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「弁護士過疎地域」佐賀で開業して14年 「勝訴という言葉で勇気づけたい」
2013年04月13日 10時00分

この春、TSUTAYAが運営する市立図書館のオープンで話題を集めた佐賀県武雄市。TVドラマ「佐賀のがばいばあちゃん」のロケ地にも使われた、総人口約5万2千人の自然豊かな温泉街だ。近年はTSUTAYA図書館のほか、フェイスブックを全面活用した市の情報発信など、ユニークな取り組みによって全国的にも認知度が高まりつつある。

司法関連では、市の中心部に佐賀地裁武雄支部が置かれ、8人の弁護士が市内で開業している。しかし1990年代前半までは、地裁支部の管轄地域に弁護士が1人もいない「弁護士ゼロ地域」だった。そんな中、1999年に武雄市内に「武雄法律事務所」を開業し、以来14年になるのが大和幸四郎弁護士だ。西鉄高速バスジャック事件の付添人をはじめ、佐賀県にからんだ案件を数多く手掛けている。そんな大和弁護士に、地方で開業することの意味を聞いた。

●「ゆっくり働きたい」と佐賀で開業

大和弁護士はもともと福岡県出身。中央大学法学部在学中に父の勧めで弁護士を志すようになった。1988年に大学を卒業して、司法試験には1996年に合格。2年間の司法修習を経て、1999年に弁護士登録をした。

――佐賀県で開業することになったきっかけを教えてください。

司法修習は佐賀市でやりました。希望は出身地の福岡でしたが、当時もう1人修習生に「大和くん」がいたので、彼と間違えられたんじゃないかと思います(笑)。

その後は修習先だった佐賀市内の法律事務所に就職したんですけど、4か月後には独立して、同じ県内の武雄市に、自分の事務所を持ちました。

――出身地の福岡ではなく、佐賀県武雄市を選んだのはなぜですか。

佐賀県でも武雄市がある西側に住んでいる弁護士が、当時はいなかったんですよ。「ここに住んでいる弁護士さんが欲しい」という地元の声がありましたし、武雄は温泉もあるからいいなと思って。

福岡での就職活動もしましたけど、忙しく働かされそうだったので、もう少しゆっくりしたいなと。結果的にはもっと働かされましたけどね(笑)。

●地域の需要が作った弁護士の専門性

――現在は、借金問題や少年問題の案件に積極的に取り組んでいると思いますが、もともと担当案件の希望はありましたか。

もともとは企業内弁護士として、人と争わずに会社で法知識を提供するのが希望だったんですけど。地方には、弁護士を雇えるような大きな会社が少なかったんですね(笑)。

独立後は、基本的にサラ金問題と刑事国選を中心にやりました。あまりお金にはならない案件ですが、相談者側の需要があったんです。

――サラ金問題が多かったのは、佐賀県の地域性もあるんでしょうか。

ありますね。独立当時、サラ金被害が非常に多くてですね。経済的基盤が弱く、自殺を含めて借金問題で亡くなる人が多かったんです。

基幹産業が農業というところもありますし、佐賀県は素朴で人のよい人ばかりで、その分だまされやすいというか。

――弁護士ドットコムに登録しているプロフィール写真は、「勝訴」と書かれた紙をバッと広げているもので印象的ですね。

これは、佐賀県鳥栖市で起こった「自治会・神社訴訟」(2002年)の判決直後の写真です。弁護士ドットコムにアクセスするような人は何らかの悩みを持っていると思うので、「勝訴」という景気のいい言葉で少しでも勇気づけられるんじゃないかな、と。

――話は逸れますけど、よくニュースで弁護士が走ってきて「勝訴」って文字を見せるじゃないですか。あれは自分たちが勝ったことを見せつけているんですか。

いや、そうじゃないんです。裁判所の職員が、法廷の敷地内で「こういうことはやめてください」って追いかけるんで逃げているんです(笑)。本当はゆっくり行きたいんですけどね。

●一生懸命その事件をやれば「誰でも専門家」

2011年度現在、佐賀県は住民10,329人に対して弁護士1人という計算だ。東京都の909人に弁護士1人という数字と比較すれば、まだまだ多いとはいえないもの、武雄市を含め弁護士の数は着実に増えた。そんななか、大和弁護士は約30件の案件を抱えながら、地域密着で弁護士業務を行っている。

――新規の法律相談も多いのでしょうか。

事務所がバス停前なので、バスを待ってる間にアポなしで来られる方もいらっしゃいます。ずーっと気がかりだったことがあって、ああ、バス待ってる間に時間あるな、ここ法律事務所だから聞いてみるか、と。そこがやっぱり、田舎の特色ですね。

――本当に色々な種類の案件を担当していますが、大変ではありませんか。

田舎はいろいろやらないといけないから(笑)。司法試験に受かった人なら誰だってできると思います。一生懸命その事件をやれば、誰でも専門家なんですよ。

幸せになるのは「権利でもあると同時に他人に対する義務」でもあると説く大和弁護士。東京在住の身からすれば、アットホームな事務所の雰囲気や、地域における法律相談の気軽さはとても羨ましく感じた。

地域が弁護士に活躍の場を与え、弁護士が地域を活性化する。地方における法サービスの魅力は、こうした双方向性にあるのではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

この春、TSUTAYAが運営する市立図書館のオープンで話題を集めた佐賀県武雄市。TVドラマ「佐賀のがばいばあちゃん」のロケ地にも使われた、総人口約5万2千人の自然豊かな温泉街だ。近年はTSUTAYA図書館のほか、フェイスブックを全面活用した市の情報発信など、ユニークな取り組みによって全国的にも認知度が高まりつつある。

司法関連では、市の中心部に佐賀地裁武雄支部が置かれ、8人の弁護士が市内で開業している。しかし1990年代前半までは、地裁支部の管轄地域に弁護士が1人もいない「弁護士ゼロ地域」だった。そんな中、1999年に武雄市内に「武雄法律事務所」を開業し、以来14年になるのが大和幸四郎弁護士だ。西鉄高速バスジャック事件の付添人をはじめ、佐賀県にからんだ案件を数多く手掛けている。そんな大和弁護士に、地方で開業することの意味を聞いた。

●「ゆっくり働きたい」と佐賀で開業

大和弁護士はもともと福岡県出身。中央大学法学部在学中に父の勧めで弁護士を志すようになった。1988年に大学を卒業して、司法試験には1996年に合格。2年間の司法修習を経て、1999年に弁護士登録をした。

――佐賀県で開業することになったきっかけを教えてください。

司法修習は佐賀市でやりました。希望は出身地の福岡でしたが、当時もう1人修習生に「大和くん」がいたので、彼と間違えられたんじゃないかと思います(笑)。

その後は修習先だった佐賀市内の法律事務所に就職したんですけど、4か月後には独立して、同じ県内の武雄市に、自分の事務所を持ちました。

――出身地の福岡ではなく、佐賀県武雄市を選んだのはなぜですか。

佐賀県でも武雄市がある西側に住んでいる弁護士が、当時はいなかったんですよ。「ここに住んでいる弁護士さんが欲しい」という地元の声がありましたし、武雄は温泉もあるからいいなと思って。

福岡での就職活動もしましたけど、忙しく働かされそうだったので、もう少しゆっくりしたいなと。結果的にはもっと働かされましたけどね(笑)。

●地域の需要が作った弁護士の専門性

――現在は、借金問題や少年問題の案件に積極的に取り組んでいると思いますが、もともと担当案件の希望はありましたか。

もともとは企業内弁護士として、人と争わずに会社で法知識を提供するのが希望だったんですけど。地方には、弁護士を雇えるような大きな会社が少なかったんですね(笑)。

独立後は、基本的にサラ金問題と刑事国選を中心にやりました。あまりお金にはならない案件ですが、相談者側の需要があったんです。

――サラ金問題が多かったのは、佐賀県の地域性もあるんでしょうか。

ありますね。独立当時、サラ金被害が非常に多くてですね。経済的基盤が弱く、自殺を含めて借金問題で亡くなる人が多かったんです。

基幹産業が農業というところもありますし、佐賀県は素朴で人のよい人ばかりで、その分だまされやすいというか。

――弁護士ドットコムに登録しているプロフィール写真は、「勝訴」と書かれた紙をバッと広げているもので印象的ですね。

これは、佐賀県鳥栖市で起こった「自治会・神社訴訟」(2002年)の判決直後の写真です。弁護士ドットコムにアクセスするような人は何らかの悩みを持っていると思うので、「勝訴」という景気のいい言葉で少しでも勇気づけられるんじゃないかな、と。

――話は逸れますけど、よくニュースで弁護士が走ってきて「勝訴」って文字を見せるじゃないですか。あれは自分たちが勝ったことを見せつけているんですか。

いや、そうじゃないんです。裁判所の職員が、法廷の敷地内で「こういうことはやめてください」って追いかけるんで逃げているんです(笑)。本当はゆっくり行きたいんですけどね。

●一生懸命その事件をやれば「誰でも専門家」

2011年度現在、佐賀県は住民10,329人に対して弁護士1人という計算だ。東京都の909人に弁護士1人という数字と比較すれば、まだまだ多いとはいえないもの、武雄市を含め弁護士の数は着実に増えた。そんななか、大和弁護士は約30件の案件を抱えながら、地域密着で弁護士業務を行っている。

――新規の法律相談も多いのでしょうか。

事務所がバス停前なので、バスを待ってる間にアポなしで来られる方もいらっしゃいます。ずーっと気がかりだったことがあって、ああ、バス待ってる間に時間あるな、ここ法律事務所だから聞いてみるか、と。そこがやっぱり、田舎の特色ですね。

――本当に色々な種類の案件を担当していますが、大変ではありませんか。

田舎はいろいろやらないといけないから(笑)。司法試験に受かった人なら誰だってできると思います。一生懸命その事件をやれば、誰でも専門家なんですよ。

幸せになるのは「権利でもあると同時に他人に対する義務」でもあると説く大和弁護士。東京在住の身からすれば、アットホームな事務所の雰囲気や、地域における法律相談の気軽さはとても羨ましく感じた。

地域が弁護士に活躍の場を与え、弁護士が地域を活性化する。地方における法サービスの魅力は、こうした双方向性にあるのではないだろうか。

(弁護士ドットコムニュース)

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