17269.jpg
裁判官が判決の一部を「言い忘れ」てしまった・・・「正しい判決」をもらい直すには?
2015年05月13日 13時50分

刑事事件の判決の法廷では、裁判官がまず「主文」といわれる判決の結果を読み上げるのが通例だ。しかし、この「主文」に含まれるべき判決内容の一部を、裁判官が言い忘れてしまうという珍事が4月上旬、神戸地裁明石支部で起きた。

報道によると、この裁判では、盗難車を買い受けたとして、2人の被告人が「盗品等有償譲り受け罪」に問われていた。判決は2人とも有罪。裁判官は、1人に懲役2年(執行猶予4年)・罰金50万円を言い渡し、もう1人に懲役1年6ヵ月(執行猶予3年)・罰金30万円を告げた。

しかし、罰金を支払えない場合に「労役場」に留置する期間も言い渡さなければいけなかったのに、その期間を言い忘れてしまったのだという。判決書(判決文)にも、その旨の記載はなかったそうだ。

今回は閉廷後、裁判官のミスに気づいた検察官が「控訴」という手段をとった。だが、裁判が長期化することにより、被告人など関係者の負担も増えそうだ。今回のように、裁判官が判決を言い忘れた場合、あらためて「正しい判決」をもらうためのルールはどうなっているのか? 元裁判官の田沢剛弁護士に聞いた。

刑事事件の判決の法廷では、裁判官がまず「主文」といわれる判決の結果を読み上げるのが通例だ。しかし、この「主文」に含まれるべき判決内容の一部を、裁判官が言い忘れてしまうという珍事が4月上旬、神戸地裁明石支部で起きた。

報道によると、この裁判では、盗難車を買い受けたとして、2人の被告人が「盗品等有償譲り受け罪」に問われていた。判決は2人とも有罪。裁判官は、1人に懲役2年(執行猶予4年)・罰金50万円を言い渡し、もう1人に懲役1年6ヵ月(執行猶予3年)・罰金30万円を告げた。

しかし、罰金を支払えない場合に「労役場」に留置する期間も言い渡さなければいけなかったのに、その期間を言い忘れてしまったのだという。判決書(判決文)にも、その旨の記載はなかったそうだ。

今回は閉廷後、裁判官のミスに気づいた検察官が「控訴」という手段をとった。だが、裁判が長期化することにより、被告人など関係者の負担も増えそうだ。今回のように、裁判官が判決を言い忘れた場合、あらためて「正しい判決」をもらうためのルールはどうなっているのか? 元裁判官の田沢剛弁護士に聞いた。

●判決をもらい直すには?

「判決の言い渡しのルールは、民事事件と刑事事件とで異なります。

民事事件の場合は『判決の言渡しは、判決書の原本に基づいてする』(民事訴訟法252条)と定められています。

それに対して、今回のような刑事事件の場合は『判決は、公判廷において、宣告により告知する』(刑事訴訟法342条)、『判決の宣告をするには、主文及び理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない』(刑事訴訟規則35条2項)と定められています。

刑事事件では、判決の言渡しは『判決原本』または『判決書原稿』に基づかなければならないとは、規定されていません」

田沢弁護士はこのように説明する。刑事事件では、「口頭」と「判決書原稿」の内容に違いがあった場合には、「口頭」の言渡しが「判決」とみなされるほどに、口頭での言渡しには重要な意味がある。

では今回のように、裁判官が言い忘れた場合には、どうすれば良いのだろうか。

「裁判長が、本来言い渡すべき内容の判決を述べなかった場合は、法廷にいる検察官や弁護人などの関係者がその場で指摘して訂正を求め、改めて裁判長による言い直しがなされればよいとされています。

また最高裁は、『判決宣告の期日』が終了するまでは、判決文の主文や理由を訂正したり、いったん宣告した判決内容を変更し、宣告し直せるとしています。すると、その前になされた判決の宣告は効力を失い、宣告し直したものが正しい判決の内容とみなされます。

ここで問題になるのが、どの時点で『判決宣告の期日』が終了したと捉えるかです」

●言い忘れに気づいたのが、閉廷後だったら・・・

今回の場合は、閉廷後に言い忘れに気づいたということだ。

「裁判長が閉廷を告げても、公判廷内にまだ被告人が在廷しているならば、期日はいまだ終了していないものと捉えることができます。

しかし、判決を宣告して、被告人の退廷を許し、被告人が法廷の外に出てしまったような場合は、判決宣告の期日が終了したものと捉えられます。そうすると、もはや言い直しはできず、控訴により上級審で正しい判決をもらうしかないと思われます」

法廷の外に出た被告人を呼び戻して、判決を言い直すことはできないのだろうか?

「たしかに、そのようにすれば、当事者が控訴という余計な手続を執らずに済み、裁判長もその失態を上級審に見られなくて済むでしょう。しかし、そのような安易な解釈をとることは、かえって司法の威信を貶めることになるような気がします」

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る