1760.jpg
「#MeToo」に火をつけた調査報道、2人の女性記者の闘いを描く 『その名を暴け』日本語版が出版
2020年08月15日 09時20分

セクハラや性的被害を告発する「#MeToo」運動のきっかけになったハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行。米紙ニューヨーク・タイムズのジャーナリスト、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの調査報道により、多くの女優や従業員が被害をうけたことが明るみに出た。

2人が報道までの軌跡をまとめた共著『SHE SAID』の日本語版『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』が7月30日、新潮社から翻訳出版された。

被害を受けても、示談金と引き換えに「秘密保持契約」を結ばされて来た女性たち。それは自分の経験を語る権利を放棄するためのサインでもあった。ミーガンとジョディは沈黙を強いられてきた被害者に連絡をとり、金銭のやり取りや証言の裏付け作業を進めていく。

翻訳を手がけた古屋美登里さんは「隠されていた事実を浮き彫りにするジャーナリストの凄さと女性たちの連帯にただただ感動しました。読んで震えて欲しいです」と話す。

画像タイトル 『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』(新潮社)

『恋におちたシェイクスピア』や『華氏911』、『英国王のスピーチ』などを手がけたワインスタインは、アカデミー賞作品賞を5回も受賞し、ハリウッドを代表する存在だった。その一方で、女性への性的暴行の噂が立っていたが、公に報道されたことは一度もなかった。

そんな中、2016年10月に女優のローズ・マッゴーワンが、あるプロデューサーにレイプされたとツイートする。ジョディの取材は、マッゴーワンへのメールから始まった。

性暴力被害の取材は難しい。暴行は一対一の密室でおこなわれることが多く、被害者の証言しかなければ加害者が「記事は嘘だ」と否定して終わりだ。ただ、ワインスタインの場合は違った。多くの女性と示談を重ねていたのだ。示談書や支払われたお金の記録があればーー。ジョディは女優たちの連絡先を調べ始めた。

ワインスタインも黙ってはいなかった。2人の動きを察知すると、敏腕弁護士を何人も代理人につけ、探偵も雇い記事の発表を止めさせようとする。ミーガンとジョディも、実名をあげて告発する女性や情報提供者を守るためさらなる取材を進める。2017年10月5日に記事が公開されるその直前まで、息をもつかせぬ攻防が繰り広げられた。

翻訳にあたって、古屋さんは「2人の文体は新聞記事のように事実を淡々と伝えるもので、書き手の感情が書かれておらず訳すのに苦労した」と振り返る。

「彼女たちは自分自身の感情を出さずに、取材した人の言葉を書いて事実を連ねています。どう評価するかは読んだ人が考えるべきであって、報道は裁かない姿勢が大事なのかもしれないと思いました」

ニューヨークの裁判所は2020年2月24日、ワインスタインは2人の女性に対する性的暴行の罪で、有罪の評決を下した。

本では、米連邦最高裁判事候補としてトランプ大統領から指名されたブレット・カバノー連邦控訴裁判所判事から高校時代に性的暴行を受けたと告発した心理学者のクリスティン・ブレイジー・フォード教授のストーリーも描かれている。

2018年9月に開かれた公聴会でカバノーとフォードがそれぞれ証言する様子は、全米の主要なチャンネルでライブ中継された。

フォードの証言は多くの性暴力被害者の心を打ち、国会議事堂前でのデモに発展。その後、マクドナルドの労働者やジャーナリストなど、様々な女性が性的嫌がらせの被害を告発した。

「フォードはカバノーを批判するというより、立場上彼がその職を引き受けるのはまずいのではないかと言いたかった。自分に起きたことをなかったことにはできないというその一点で行動していました。性加害者であるカバノーが、日本でいう最高裁判所判事の立場に就くことはおかしいと自身の責任感から告発したのです」(古屋さん)

本の翻訳をする中で、古屋さん自身も「あれは性的嫌がらせだったのか」と過去の出来事について思い巡らすことがあったという。

「本を読むうちに自分の半生を振り返って、これまで気づかなかったことに気づくと思います。女性たち一人一人は無力でも、連帯すれば運動となり、それがまた女性たちを勇気づける。老若男女問わず読んで欲しい一冊です」

セクハラや性的被害を告発する「#MeToo」運動のきっかけになったハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行。米紙ニューヨーク・タイムズのジャーナリスト、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの調査報道により、多くの女優や従業員が被害をうけたことが明るみに出た。

2人が報道までの軌跡をまとめた共著『SHE SAID』の日本語版『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』が7月30日、新潮社から翻訳出版された。

被害を受けても、示談金と引き換えに「秘密保持契約」を結ばされて来た女性たち。それは自分の経験を語る権利を放棄するためのサインでもあった。ミーガンとジョディは沈黙を強いられてきた被害者に連絡をとり、金銭のやり取りや証言の裏付け作業を進めていく。

翻訳を手がけた古屋美登里さんは「隠されていた事実を浮き彫りにするジャーナリストの凄さと女性たちの連帯にただただ感動しました。読んで震えて欲しいです」と話す。

画像タイトル 『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』(新潮社)

●隠されていたワインスタインの悪行

『恋におちたシェイクスピア』や『華氏911』、『英国王のスピーチ』などを手がけたワインスタインは、アカデミー賞作品賞を5回も受賞し、ハリウッドを代表する存在だった。その一方で、女性への性的暴行の噂が立っていたが、公に報道されたことは一度もなかった。

そんな中、2016年10月に女優のローズ・マッゴーワンが、あるプロデューサーにレイプされたとツイートする。ジョディの取材は、マッゴーワンへのメールから始まった。

性暴力被害の取材は難しい。暴行は一対一の密室でおこなわれることが多く、被害者の証言しかなければ加害者が「記事は嘘だ」と否定して終わりだ。ただ、ワインスタインの場合は違った。多くの女性と示談を重ねていたのだ。示談書や支払われたお金の記録があればーー。ジョディは女優たちの連絡先を調べ始めた。

ワインスタインも黙ってはいなかった。2人の動きを察知すると、敏腕弁護士を何人も代理人につけ、探偵も雇い記事の発表を止めさせようとする。ミーガンとジョディも、実名をあげて告発する女性や情報提供者を守るためさらなる取材を進める。2017年10月5日に記事が公開されるその直前まで、息をもつかせぬ攻防が繰り広げられた。

翻訳にあたって、古屋さんは「2人の文体は新聞記事のように事実を淡々と伝えるもので、書き手の感情が書かれておらず訳すのに苦労した」と振り返る。

「彼女たちは自分自身の感情を出さずに、取材した人の言葉を書いて事実を連ねています。どう評価するかは読んだ人が考えるべきであって、報道は裁かない姿勢が大事なのかもしれないと思いました」

ニューヨークの裁判所は2020年2月24日、ワインスタインは2人の女性に対する性的暴行の罪で、有罪の評決を下した。

●声をあげた女性たち

本では、米連邦最高裁判事候補としてトランプ大統領から指名されたブレット・カバノー連邦控訴裁判所判事から高校時代に性的暴行を受けたと告発した心理学者のクリスティン・ブレイジー・フォード教授のストーリーも描かれている。

2018年9月に開かれた公聴会でカバノーとフォードがそれぞれ証言する様子は、全米の主要なチャンネルでライブ中継された。

フォードの証言は多くの性暴力被害者の心を打ち、国会議事堂前でのデモに発展。その後、マクドナルドの労働者やジャーナリストなど、様々な女性が性的嫌がらせの被害を告発した。

「フォードはカバノーを批判するというより、立場上彼がその職を引き受けるのはまずいのではないかと言いたかった。自分に起きたことをなかったことにはできないというその一点で行動していました。性加害者であるカバノーが、日本でいう最高裁判所判事の立場に就くことはおかしいと自身の責任感から告発したのです」(古屋さん)

本の翻訳をする中で、古屋さん自身も「あれは性的嫌がらせだったのか」と過去の出来事について思い巡らすことがあったという。

「本を読むうちに自分の半生を振り返って、これまで気づかなかったことに気づくと思います。女性たち一人一人は無力でも、連帯すれば運動となり、それがまた女性たちを勇気づける。老若男女問わず読んで欲しい一冊です」

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る