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違法薬物を「麻薬取締官」に販売して逮捕 おとり捜査は日本で許されているの?
2025年07月18日 16時37分

SNSで薬物の広告を見つけた麻薬取締官が、内偵捜査中に実際にコカインと覚醒剤を購入し、ブラジル国籍の男2人を逮捕したと報じられました。

押収された薬物は末端価格で868万円相当にのぼり、2人は多国籍の匿名・流動型犯罪グループ「トクリュウ」の一員とみられています。

詳細はわかりませんが、この捜査手法について「おとり捜査」ではないかという声があがっています。

SNSを使った薬物密売に対し、捜査官が実際に違法薬物を購入する捜査手法。どのような法的問題があるのでしょうか。澤井康生弁護士に聞きました。

SNSで薬物の広告を見つけた麻薬取締官が、内偵捜査中に実際にコカインと覚醒剤を購入し、ブラジル国籍の男2人を逮捕したと報じられました。

押収された薬物は末端価格で868万円相当にのぼり、2人は多国籍の匿名・流動型犯罪グループ「トクリュウ」の一員とみられています。

詳細はわかりませんが、この捜査手法について「おとり捜査」ではないかという声があがっています。

SNSを使った薬物密売に対し、捜査官が実際に違法薬物を購入する捜査手法。どのような法的問題があるのでしょうか。澤井康生弁護士に聞きました。

●おとり捜査とは?

——「おとり捜査」とはどのようなものですか?また、本件はおとり捜査にあたりますか?

おとり捜査については平成16年(2004年)に最高裁決定が出されています。

最高裁の定義によれば、おとり捜査とは「捜査機関またはその依頼を受けた捜査協力者がその身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するもの」とされています(最高裁平成16年7月12日)。

本件は麻薬取締官がその身分を隠して薬物購入の買主として行動し、売主が当該薬物を販売しようとしたところを逮捕していることから、おとり捜査に該当します。

——麻薬取締官は、違法薬物を購入していることになりそうですが、処罰されないのですか?

麻薬取締官の場合には麻薬取締法58条におとり捜査に関連する規定があります。

同条は「麻薬取締官は麻薬に関する犯罪の捜査にあたり、厚生労働大臣の許可を受けて、この法律の規定にかかわらず、何人からも麻薬を譲り受けることができる」と規定しており、麻薬取締官が捜査のために麻薬を譲り受けても麻薬取締官自身は処罰されません。

●おとり捜査は違法捜査では?

——おとり捜査にあたる場合には違法となるのですか?おとり捜査が違法となるかどうかの判断基準、および、本件捜査が違法捜査となる可能性について教えてください。

おとり捜査については2種類あるとされています。犯意誘発型と機会提供型です。

犯意誘発型は犯人に当初犯罪を行う意思(犯意)がなく、おとりの働きかけにより初めて犯意を生じる場合です。機会提供型は犯人に当初から犯意があり、おとりが犯行の機会を提供したにすぎない場合です。

上記最高裁決定は、機会提供型のおとり捜査について任意捜査(刑事訴訟法197条1項)の一環として許されると判断しました。

これに対し、犯意誘発型のおとり捜査については、国家が犯罪者を作出するものであるとして違法であり認められないと考えられます。

本件は、もともと薬物密売の広告を出していた犯人らに対して買主のふりをして接触して犯人らに犯行の機会を提供した事案ですので機会提供型に該当し、任意捜査として適法ということになります。

過去の裁判例においても本件と同様にインターネット上のホームページ上の密売広告に対して捜査官が違法薬物の注文を出して検挙した事件について、捜査方法として適法としたものがあります(東京高裁平成20年7月17日判決)。

●おとり捜査が違法とされた場合は?

——本件捜査が仮に違法とされる場合、逮捕した2人のブラジル人を罪に問うことはできないのでしょうか。おとり捜査が違法であった場合にどうなるのかを教えてください。

仮に本件のおとり捜査が犯意誘発型だったとした場合、違法捜査として許されないことになります。

その場合、得られた薬物は違法捜査の結果、収集された証拠ということになるので違法収集証拠排除法則が適用され、証拠能力が否定される可能性があります。

直接証拠である薬物の証拠能力が否定されてしまった場合、ほかに犯罪事実を証明する直接証拠や間接証拠がない場合には無罪となる可能性はあります。

また、おとり捜査が関係する特殊なケースで例外的な場合には量刑上被告人に対する非難が一定程度下がるとされた事例もあります(大阪地裁平成29年4月12日判決)。

これは被告人が麻薬捜査官によるおとり捜査のおとり役として捜査に協力していたところ、おとり捜査とは全く無関係な大阪府警に逮捕された事案です。

裁判所は、麻薬取締官の被告人への対応が、被告人による覚せい剤取引を促進、助長した面があることは否定できず、被告人に対する非難を一定程度下げる事情として考慮すべきとして、刑期を若干軽くしたものです。

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