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自動車保険の「暴力団排除条項」 交通事故の「被害者救済」が不十分になる?
2013年12月18日 16時05分

大手損保会社の間で暴力団を締め出す動きが広がっている。朝日新聞によると、日本損害保険協会に加盟し、自動車保険を扱っている17社すべてが、「暴力団排除条項」を約款に導入したか、導入を検討しているという。

これにより、保険加入者が暴力団員とわかれば、契約を解除できることになる。ただ、心配なのは、暴力団員が自動車事故を起こした場合、被害者が十分な補償を受けられなくなるのではないかという点だ。

車を運転する人は、事故などに備えて「自賠責保険」に加入することが義務付けられている。しかし、自賠責は物損事故には適用されず、ケガや死亡の場合の補償額にも上限がある。そこで、自賠責保険だけでなく、民間の保険会社が提供する「任意保険」入るのが一般的だ。

ところが、暴力団員は任意保険に入れないとなると、もし事故を起こしたときに、その被害者の補償が不十分になる恐れがある。このような場合、被害者は泣き寝入りするしかないのだろうか。高島秀行弁護士に聞いた。

大手損保会社の間で暴力団を締め出す動きが広がっている。朝日新聞によると、日本損害保険協会に加盟し、自動車保険を扱っている17社すべてが、「暴力団排除条項」を約款に導入したか、導入を検討しているという。

これにより、保険加入者が暴力団員とわかれば、契約を解除できることになる。ただ、心配なのは、暴力団員が自動車事故を起こした場合、被害者が十分な補償を受けられなくなるのではないかという点だ。

車を運転する人は、事故などに備えて「自賠責保険」に加入することが義務付けられている。しかし、自賠責は物損事故には適用されず、ケガや死亡の場合の補償額にも上限がある。そこで、自賠責保険だけでなく、民間の保険会社が提供する「任意保険」入るのが一般的だ。

ところが、暴力団員は任意保険に入れないとなると、もし事故を起こしたときに、その被害者の補償が不十分になる恐れがある。このような場合、被害者は泣き寝入りするしかないのだろうか。高島秀行弁護士に聞いた。

●コンプライアンスの観点からは評価できる

「コンプライアンスの観点からは、暴力団員等に保険に加入させないという保険会社の意図はわかります。保険を利用させるということは、少ない掛け金で万一のときに多額の賠償に備えることができるという経済的メリットを与えることですから」

高島弁護士はこう指摘する。たしかに、反社会的勢力に利益を与えないという企業コンプライアンス(法令や社会倫理順守)の面からは、この任意保険からの「暴力団締め出し」も、考え方として納得がいく。

それに、保険業界特有のこんな特殊事情もある。

「暴力団員に保険加入を認めると、保険金詐欺のようなことをされる可能性もありますね」

保険金詐欺の予防という意味もあるようだ。だが、交通事故の被害者側から見ると、問題が大きいという。

●被害者保護の点からは問題が大きい

「暴力団員は、給与などの定期的な収入がなく、不動産などの資産も持っていない者がほとんどだと思います。そうなると、暴力団員が加害者となった交通事故の被害者は、事実上、自賠責保険の範囲内でしか、賠償を受けられない可能性が高くなります」

強制保険である自賠責保険でカバーされるのは、たとえば死亡事故の場合、最高でも3000万円だ。損害額がこれを超えた場合には、相手がコワモテであることに加え、暴力団員の「資力」の問題が、損害賠償を実現するための障害になりかねない。

「したがって、被害者救済の観点からは、任意保険から暴力団員等を締め出すのは、やめたほうが良いと思います。ですが、どうしてもこれを実施するのであれば、自賠責保険の賠償の範囲を拡大したり、賠償額を増やしたりするなど被害者の救済措置を何か考えないといけないでしょう」

損保各社による自動車の任意保険からの「暴力団員締め出し」。それを徹底させようという方針は、志こそ評価できるものの、交通事故の被害者救済という観点からは不安が残る。何か新たな法律を作って、被害者の救済措置を設けるなどの工夫が必要なのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

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