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北総線「運賃値下げ訴訟」 住民敗訴の判決を弁護士はどう見たか
2013年04月08日 15時57分

東京都東部と千葉県北西部を結ぶ鉄道「北総線」。1979年から、第三セクターの北総鉄道が運行しているが、開業前に期待されたほど輸送量が伸びず、多額の累積赤字が重くのしかかる状態が続いている。そのため、これまで運賃値上げが何度も行われてきた。

現在、1駅間で最も高いのは290円。これは周辺の私鉄と比べると2倍高い運賃であり、利用者から「高すぎる」と不満の声が上がっている。このような状況のもと、沿線の住民5人が、北総鉄道に対して運賃値下げなどを命じるよう国に求めた訴訟の判決が3月26日、東京地裁で下された。

判決では、運賃の設定に問題は認められないとして、住民らの請求は棄却された。日常生活で利用する鉄道の運賃について争われた訴訟は注目を集めたが、今回の判決をどう評価すべきなのか。行政訴訟に詳しい湯川二朗弁護士に聞いた。

●「鉄道利用者からすると非常識きわまりない内容」

「判決は、周辺私鉄と比べて『2倍の運賃』や『4倍の通学定期』も不合理ではないし、『等距離区間なのに片や130円で他方650円』という上限運賃の設定も不合理ではない、とするもので、鉄道利用者からすると非常識きわまりない内容でした」

このように湯川弁護士は、今回の判決の内容を批判する。そもそも、鉄道運賃の認可基準を定めた鉄道事業法の定め方に問題があるという。

「運賃の認可基準については、鉄道事業法16条2項で、『能率的な経営の下における適正な原価に、適正な利潤を加えたものを越えないものであるかどうか』と定められています。つまり、鉄道事業者の『儲け』が出ることが前提になっているのです。しかも、鉄道利用者の負担を考えろとはどこにも書いてありません」

すなわち、鉄道利用者だけではなく鉄道事業者の側に立った認可基準になっているというわけだ。

さらに、認可基準の文言が抽象的であるため、実際に国が判断するときには「鉄道事業者の経営判断をその通り認めるしかないでしょう」と、湯川弁護士は指摘する。

●裁判所は「運賃の認可基準」を鉄道利用者の目から見直すことができるはず

もう一つ、湯川弁護士が問題視するのが、今回の判決を出した裁判所の姿勢だ。「仮に認可基準が事業者寄りのものだったとしても、裁判所は、鉄道利用者の目から見直すことができるのに、それをしなかった」というのだ。

「能率的な経営の下における適正な原価に、適正な利潤を加えたものを越えないものであるかどうか」という基準は、先日問題となった電気料金値上げの審査の際にも用いられていると、湯川弁護士は指摘する。

「電力会社の値上げ申請に対して、経産省が『燃料の仕入れ代金の見込み等に経営努力の余地がある』などとして値上げ幅を圧縮したのは、記憶に新しいところです。認可する立場にある行政でそういう切り込み方ができるのであれば、裁判所でも当然そのような姿勢がとりうるものです。ところが、東京地裁はそのように踏み込んで判断することなく、認可行政庁の判断を尊重しました」

このように湯川弁護士は、東京地裁の踏み込み方が甘かったと批判する。

●高裁で、地裁の判断がひっくり返る可能性も

「一昔前の裁判所であれば、そのような『行政判断尊重』の姿勢でもよかったでしょう。しかし議員定数不均衡訴訟で、司法の判断がより深化してきたように、行政の裁量判断過程に不合理な点がなかったかという視点から見ていけば、本件でも『違法』と判断する余地は十分にあったのではないでしょうか」

このように指摘しながら、湯川弁護士は「高裁が『鉄道事業者の経営判断を不当に重視しすぎていないか』という点を十分に検討していけば、『認可取消』の判断に至る可能性も十分にあるのではないでしょうか」と述べている。

今回の判決では、このような運賃の認可をめぐる行政訴訟において、沿線住民の「原告適格」を認めるというこれまでにない判断をしており、住民からすれば「一歩前進」という点もある。高裁で、さらに踏み込んだ判断がされるのか、注目される。

(弁護士ドットコムニュース)

東京都東部と千葉県北西部を結ぶ鉄道「北総線」。1979年から、第三セクターの北総鉄道が運行しているが、開業前に期待されたほど輸送量が伸びず、多額の累積赤字が重くのしかかる状態が続いている。そのため、これまで運賃値上げが何度も行われてきた。

現在、1駅間で最も高いのは290円。これは周辺の私鉄と比べると2倍高い運賃であり、利用者から「高すぎる」と不満の声が上がっている。このような状況のもと、沿線の住民5人が、北総鉄道に対して運賃値下げなどを命じるよう国に求めた訴訟の判決が3月26日、東京地裁で下された。

判決では、運賃の設定に問題は認められないとして、住民らの請求は棄却された。日常生活で利用する鉄道の運賃について争われた訴訟は注目を集めたが、今回の判決をどう評価すべきなのか。行政訴訟に詳しい湯川二朗弁護士に聞いた。

●「鉄道利用者からすると非常識きわまりない内容」

「判決は、周辺私鉄と比べて『2倍の運賃』や『4倍の通学定期』も不合理ではないし、『等距離区間なのに片や130円で他方650円』という上限運賃の設定も不合理ではない、とするもので、鉄道利用者からすると非常識きわまりない内容でした」

このように湯川弁護士は、今回の判決の内容を批判する。そもそも、鉄道運賃の認可基準を定めた鉄道事業法の定め方に問題があるという。

「運賃の認可基準については、鉄道事業法16条2項で、『能率的な経営の下における適正な原価に、適正な利潤を加えたものを越えないものであるかどうか』と定められています。つまり、鉄道事業者の『儲け』が出ることが前提になっているのです。しかも、鉄道利用者の負担を考えろとはどこにも書いてありません」

すなわち、鉄道利用者だけではなく鉄道事業者の側に立った認可基準になっているというわけだ。

さらに、認可基準の文言が抽象的であるため、実際に国が判断するときには「鉄道事業者の経営判断をその通り認めるしかないでしょう」と、湯川弁護士は指摘する。

●裁判所は「運賃の認可基準」を鉄道利用者の目から見直すことができるはず

もう一つ、湯川弁護士が問題視するのが、今回の判決を出した裁判所の姿勢だ。「仮に認可基準が事業者寄りのものだったとしても、裁判所は、鉄道利用者の目から見直すことができるのに、それをしなかった」というのだ。

「能率的な経営の下における適正な原価に、適正な利潤を加えたものを越えないものであるかどうか」という基準は、先日問題となった電気料金値上げの審査の際にも用いられていると、湯川弁護士は指摘する。

「電力会社の値上げ申請に対して、経産省が『燃料の仕入れ代金の見込み等に経営努力の余地がある』などとして値上げ幅を圧縮したのは、記憶に新しいところです。認可する立場にある行政でそういう切り込み方ができるのであれば、裁判所でも当然そのような姿勢がとりうるものです。ところが、東京地裁はそのように踏み込んで判断することなく、認可行政庁の判断を尊重しました」

このように湯川弁護士は、東京地裁の踏み込み方が甘かったと批判する。

●高裁で、地裁の判断がひっくり返る可能性も

「一昔前の裁判所であれば、そのような『行政判断尊重』の姿勢でもよかったでしょう。しかし議員定数不均衡訴訟で、司法の判断がより深化してきたように、行政の裁量判断過程に不合理な点がなかったかという視点から見ていけば、本件でも『違法』と判断する余地は十分にあったのではないでしょうか」

このように指摘しながら、湯川弁護士は「高裁が『鉄道事業者の経営判断を不当に重視しすぎていないか』という点を十分に検討していけば、『認可取消』の判断に至る可能性も十分にあるのではないでしょうか」と述べている。

今回の判決では、このような運賃の認可をめぐる行政訴訟において、沿線住民の「原告適格」を認めるというこれまでにない判断をしており、住民からすれば「一歩前進」という点もある。高裁で、さらに踏み込んだ判断がされるのか、注目される。

(弁護士ドットコムニュース)

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