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長時間労働で脳こうそく、証拠は「部下の日誌」 自動車販売の店長が勝訴
2019年01月21日 10時07分

長時間労働や残業代が出ない「ブラック企業」と戦うには、証拠を残しておくことが大事ーー。こうした認識は広まりつつあるが、逆に「証拠がないから難しい」と泣き寝入りしていないだろうか。

タイムカードもパソコンのログもない中、部下の日誌や証言などを元に、長時間労働と発症した脳こうそくとの因果関係があると判断し、損害賠償が認められた事件がある(福岡地裁2018年11月30日判決)。原告は自動車販売会社に勤める男性店長で、脳こうそくの末、右半身麻痺などの障害が残った。

原告の男性の日誌は、会社側から「ない」と言われ、結局入手することができなかった。だが、部下が残していた日誌が、長時間労働を認定する決め手となった。被告側は判決を不服として控訴している。

この事件の原告側代理人を務めた波多野進弁護士は「特に過労死や過労自殺事件などの労働事件では、手元に証拠がないのは止むを得ないこと。証拠の多くは会社側にあるのが当たり前なので、そこで諦める必要はない」と話す。事件の経緯を聞いた。

長時間労働や残業代が出ない「ブラック企業」と戦うには、証拠を残しておくことが大事ーー。こうした認識は広まりつつあるが、逆に「証拠がないから難しい」と泣き寝入りしていないだろうか。

タイムカードもパソコンのログもない中、部下の日誌や証言などを元に、長時間労働と発症した脳こうそくとの因果関係があると判断し、損害賠償が認められた事件がある(福岡地裁2018年11月30日判決)。原告は自動車販売会社に勤める男性店長で、脳こうそくの末、右半身麻痺などの障害が残った。

原告の男性の日誌は、会社側から「ない」と言われ、結局入手することができなかった。だが、部下が残していた日誌が、長時間労働を認定する決め手となった。被告側は判決を不服として控訴している。

この事件の原告側代理人を務めた波多野進弁護士は「特に過労死や過労自殺事件などの労働事件では、手元に証拠がないのは止むを得ないこと。証拠の多くは会社側にあるのが当たり前なので、そこで諦める必要はない」と話す。事件の経緯を聞いた。

●日誌「信用性認められる」

ーー労災認定や裁判で、長時間労働を認定する決め手となったのは、本人のものでない日誌でした

本人のものがないなら、他の人のもので立証するのも手です。今回はそれが日報でした。

今回の事件では、タイムカードがなく、男性の労働時間がわかる日誌も手に入れることができませんでした。

そこで、働いた日は従業員のシフト表、労働時間は部下の日誌によって「少なくともこの時間までは働いていただろう」と推計し、男性の時間外労働時間が認定されました。

ーー部下の日誌は手書きでしたが、証拠能力が認められたのですね

会社側は「事後的に記載されたもの」、「業務内容の記載がパターン化している」などと反論しました。

裁判所は「事後的に統一性のある書き込みをすることができる状態で残っていたものとは考えがたい」、「各日付の当時に作成されたもので、相応の信用性が認められる」と判断しました。

●時間外労働は約188時間

ーー脳こうそく発症前6カ月の時間外労働は約150〜188時間と認められましたが、どのような勤務実態だったのでしょうか

男性は自動車販売の会社で、合同展示場内にある店舗の店長を務めていました。店舗に定休日はなく、午前8時の朝礼前から業務は始まっていました。

展示場には9店舗ほど入っていて、お客さんが回遊します。いつお客さんが来るかわからないため、展示車両の洗車などをしながら常に外で待機しているように指示されていました。

また、昼食は店舗内で食べると臭いがこもるため、店舗の外で食べていました。

男性は午後6時ごろまでお客さんが来るのを待ったあと、店舗で日誌や電話やダイレクトメール作成などの営業活動などをしていました。営業時間は営業だけやり、事務作業は営業時間が終わってからやるよう指示が出ていたのです。残業代も出ていませんでした。

ーー2014年9月に同様の方法で時間外労働時間を推定し、労災認定されていますが、今回の損害賠償請求事件では、労災時よりも認められた時間外労働時間が増えています

労基署は「少なくともここまでは認められる」という範囲で判断しましたが、裁判所は本人や従業員の証言内容、マニュアルなど労災以外の資料も丁寧に見ながら認定しました。

証人尋問は人数を制限されることが多いのですが、本人含めて7人が出廷しました。これだけ採用されることは珍しいです。裁判所が事実関係をじっくり徹底的に見極めようとする姿勢が表れていたと思います。

●Googleマップの「タイムライン機能」も有効

ーー手元にわかりやすい証拠がない場合でも、争うことできますか

会社側が持っている証拠を、どのように入手するかを考えます。パソコンの履歴やビルの警備記録などはオーソドックスな証拠です。ご自身がスマホの位置情報を取っているならば、Googleマップのタイムライン機能も有効でしょう。訪れた場所や時間、移動手段などを確認することができます。

タイムカードもないなど時間管理を放棄している会社の場合、警備記録や部下・同僚の証言などを参考にします。

民事事件において、弁護士の「証拠はありますか」と言う労働者への問いかけは、一般論としては正しいものです。ですが、私は労働事件を受任する際、基本的に「証拠は手元にないもの」と思っています。経験上、多くの過労死事件や過労自死事件で手元に証拠があるケースの方が少ないです。

それでもきちんと証拠を入手していけば、労災認定などの成果が得られます。「証拠がないからと諦めないで欲しい」と伝えたいです。

<事件の概要>

原告の男性は1999年12月、鹿児島市の自動車販売会社に入社し、翌年から合同展示場内にある店舗の店長を務めた。同社では個人や店舗で、中古車の販売台数についての目標達成が非常に重視されていた。中でも各店舗の店長は達成していないと会議で問われる状況にあった。男性は38歳だった2009年4月、脳こうそくを発症し、右半身まひなどの障害が残った。

鹿児島労働基準監督署は2014年9月30日、脳こうそく発症前6カ月の時間外労働を約88〜129時間と認定。長時間労働と脳こうそく発症との因果関係を認めて労災認定した。

福岡地裁は2018年11月30日、脳こうそく発症前6カ月の時間外労働を約150〜188時間と認定し、「発症と強い関連性を有する著しい長時間労働だった」と長時間労働と発症の関連性を認めた。

また、店長に課された目標達成へのプレッシャーも「精神的緊張を伴う業務だった」と一要因とし、原告側が慰謝料など約1億5100万円を請求したのに対し、約9075万円を支払うよう命じた。

(弁護士ドットコムニュース)

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