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人気女性VTuberの「中の人」騙った悪質な動画販売、「権利侵害」認めた判決の意味
2023年06月09日 10時09分

「人気女性芸能人の性的な動画が流出した」などとうたって、別人のアダルト動画を販売するような手法がかつて盛んにおこなわれてきた。当人にとっては、知名度を勝手に悪用されるだけでなく、風評被害にもつながる深刻な問題だ。

本名や顔などを一切公開していない人気女性VTuberが同様の被害を受けて、裁判を起こした。裁判所は今年3月、素性を明かさずに活動しているとしても、VTuberの「中の人」である女性の名誉を傷つけるという判断を示した。(ニュース編集部・塚田賢慎)

「人気女性芸能人の性的な動画が流出した」などとうたって、別人のアダルト動画を販売するような手法がかつて盛んにおこなわれてきた。当人にとっては、知名度を勝手に悪用されるだけでなく、風評被害にもつながる深刻な問題だ。

本名や顔などを一切公開していない人気女性VTuberが同様の被害を受けて、裁判を起こした。裁判所は今年3月、素性を明かさずに活動しているとしても、VTuberの「中の人」である女性の名誉を傷つけるという判断を示した。(ニュース編集部・塚田賢慎)

●枕営業の指摘に「本当に深く傷ついた」

判決文などによると、裁判を起こしたのは、人気の女性VTuberだ。

成人向けストリーミングサービス「FC2コンテンツマーケットアダルト」に動画の販売ページが投稿された。

VTuberのキャラクター名の記載こそ避けてはいたが、キャラクターの複数の特徴を示し、生身の女性が衣服を脱ぎ着する画像や性行為を思わせる画像もつけたうえで、「枕営業」と指摘する映像を販売するものだった。

原告の女性は、まったくの別人であり、事実無根の内容に「本当に深く傷つきました」として、VTuberの「中の人」である自身の名誉権などの侵害を主張し、投稿者を特定するため東京地裁に提訴した。

裁判所は、投稿は生身の人間に関する事実を示すものと指摘した。そして、VTuberを対象とした投稿だと認めたうえで、その名称でVTuberとして活動している原告を対象とした名誉権侵害にあたるとも認めて、投稿者の情報開示を命じた。

今回のやり口が権利侵害にあたらないと判断されていれば、VTuberの人気に便乗して、同様の性的な動画が販売されないとも限らない。

●「顔出し」せず活動する人の権利保護の議論が必要

この判決について、インターネットの権利侵害にくわしい清水陽平弁護士は「権利侵害を認める結論自体には賛成です。ただ、その内容を見る限り、理由付けは少々理論的な詰めが甘いのではないかという印象です」と課題について言及する。清水弁護士に聞いた。

——判決をどうみますか

名誉毀損が認められるには、その前提として、『現実にいる誰のことか』を認識できることが必要になり、実務上、このことを『同定可能性』といっています。ただ、同定可能性は、誰にとってもわかるというほどのものが必要なのではなく、一定の範囲の人にとって認識可能であれば足りるとされます。

VTuberが事務所に所属し、撮影・配信のスタッフなど一定の人々から認識される状況があるとすれば、同定可能性が認められてよいと思います。

しかし、判決では、動画がどのVTuberのことと同定できることをもって、同定可能性を認めています。同定可能性が認められるためには、外部的に、そのVTuber=「中の人」=原告と認識できることが必要になります。

この判決を見る限り、その点の認定がきちんとされているとはいえず、理論的に問題があると思います(ただし、証拠上はそれを示すものが出てはいるので、細かく認定していないだけかもしれません)。

もちろん、このような投稿によって、VTuberとしての活動が阻害されてよいことにはなりませんし、結論として、権利侵害を認めることに異論があるわけではありません。

今回のケースでは、理論的には、VTuberとしての仕事に対する妨害となるものなので、信用毀損や業務妨害のほうが、名誉毀損よりも親和的かもしれません。

どのような場合に侵害になるかについて確定的な基準はまだないように思われ、今後この辺りの議論も深める必要がありそうです。

また、名誉感情侵害であれば同定可能性までは問われないので、権利侵害を認めやすいため、VTuberを含め『顔出し』をしない活動をする人の権利保護に使いやすいと思います。

——企業などに所属するVTuberだけでなく、「個人勢」とも呼ばれるVTuberもいます。完全に1人で活動する個人勢が同様の被害にあった場合、今回の判決と同じような判断には至らないのでしょうか

同定可能性はあくまでも外部からの認識ができるかどうかという問題であるため、たとえばオフ会をしていて一定範囲の人に誰のことと認識されているという事情が立証できれば、侵害が認められる余地があります。

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