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国が労働時間の上限規制案…嶋崎弁護士「隠れ残業の把握義務を課し、実効性ある制度に」
2017年02月04日 08時23分

政府は働き方改革の一環として、長時間労働に制限を設ける方向で調整に入った。36協定で青天井になっていた労働時間に歯止めをかける形だ。報道によると、年度内にまとめる働き方改革の実行計画に具体案を盛り込む予定だという。

ただ、時間外労働の上限規制については、反発も起きている。ネット起業などが加盟する「新経済連盟」は、一律な規制強化で国際競争力が衰退する危険性があることを指摘。「柔軟に時間管理ができる環境を実現すべき」と主張している。

今後、さらに議論が深められることになりそうだが、残業の上限規制を設けて、一律に規制することにはどんな意味があるのだろうか。嶋崎量弁護士に聞いた。

政府は働き方改革の一環として、長時間労働に制限を設ける方向で調整に入った。36協定で青天井になっていた労働時間に歯止めをかける形だ。報道によると、年度内にまとめる働き方改革の実行計画に具体案を盛り込む予定だという。

ただ、時間外労働の上限規制については、反発も起きている。ネット起業などが加盟する「新経済連盟」は、一律な規制強化で国際競争力が衰退する危険性があることを指摘。「柔軟に時間管理ができる環境を実現すべき」と主張している。

今後、さらに議論が深められることになりそうだが、残業の上限規制を設けて、一律に規制することにはどんな意味があるのだろうか。嶋崎量弁護士に聞いた。

●なぜ上限規制が必要なのか?

新経連が発表した「働き方改革に関する意見書」では、「36協定で定めた上限は、当然ながら守られなければならない。一方で、一律的な上限の設定は日本の競争力を失わせかねない。」という意見が表明されています。

実際に長時間労働が蔓延している現状を踏まえ、労働時間の上限規制など取り入れたら、企業競争力を失わせるという心配の声はあるでしょう。

ですが、私は、このような心配は不要だろうと思います。少なくとも中長期的には、労働時間の上限規制は日本の社会に活力を与え、中長期的には経済成長にも資するはずだと、声を大にして言いたいです。

2016年6月2日に閣議決定されたニッポン一億総活躍プランでは、「長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参画を阻む原因となっている」と指摘されています。

労働者を職場の長時間労働から解放すれば、少子化対策にもなり、「女性の活躍」や男性の家庭参画を実現できるのです。地域社会の活性化にもつながり、職場外での多様な社会活動の経験を労働者が職場にフィードバックすることで、新しいアイデアも生まれるはずです。社会全体の活力は、中長期的は、必ず日本社会の経済成長にもつながるのです。

日本企業の国際協力を問題にする声はありますが、日本社会は世界有数の長時間労働の国です。厳しい言葉を向けさせて貰えば、これまで日本社会は、本気で長時間労働を削減するための(労使が協力しての)企業努力、社会全体の努力が足りなかったのだと思います。EUなどに目を向ければ、日本より遙かに労働時間が少ないドイツの経済は停滞していません。「日本では無理」などと鼻から諦める姿勢こそ、日本社会や経済から活力を失わせ停滞の要因となっているのでは無いでしょうか。

●上限規制だけでなく、労働時間を把握する明確な法的義務を

とはいえ、長時間労働削減策について、上限規制ばかりに目が行きがちな状況には、違和感を覚えています。

シンプルな話ですが、どんなに厳しい上限規制であっても、労働時間が管理されていなければ、実効性のある規制にはなりません。現在の労働現場では、あえて自己申告制度などを用いて客観的な労働時間把握をとらないサービス残業や持ち帰り残業が横行しています。そもそも、把握されていない、管理されていない労働時間が放置されているのです。こんな現場に厳しい上限規制を入れても、隠れ残業が横行するだけでしょう。

実効性のある労働時間削減策をとるには、上限規制だけでなく、まずは使用者に対して労働者の労働時間を把握する明確な法的義務を創設し、その違反行為に刑事罰や企業名公表の制裁を設けることです。

今の職場実態を素直に見れば、単純な上限規制だけでは、実効性のない掛け声倒れに終わりかねないと危惧しています。

政府の長時間労働削減策は、設定される上限時間が長すぎる(過労死ラインを超える)など指摘されていますが、それだけでなく、実効性を担保するための方策が抜け落ちている点も見逃せません。

さらに注意が必要なのは、政府が法案を提出している残業代ゼロ法案(高度プロ制度、裁量労働制の大幅な規制緩和)。これが成立してしまえば、残業代という長時間労働のブレーキ役がなくなり、むしろ長時間労働が促進されるでしょう。

上限規制だけでなく、実効性のある制度、長時間労働削減策とは矛盾する制度の帰趨にも、注目をしていただきたいと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

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