モバイルバッテリー大手のアンカー・ジャパン(Anker)が、10月21日、商品の不具合を理由として大規模リコールを発表し、経済産業省に届け出を行いました。
アンカーの発表によると、今回のリコール対象となるのは、モバイルバッテリー(リチウム電池内蔵充電器)やモバイルスピーカーなど合計約52万台です。
アンカーは2019年以降、モバイルバッテリーなどの自主回収を度々行っており、その累計は約100万台にのぼっています。また、これまでに41件、発火があった重大事故が報告されています。
経済産業省は、これを受けて10月21日付でアンカー・ジャパンに対し、製造体制やリコールの状況について報告を求める行政指導を行っています。
原因は、製品で使用されているリチウムイオン電池の製造工程において、サプライヤー側で異物が混入し、使用に伴い電池セルの内部短絡(ショート)が起こり、発火・発煙の危険があるというものです。
今回の事例は、有名メーカーの製品であっても、製造過程におけるリスクを排除することは難しい現実を示しています。
本記事では、今回の事例を材料に、リチウムイオン電池製品全般の安全性確保のあり方について、企業と消費者双方の視点から解説します。
●企業の責任:「製造物責任法」が定める欠陥の責任
製造物責任法3条は、製造物の「欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したとき」は、製造業者等が損害賠償責任を負うと定めています。この法律における「欠陥」とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いていることを指します。
本件のリコールの原因は、サプライヤーの製造工程における異物混入による「電池セルの内部短絡の可能性」とされています。これは、製造工程に不備があったことによる「製造上の欠陥」に該当する可能性が高いといえます。
製造物責任法が適用される場合、被害者がメーカーの「過失」を立証する必要がなくなります。
一般的な民法の規定による場合には、製品に欠陥があって、消費者が損害を受けた場合、その欠陥が「過失」(メーカー側の不注意)に基づくものであることを消費者側が立証する必要があります。
しかし、製造物責任法では、この「過失」の立証は不要となり、「製造物」であることと、「欠陥」と「損害」、およびその「因果関係」を立証すれば足りることとされています。 つまり、「メーカー側の不注意」を証明しなくても、「製品に欠陥があって、それが原因で被害が出た」ことを証明できれば、メーカーに賠償を求めることができます。
なお、「欠陥」の立証は大変そうに思えますが、実務上は製造物の具体的な欠陥や機序などの特定までは必要とされておらず、その製造物の通常の用法に従って使用しているときに異常が発生した事情を主張立証することで足りると考えられています(東京地判平成30年2月27日参照)。
●対象商品を持っているかも!?と思ったら‥
このようなリコール情報に触れた際、消費者が取るべき具体的な対応策として、次の3点を押さえておきましょう。
1)お持ちの製品が対象か確認し、メーカーに連絡を
まずメーカーや経産省のウェブサイトで、お持ちの製品の型番や製品番号(製品本体や箱に記載されています)を確認し、リコールの対象製品に該当するかどうかをチェックしてください。
対象であった場合は、メーカーのオンライン受付フォームなどを利用し、交換・返金(今回のアンカーの場合はどちらかを選べるようです)の手続きを速やかに開始することが重要です。
2)異常を感じたら、直ちに使用を中止する
リコール対象外の製品であっても、使用中に異常な発熱、膨張、異臭を感じた場合は、すぐに使用を中止し、充電器から外し、安全な場所に隔離してください。火災の危険がある製品を使い続けることは、最悪の場合命にかかわります。
3)日頃から正しい取り扱いを徹底する
モバイルバッテリーは高エネルギーを蓄える製品であるため、日頃から丁寧に扱うことが大切です。たとえば以下のとおりです。
高温環境を避ける: 夏場の車内や直射日光の当たる場所など、高温になる場所には放置しない
強い衝撃を与えない: 落とす、強い圧力をかけるといった物理的な衝撃は内部短絡の原因となります
正しい処分方法を守る: 使わなくなった古いモバイルバッテリーは劣化が進んでいる可能性があるため、燃えないゴミとして出すのではなく、家電量販店等の回収ボックス、あるいは自治体に回収してもらうなど、決められた方法で処分する
●リコール公表は「安全確保」と損害の拡大防止が目的
企業が製品の潜在的な危険性を把握した場合、リコールを公表して交換・返金などの措置を取るかどうかは、重要な判断となります。
今回のケースでは、既に重大製品事故41件が発生しており、アンカー・ジャパンは消費生活用製品安全法35条1項に基づきこれらの事故を経済産業省に報告しています。
ただし、こうした事故の報告義務とは別に、製品の欠陥を公表してリコールを実施するかどうかは、企業の自主的な判断に委ねられています。
リコールの公表は、被害拡大を防ぎ、将来的に製造物責任法に基づいて企業が損害賠償を請求されるリスクの拡大を防ぐことにつながります。
一時的には企業イメージの低下を招く可能性がありますが、早期の公表と対応は長期的な信頼維持につながると考えられます。
さらに、隠蔽が発覚した場合の社会的信用の失墜は、一時的なリコール公表による影響をはるかに上回る損失を企業にもたらすことになります。
つまり、長期的にみた場合、公表しないことのデメリットの方が、公表による一時的な信頼低下というデメリットを上回るといえます。
●メーカー側の動向
Anker製品については、たびたび自主回収の話題が出ており、今回行政指導が行われた事実は重く、安全な製品の製造・供給が求められるのはいうまでもありません。
その一方で、リチウムイオン電池は高いエネルギー密度を持つがゆえに、バッテリーセルの製造過程で異物が混入するリスクなど、構造的な要因による安全性の課題を業界全体が抱えています。
実際、メーカー側は、これに代わる、より安全性の高い新しいバッテリー(半固体電池など)の技術開発を進めており、将来的には安全性に優れた製品の登場が期待されます。
もっとも、新技術の普及にはまだしばらく時間がかかるものと思われます。消費者としては、日々製品を丁寧に取り扱うとともに、メーカーのリコール情報などに注意を払う必要があります。
(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)