●ギフトカードコードで金銭詐取の仕組み
仕方なくギフトカードを購入し、写真を相手に送付した。すると相手は、スクラッチシールの下にあるコードを送信するよう要求してきた。
ギフトコードは隠していたが(画像は一部加工しています)
このコードをアップルアカウントに入力すると入金処理が完了するため、コードを教えることは直接的な金銭の授受と同じ意味を持つ。そのためAppleギフトカードにも「他人に教えないでください」との注意書きが記載されている。
アップル社もサイトで注意を促す
当然、記者が番号を送らずにいると、次第に相手は苛立ちを見せていく。
アカウント「スクラッチしてスクリーンショットをおくってください」
記者「仕事が終わった後にご連絡します」
アカウント「私が指示するまでカードを開けないでください」「1500円は受け付けておりません」「始めるには2万円か1万円のAppleカードを購入する必要があります」
無視していると、「Appleカードを買いましたか?」「どうしたの?」と連投し、LINE通話もかけてきた。
編集部が規約上、コードを教えられないのでは?」と改めて相手に伝えると、不自然な日本語で質問には答えず「それはあなたの投資預金なので、それを開いてスクリーンショットを送ってください」と、説得を続けてきた。
とにかくしつこく連絡をしてくる(画像は一部、加工しています)
詐欺であると確信していたため、やりとりはここで終了することにした。
最後に「これは詐欺じゃないですか?」とストレートに質問すると、相手は「信じてください、これは詐欺ではありません」。そして「コードを送ってください」とBotのように繰り返すだけだった。
取りすがるように「信じてください」(画像は一部、加工しています)
●やりとりでわかった特徴は4点
今回の検証で判明した特徴は以下の通りだ。
- 日本語が不自然(想定外の質問をすると特に顕著)
- LINEへの誘導
- 取り立てのような執拗な催促連絡
- Appleギフトカードの購入指示
●やりとりをしてみて…
電子ギフト券を利用した詐欺は、決して珍しいものではない。
今回は架空の「投資プラットフォームに入金するため」という、嘘だとわかりやすいものだった。
しかし、警察庁のサイトなどで公表される事例は「有料サイトの未納料金がある」「ウイルスに感染した」などと偽ったり、パソコン画面に偽の警告画面を出し「修理サポート費用」と称したりしてギフトカードでの支払いを要求するなど手口は巧みだ。
ギフトカード詐欺について、アップル社もHPで「詐欺師がその番号を入手すると、あなたが法執行機関(警察)やAppleサポートに連絡する前に、カードの資金が使われてしまうおそれがあります」と、注意を促している。
今回、記者が経験したものは、怪しい日本語で投資をもちかけられたこと、LINEへの誘導やアップルストアのギフトコードを送らせる手口といい、詐欺の典型的な手口だ。
「まだ買ってないんですか?」苛立ちを見せる詐欺アカウント(編集部で一部、画像を加工しています)
相手が詐欺師だとわかってやりとりしたものの、責め立てるようなメッセージや相手からのしつこいLINE通話は、仕事とはいえ、アカウントを知られていることもあって、気味の悪さを感じた。
疑いを感じながらやった人でも、相手の勢いに飲まれてしまうことはあるはずだ。だからこそ最初に詐欺とみなし、やりとりをしないことが重要だ。
万一の際には、警察相談専用電話 「#9110」や最寄りの警察署への相談を検討して欲しい。