16706.jpg
宗教2世のために「パンクしても走り続ける車」 統一教会問題の次世代弁護士・阿部克臣
2023年02月11日 08時09分

統一教会、エホバの証人…「宗教2世」の面々が厚い信頼を寄せる弁護士がいる。全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の阿部克臣弁護士は、昨年12月に結成した当事者団体「宗教2世ネットワーク」監事を務める。

「深刻な被害を受けてなお、彼らは一生懸命に声を上げている。匿名で活動せざるを得ないし、攻撃されることもあります。実名の弁護士が一人いることで、信用性が高まる。番犬みたいなものです」

事もなげに語るが、昨年夏以降は取材や国会対応など、事務所の椅子で寝て、シャワーを浴びるためだけに家に帰るような多忙な日々だった。そんな姿を見たある弁護士は「パンクしても走る車」と呼ぶ。その強さはどう培ったのか、原動力を聞いた。

統一教会、エホバの証人…「宗教2世」の面々が厚い信頼を寄せる弁護士がいる。全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の阿部克臣弁護士は、昨年12月に結成した当事者団体「宗教2世ネットワーク」監事を務める。

「深刻な被害を受けてなお、彼らは一生懸命に声を上げている。匿名で活動せざるを得ないし、攻撃されることもあります。実名の弁護士が一人いることで、信用性が高まる。番犬みたいなものです」

事もなげに語るが、昨年夏以降は取材や国会対応など、事務所の椅子で寝て、シャワーを浴びるためだけに家に帰るような多忙な日々だった。そんな姿を見たある弁護士は「パンクしても走る車」と呼ぶ。その強さはどう培ったのか、原動力を聞いた。

●深夜の会議でも必ず現れる「あべっち」

安倍元首相の銃殺事件があった昨夏以降、阿部弁護士は怒濤の日々を送った。紀藤正樹弁護士のリンク総合法律事務所に所属。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題には、弁護士になった2009年から携わるが、2世の救済については全国弁連も手付かずだったという。

野党の国対ヒアリングに20回以上出席する中で、2世たちと密に連絡を取るようになった。高額献金を規制する新法の審議過程では、小川さゆりさん(仮名)とともに国会に参考人として出席。法律面でのバックアップを一手に担ってきた。

「2世の方たちも日中は仕事をしているから、会議が深夜に及ぶこともある。マスコミ取材を受けるに当たっての法律知識が欲しいとの声があり、勉強会を開くなどしています」

こうした阿部弁護士を、2世たちは親しみを込めて「あべっち」と呼ぶ。現役信者向けにも情報を発信しているVTuber「もるすこちゃん」さんは「解散したらどうなるか不安を感じている信者に正しく伝えたいと出演をお願いしたら、快く受け入れてくれました。世のため人のために力を惜しまない方なんだなと感じています」といい、全幅の信頼を置いている。

●統一教会のコンプラ宣言の年に弁護士に

もともと法曹を目指したのは、大学卒業のころだ。地元・山形県で弁護士をしていたおじが「おまえもなれ」と口癖のように言っていた。しかし教育学部卒で、ゼロからの挑戦だった。工場の夜勤や家庭教師、日雇いのバイト代など月3万円の食費・水道光熱費で暮らしながら予備校に通い、7回目の挑戦で、旧司法試験を突破した。

弁護士登録した2009年は、旧統一教会にとってもターニングポイントだった。関連会社の「新世」が刑事摘発され、コンプライアンス宣言を出した年。初めて担当した交渉事件の依頼者は、3000万円を献金した55歳の女性だった。教会に通知書を持参し、信者と向き合った。

「13年後に大騒ぎになるとは思ってもいなかった。相談も少しずつ減っていき、弁連もいつか店じまいするのかなと思っていました。けれど、今やるべきことは2世を含めて過去の被害者を救うことです」

「人権」「弱者」などの言葉では飾らず、淡々とした口調で語る。貫いてきた一点は「一度引き受けた仕事は、最後まで地道にやり切ること」。別の教団相手の訴訟では1年目から主任として携わり、最終的に高裁で和解するまで11年かかった。

そうして地道にやってきたら、立法に関わるほどの最前線にいた。解散請求がなされるのか。返金に向けた「億」単位規模の集団交渉も始まる。道のりは終わらない。

●体力づくりで始めたマラソンはサブ3

1年目から取り組んでいるもう一つが弁護士の業務妨害対策だ。深刻な誹謗中傷の被害に遭った唐澤貴洋弁護士の代理人も務めた。日弁連の委員として、現在は全国各地で弁護士向けの研修も行っている。

「インターネットの普及でより陰湿化しています。弁護士の数も増え、敷居が低くなったぶん、権威性が低下した。安易な懲戒請求もあり、対策が求められています」

阿部弁護士にとって、この問題も統一教会と同じように、最初は「与えられた仕事」だった。それをただ言われた通りやるのではなく、自分の頭で考えて創意工夫を加えることで半歩でも「人と違う仕事」をしようとした。

「例えば準備書面一つでも、コピペは楽だけど、もう一歩考える。相談者が求める成果にプラスアルファできるように証拠を精査したり。そんなことを続けていると結局寝られないんですけどね…」

弁護士として勝負するには「体力」だと考え、10年ほど前にマラソンを始めたという。理由は「急に頭がよくなるのは無理だし、努力はみんなしている」から。もともと疲れやすく、夜中まで仕事をする日々が続き、行き詰まった。気分転換と健康のため、徐々に距離を伸ばした。いまやフルのタイムは2時間54分だ。

椅子で寝ているとは思えないほど、阿部弁護士はいつ見ても「同じ」だ。口調は常に冷静で、崩れない。「異常にタフな男」「パンクしても走る車」と称される彼は、どんなに強大な組織相手でも「同じ」なのだろう。それこそが最大の脅威だ。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る