東京都台東区の高齢者施設で、認知症を患う70代女性に対してわいせつな行為をし、その様子をスマートフォンで撮影したとして、この施設に勤める介護士の男性が警視庁に逮捕された。
報道によると、男性は5月から6月にかけて、入居者の女性をトイレの個室に連れ込み、わいせつな行為をしたうえ、その様子をスマホで撮影した疑いが持たれている。
大阪府内のグループホームでも、認知症を患う80代の女性2人に対して性的暴行を加えたとして、介護職員の男性が逮捕されたという報道(朝日新聞など)もあり、社会に大きな衝撃を与えている。
では、介護職員が利用者に対して犯行に及んだ場合、量刑にはどのような影響があるのだろうか。
●未遂はかならず「減軽される」わけではない
朝日新聞(6月29日)によると、男性は不同意性交未遂(刑法177条、5年以上の有期拘禁刑)と、性的姿態撮影等処罰法違反の疑いで逮捕された。
不同意性交未遂罪(刑法177条)は、相手が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」性交等をおこなった場合に成立する。
なお、「未遂」の場合でも、法定刑自体は既遂と同じだが、刑法43条により「減軽することができる」とされている。これは、裁判所の裁量であり、必ず減軽されるわけではない。形式上は、既遂と同じ刑を科すことができる。
ただし、実務上は、未遂であることが量刑に反映され、既遂より軽い刑となるのが一般的だ。
●「性的姿態撮影等処罰法違反」とは?
報道によれば、男性は「性的姿態撮影等処罰法違反」でも逮捕されている。
この法律は2023年7月に施行された比較的新しい法律で、撮影(2条)のほか、提供、保管、送信、記録といった類型についても処罰対象となる。
今回のケースでは、撮影罪(2条。3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)にあたると考えられる。
7月4日までに報道されている範囲では、撮影罪以外の上に挙げた類型について成立が疑われる事情は確認されていない。
●介護士という立場は量刑にどう影響するか
警察の取り調べに対して、男性は「暴言を吐かれ、ストレス解消のためいたずらをしてしまった」と供述したとされる。
たしかに介護現場におけるストレスは深刻な問題だが、当然ながら利用者に対する性的加害の理由にはならない。
むしろ、介護士という職業上の立場を利用して犯行に及んだことは、量刑上、重く評価されるだろう。
●介護施設職員による、入居者への虐待の現状
介護福祉士を含む介護施設職員による入居者への性犯罪(性的虐待)に関する全国的な統計は、厚生労働省が毎年公表している「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」に基づく調査結果の中で、高齢者虐待の一類型として集計されている。
このうち、「令和5年度 高齢者虐待対応状況等調査結果(速報値)」によると高齢者虐待の状況は以下のとおり。
令和5年度(2023年度)に、養介護施設従事者等による高齢者虐待と判断された件数は1,123件であり、令和4年度の856件から大幅に増加した。
この虐待のうち、「性的虐待」が占める割合は2.7%(令和5年度)であった。
最も多いのは「身体的虐待」(51.3%)、次いで「心理的虐待」(24.3%)、「介護等放棄」(22.3%)となっている。 「性的虐待」は割合としては低いものの、毎年一定数発生している。
虐待者の職種については、大半が介護業務に直接従事する職員であり、虐待者と特定された1351人のうち、「介護職」が82.8%(1119人)を占めている。