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急増する「YouTuber」にも対応、変化の激しい「エンタメ法務」の実態を聞く
2015年05月30日 11時22分

音楽や映像、ゲームといったエンターテイメントの分野で、クリエイターが一旗揚げようとした場合、思わぬ落とし穴になりがちなのが、著作権などの法律問題だ。自分が作った動画をYouTubeで流して広告収入を得る「YouTuber」のように、新時代のクリエイターも出てくる中で、どんなポイントに注意すべきなのだろうか。エンタメ分野の法務に力を入れていて、自身も音楽活動をおこなっている高木啓成弁護士に聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

音楽や映像、ゲームといったエンターテイメントの分野で、クリエイターが一旗揚げようとした場合、思わぬ落とし穴になりがちなのが、著作権などの法律問題だ。自分が作った動画をYouTubeで流して広告収入を得る「YouTuber」のように、新時代のクリエイターも出てくる中で、どんなポイントに注意すべきなのだろうか。エンタメ分野の法務に力を入れていて、自身も音楽活動をおこなっている高木啓成弁護士に聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

●「契約書にはすぐサインしないこと」

エンタメ法務の重要なポイントのひとつとして、高木弁護士があげるのが「契約書には、すぐにサインしないほうがいい」という点だ。

エンタメ法務にかかわる仕事では、契約書についての依頼や相談が圧倒的に多いそうだ。エンタメ業界の取引は、著作権などの権利をビジネスとして取り扱うことから、どんな契約書を取り交わすのかが重要になる。下手をすると、いざトラブルが発生したときに、正しい権利を主張することが難しくなる。

相手先から契約書が提示されたときは、まず内容をよく確認すべきだという。なぜならば、その内容は通常、相手方に有利な契約になっていることが多いからだ。

高木弁護士の相談事例でも、ある作曲家が音楽事務所から示された契約書には「所属期間に作曲した音楽の著作権は、すべて事務所に帰属する」という内容が記されていたそうだ。高木弁護士は「作曲家が作る膨大な作品の中で、日の目をみるのはごくわずか。この契約書にサインをしていたら、残りの不採用作品の著作権も、事務所のものとなっていました」と振り返る。

不採用になった作品がすべてダメなわけではない。アレンジし直して生まれ変わり、ヒット曲になる場合も多々ある。しかし、この契約書にサインすると、不採用作品の著作権もすべて押さえられ、他の機会に発表することが困難になってしまう。

相手方から契約書を渡されたら、すぐにサインせず、まず持ち帰って弁護士に相談するのが理想的だろう。しかし、事務所や出版社などの「会社」と、脚本家や作曲家などの「個人・グループ」が契約する場合、立場が弱いのはたいてい後者だ。契約書の内容に不満があっても、会社側に修正を要求するのは難しいのではないかという疑問も浮かぶ。

これに対し、高木弁護士は「内容を理解した上でサインするのと、気付かないのとではまったく違います。内容が分かっていれば、修正要求に応じてもらえなくても、その内容を踏まえて仕事をすることができます」と契約内容を把握することの大切さを説く。

実際には、事務所をやめるときになって弁護士に相談し、はじめて契約書の問題点がわかるケースが多いという。その場合、すでにある契約書の内容をふまえて交渉せざるを得ないが、「相手方に何らかの契約違反があるときは、その点を指摘しながら交渉を進めることも可能」だという。

●「YouTuber」関連の契約書作成も

高木弁護士は、近年、エンタメ業界の取引形態が複雑化していることを指摘する。たとえば、漫画家を例に挙げると、昔は出版社に原稿を納めるだけだったのが、最近では、LINEスタンプを自ら制作・提供したり、電子書籍の販売を自ら手掛けたりするケースも増えている。契約書にも、そういった内容を反映させる必要が出てくる。

また、今年急増したのが、YouTubeに自作動画を投稿する「YouTuber」と、その宣伝効果に目をつけた企業との契約書に関する仕事だ。

今までになかったサービスに関する契約であり、高木弁護士にとって未知の仕事だった。高木弁護士は、YouTuberの仕事を

(1)コンテンツ制作業務

(2)広告業務

に分類して、著作権や納品方法などに関する契約書を作成した。

「世の中に登場する新しいサービスに対して、常にキャッチアップしていく必要があります」と説明する高木弁護士。エンタメ法務の厳しさが、ここにある。

このほか、最近は映像作品に関する契約書がらみの仕事も増えているという。映像作品では、映像、音楽、出演者、スタッフなど、権利について考えなければならない要素が多く、契約書に落とし込む作業は一段と複雑になる。

●iTunesで自分が作曲した楽曲の配信も開始

高木弁護士は最初から、エンタメ法務に強い弁護士を目指していたわけではない。

弁護士になって約3年が過ぎて事務所を独立したころ、大学時代で中断していた音楽活動を再開した。「弁護士業って、結構ルーティンなところもあるんです。しだいに、何か新しいことを始めたい、と思うようになり、音楽を再開することにしました」。

仕事を覚えることに精一杯だった駆け出し時代が過ぎると、弁護士業にも慣れてくる。「慣れ」は、しばしば「飽き足りなさ」を誘発する。

バンドではドラムを担当し、渋谷を中心に音楽活動を開始した。プロのアーティストたちと知り合う機会も増え、それとともに弁護士であることも伝わっていく。しだいに、アーティストたちからエンタメ分野の法律相談を受けるようになっていった。

そして、「実は、エンターテイメント業界とその法律業務の双方に精通している弁護士は、決して多くはない」ということに気付いたという。

狙ったわけでもないのに、いつのまにか「進むべき道」が目の前に開けていた。高木弁護士は、エンタメ法務の仕事に力を一層注ぎはじめる。

今では、仕事の60~70%がエンタメ法務関係で占められている。顧問契約も増えた。

「まだ悪質な事業者は結構存在しますが、そういう事業者と法的に戦うことが、もっとも得意です。戦って依頼者を勝たせることにやりがいを感じています」と語る。今後、エンタメ法務の仕事の比率はさらに高まりそうだ。

音楽活動では、音楽制作(作曲)に力を入れている。iTunesでも「hirock'n」というアーティスト名で作品の配信をはじめた。「音楽でも結果を出して、弁護士業務との相乗効果を出していきたいですね」。

高木弁護士のインタビュー動画はこちら
 https://www.youtube.com/watch?v=Me-vdkQ2QE4



(弁護士ドットコムニュース)

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