人気アイドルグループ「嵐」が来年5月末で「活動終了する」と発表しました。このニュースを受けてファンのショックが広まっています。
「嵐」については、これまでも2019年にメンバーの二宮和也さんが結婚したというニュースが報じられた際や、2020年に活動を休止すると発表したときなどに「ショックで仕事を休んだ」という投稿がSNSにあがっていました。
今回の「活動終了」は、5月6日に発表されました。大型連休の最終日にあたりますが、ショックで仕事が手につかないというファンも多そうです。
SNSではすでに「有給をとる部下が出るかもしれない」「家族が有給をとったみたいだ」など、ファンの家族や職場関係者からの声があがっています。実際に「立ち直れなくて、仕事無理だなって思って会社休んだ」という投稿もありました。
連休明けに急きょ有給休暇を取ることは許されるのでしょうか。今井俊裕弁護士に聞きました。
●有給休暇をとる「理由」を告げる義務はない
——「嵐の活動終了にショックを受けた」という理由で有給休暇を取ることに法的な問題はありますか。
有給休暇を取得する権利は労働基準法で定められています。法律の要件をみたす従業員に対して、会社には有給を付与する義務があります。法律では、取得要件や取得日数などについて、最低基準が定められており、その基準と同じかそれを超える条件を会社は定めなければなりません。
有給休暇の取得条件をみたした場合、その権利を行使して具体的に会社を休む日については、原則として従業員に決める権利があります。
そして、従業員が申し出たその日に休まれてしまうとその職場の正常な運営に支障がある場合にだけ、会社は「変更する権利」があります。
また従業員が具体的な日を決めて会社へ申し出るにあたって、なぜその日に休みたいのかという理由を告げる義務はありません。
もちろん、従業員側から任意に理由を告げることは問題ありませんし、世間の会社の有給休暇取得願出書などにはあらかじめ理由欄が設けられていることもよくあります。
今回のように自分がファンであるアイドルグループが活動終了するという報道に接してショックを感じて仕事が手に付かないので有給休暇をとりたい、という理由であっても法律的には問題ありません。
●単なる「業務多忙」という理由では変更できない
——今回の発表は連休最終日でした。連休明けの急な有給休暇の申請について、会社側は「人手が足りなくなるからダメ」といった理由で拒否することはできますか。
会社には、その職場の正常な運営に支障が生じるようであれば、有給休暇を取得する日を変更する権利が法律上認められています(労働基準法39条5項)。
会社としては、連休明けで停滞した業務が溜まっているのに人手不足となるといった事情もあるでしょう。しかし、単なる「業務多忙」という理由では、会社は変更する権利を行使できないことが多いです。
というのも、大型連休に入ることはあらかじめわかっていたことであり、その連休明けの業務がいつもより多忙になるであろうことも会社としてはわかっていたと言えるからです。
ですから、会社による変更が認められるためには、たとえば「その有給休暇を申し出た従業員にしか任せられない業務が差し迫っている」とか「他の代替従業員の確保が困難である」「多数の従業員からの有給休暇希望日が重なってしまっている」といった事情が必要となる可能性があります。
●当日「今日は休みます」に問題はある?
——当日に「今日は休みます」と伝えることに問題はないのでしょうか。
当日になって会社へ有給休暇を請求することは、問題となる場合があります。
会社としては、従業員の希望は尊重すべきですが、当日になっていきなり従業員から請求されても、支障が生じるかどうか判断に困ることもあるでしょう。なにより、その日に具体的に支障が出ると予想できる場合もあります。代替従業員を確保しようとしても間に合わないことが普通でしょう。
その場合は先に述べた通り、会社側として休暇日を変更できるのですから、結果的に従業員は自らが希望するその日に休むことは難しいでしょう。
さらに法律的な理屈を言えば、たとえば始業時刻が午前9時と就業規則に規定してあったとしても、その労働日は法律的にはその日の午前零時にすでに始まっていると旧労働省の通達では解釈されています。
したがって、始業時刻前に有給休暇取得の申し出たとしても、実はその労働日はすでに始まっていたのであり、従業員としては、前もって有給休暇の申し出たことにはならないのです。
とまあ、これは法律的な理屈ですが、要は、当日にいきなり申し出られても会社としては判断に困る事情があるので、従業員からの当日の行使は認めなくともよい、ということになります。
ただし、会社としては、従業員からの当日の申し出は本来は有効と扱わなくともよいのですが、従業員側の事情を汲んで認めることはもちろんかまわないです。
たとえば取得を申し出る理由として、急な体調不良とか、親族の危篤などもあるでしょう。このような場合に、会社が従業員からの申し出を有効と扱い、その日を有給休暇とするのは自由です。
●「ツアーのために1年先に休みます」は?
——嵐のファンの間では、「ツアーは絶対に有給をとって行く」と投稿している人が多くみられました。有給を申請する場合、たとえば「1年先」などでも許されるのでしょうか。
従業員が有給休暇日を指定するにあたって、1年くらい前に指定することも許されます。法律に制限する規定はなく、また前もって指定されるほうが会社としても好都合でしょう。