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「社会保険料が高くなるから、春に残業するな」は都市伝説? 税理士が実情を解説
2017年04月22日 10時27分

春になって就職、転職、配置転換などによる変化で、心身ともにお疲れの方も多いのではないでしょうか。そんな時、「『春に残業するな』と聞いたが、本当なのか」という質問が弁護士ドットコムニュース編集部に寄せられました。「春に残業すると、社会保険料の支払いが多くなるので、この時期は残業しないほうがいいと聞いた」そうですが、本当なのでしょうか。李顕史税理士に聞きました。

ーー「春に残業するな」は初めて聞きました

「質問に回答する前に、まず社会保険料の金額がどのように決まるのか説明しましょう。社会保険料は、給料の額に応じて決まると考えて差し支えありません。給料の額が多い人は支払額も多くなり、給料の額を低く抑えれば、その分社会保険料は低くなります」

ーー社会保険料は、内訳にはどんなものがありましたっけ

「厚生年金保険、健康保険、雇用保険、介護保険などのことです」

ーーそもそも、なぜ「春に残業するな」という言い伝えがあるのかわかりません

「以前は、確かに『春に残業するな』には一定の根拠があったんです。ただ、この考えは現在では正しくありません」

ーーでは都市伝説だったのでしょうか

「いえ、現在も春に残業を控えることで、社会保険料を抑えられる人たちはいます。

社会保険料の金額は『標準月額報酬』にもとづきます。基本給のほか、通勤手当、人によっては住宅手当や家族手当なども含まれます。また、ここに残業代も含まれます。

この『標準月額報酬』は原則として4月から6月に支給された平均給料で決まります。これは今も昔も変わりません。つまり、春に残業を避けて、夏や冬に残業して給料を増やせば、社会保険料を抑えられるという考えです。これが『春に残業するな』と言われる根拠につながっていると考えられます」

ーー先ほど、「現在では正しくありません」とのことでしたが・・・

「社会保険料を決める指標として、『標準月額報酬』が用いられないケースがあるからです。今は、4月から6月に支給された給料で決める『標準月額報酬』での計算方法だけでなく、1年12ヶ月をすべて平準化して決めるという方法もあります(ただし諸条件があります)。

したがって、1年12ヶ月の方法を採用する場合には、春に残業しないほうが社会保険料が低くなるとは言い切れないのです」

ーーその方式は、誰がどう決めるのでしょうか。会社が決めるのでしょうか。また、自分の勤務先がどちらの方法かを知る方法はあるのでしょうか。

「どちらを選ぶかは、会社が決定しますが、社員の同意が必要です。社会保険料の算定が4月から6月の給料か1年間の平準化のどちらを根拠としているかは、給与計算担当に聞いてみると良いでしょう」

ーー「春に残業するな」はある人にとっては事実でも、そうでない人もいるということですね。ちなみに職種によっては、4〜6月が年間の中でもっとも忙しく、調整できない人もいるはずです。このような人にとっては不利になってしまいませんか。

「職種によっては、そうした方もいるでしょう。4月から6月の支給額で社会保険料を決めるか、1年すべてを通した平均した給料で社会保険料を決めるかで、社会保険料の額は異なってきますが、場合によっては『不公平だ』とお考えになるかもしれません。

しかし、そのような場合でも、社会保険料ではなく社会保障面で考えれば、4月から6月の間で標準月額報酬が決まったほうが、有利になる場合があります」

ーーどういうことでしょうか

「例えば社会保険料の負担が減ることは、月々の支出を見る上ではメリットと思えるかもしれません。ただ、社会保険料の負担が少ないことで、将来的にデメリットが発生することがあると思いませんか」

ーーすみません、デメリットがあるとは想定しませんでした

「デメリットはあります。たとえば、社会保険料の負担が少ないほど、将来もらえる厚生年金の額も少なくなる可能性があります。また、出産によって女性は出産手当金がもらえますが、これも、もらえる金額が少なくなってしまいます。

つまり、社会保険料の負担が少ないほうが社員にとって本当によいのかというと、人によって違います。また、社会保険料を少なくすることは、将来受け取る厚生年金などが減る場合もあります。目先の額面にとらわれず、よく考えて決められたほうがよいかと考えます」

【取材協力税理士】

李 顕史(り・けんじ)税理士

税理士李総合会計事務所所長。一橋大学商学部卒。公認会計士東京会研修委員会副委員長。東京都大学等委託訓練講座講師。あらた監査法人金融部勤務等を経て、2010年に独立。金融部出身経歴を活かし、経営者にとって、難しいと感じる数字を分かりやすく伝えることに定評がある。また銀行等にもアドバイスを行っている。

事務所名 : 李総合会計事務所事務所

URL:http://lee-kaikei.jp/

(弁護士ドットコムニュース)

春になって就職、転職、配置転換などによる変化で、心身ともにお疲れの方も多いのではないでしょうか。そんな時、「『春に残業するな』と聞いたが、本当なのか」という質問が弁護士ドットコムニュース編集部に寄せられました。「春に残業すると、社会保険料の支払いが多くなるので、この時期は残業しないほうがいいと聞いた」そうですが、本当なのでしょうか。李顕史税理士に聞きました。

ーー「春に残業するな」は初めて聞きました

「質問に回答する前に、まず社会保険料の金額がどのように決まるのか説明しましょう。社会保険料は、給料の額に応じて決まると考えて差し支えありません。給料の額が多い人は支払額も多くなり、給料の額を低く抑えれば、その分社会保険料は低くなります」

ーー社会保険料は、内訳にはどんなものがありましたっけ

「厚生年金保険、健康保険、雇用保険、介護保険などのことです」

ーーそもそも、なぜ「春に残業するな」という言い伝えがあるのかわかりません

「以前は、確かに『春に残業するな』には一定の根拠があったんです。ただ、この考えは現在では正しくありません」

ーーでは都市伝説だったのでしょうか

「いえ、現在も春に残業を控えることで、社会保険料を抑えられる人たちはいます。

社会保険料の金額は『標準月額報酬』にもとづきます。基本給のほか、通勤手当、人によっては住宅手当や家族手当なども含まれます。また、ここに残業代も含まれます。

この『標準月額報酬』は原則として4月から6月に支給された平均給料で決まります。これは今も昔も変わりません。つまり、春に残業を避けて、夏や冬に残業して給料を増やせば、社会保険料を抑えられるという考えです。これが『春に残業するな』と言われる根拠につながっていると考えられます」

ーー先ほど、「現在では正しくありません」とのことでしたが・・・

「社会保険料を決める指標として、『標準月額報酬』が用いられないケースがあるからです。今は、4月から6月に支給された給料で決める『標準月額報酬』での計算方法だけでなく、1年12ヶ月をすべて平準化して決めるという方法もあります(ただし諸条件があります)。

したがって、1年12ヶ月の方法を採用する場合には、春に残業しないほうが社会保険料が低くなるとは言い切れないのです」

ーーその方式は、誰がどう決めるのでしょうか。会社が決めるのでしょうか。また、自分の勤務先がどちらの方法かを知る方法はあるのでしょうか。

「どちらを選ぶかは、会社が決定しますが、社員の同意が必要です。社会保険料の算定が4月から6月の給料か1年間の平準化のどちらを根拠としているかは、給与計算担当に聞いてみると良いでしょう」

ーー「春に残業するな」はある人にとっては事実でも、そうでない人もいるということですね。ちなみに職種によっては、4〜6月が年間の中でもっとも忙しく、調整できない人もいるはずです。このような人にとっては不利になってしまいませんか。

「職種によっては、そうした方もいるでしょう。4月から6月の支給額で社会保険料を決めるか、1年すべてを通した平均した給料で社会保険料を決めるかで、社会保険料の額は異なってきますが、場合によっては『不公平だ』とお考えになるかもしれません。

しかし、そのような場合でも、社会保険料ではなく社会保障面で考えれば、4月から6月の間で標準月額報酬が決まったほうが、有利になる場合があります」

ーーどういうことでしょうか

「例えば社会保険料の負担が減ることは、月々の支出を見る上ではメリットと思えるかもしれません。ただ、社会保険料の負担が少ないことで、将来的にデメリットが発生することがあると思いませんか」

ーーすみません、デメリットがあるとは想定しませんでした

「デメリットはあります。たとえば、社会保険料の負担が少ないほど、将来もらえる厚生年金の額も少なくなる可能性があります。また、出産によって女性は出産手当金がもらえますが、これも、もらえる金額が少なくなってしまいます。

つまり、社会保険料の負担が少ないほうが社員にとって本当によいのかというと、人によって違います。また、社会保険料を少なくすることは、将来受け取る厚生年金などが減る場合もあります。目先の額面にとらわれず、よく考えて決められたほうがよいかと考えます」

【取材協力税理士】

李 顕史(り・けんじ)税理士

税理士李総合会計事務所所長。一橋大学商学部卒。公認会計士東京会研修委員会副委員長。東京都大学等委託訓練講座講師。あらた監査法人金融部勤務等を経て、2010年に独立。金融部出身経歴を活かし、経営者にとって、難しいと感じる数字を分かりやすく伝えることに定評がある。また銀行等にもアドバイスを行っている。

事務所名 : 李総合会計事務所事務所

URL:http://lee-kaikei.jp/

(弁護士ドットコムニュース)

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