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ウクライナ・キーウ近郊で民間人多数死亡 ゼレンスキー大統領が言及した「ジェノサイド」とは?
2022年04月07日 12時27分

ロシア軍が撤収したウクライナ北部キーウ(キエフ)近郊で多数の遺体が発見されたことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領が「ジェノサイド(集団殺害)だ」と言及したことで、波紋が広がっている。

報道によると、ゼレンスキー大統領は4月4日、キーウ近郊のブチャを視察。さらに、「手足を切断される拷問を受け、少女たちがレイプされ、子どもたちが殺されたことがわかった」と話し、「多くの人が殺害された」と現地の惨状を訴えた。

ロシア側は関与を否定し、「フェイクニュース」としているが、アメリカのバイデン大統領が「ブチャで起きていることは言語道断」と語るなど、ロシアに対する国際的な非難は高まっている。

ゼレンスキー大統領は、「戦争犯罪だ」として、ロシア軍による「ジェノサイド」であることを認定するよう国際社会に訴えたとも報じられている。「ジェノサイド」とは具体的にどのような意味を持つのか。

ロシア軍が撤収したウクライナ北部キーウ(キエフ)近郊で多数の遺体が発見されたことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領が「ジェノサイド(集団殺害)だ」と言及したことで、波紋が広がっている。

報道によると、ゼレンスキー大統領は4月4日、キーウ近郊のブチャを視察。さらに、「手足を切断される拷問を受け、少女たちがレイプされ、子どもたちが殺されたことがわかった」と話し、「多くの人が殺害された」と現地の惨状を訴えた。

ロシア側は関与を否定し、「フェイクニュース」としているが、アメリカのバイデン大統領が「ブチャで起きていることは言語道断」と語るなど、ロシアに対する国際的な非難は高まっている。

ゼレンスキー大統領は、「戦争犯罪だ」として、ロシア軍による「ジェノサイド」であることを認定するよう国際社会に訴えたとも報じられている。「ジェノサイド」とは具体的にどのような意味を持つのか。

●「ジェノサイド条約」があるが、日本は未加入

「ジェノサイド」について、デジタル大辞泉は、「ある人種・民族を、計画的に絶滅させようとすること。集団殺害。集団殺戮 (さつりく)」と定義している。

国際的には、「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」で定義されている。

同条約では、国民的、人種的、民族的または宗教的集団を破壊する意図をもって、それらの構成員に対し、(1)殺害する、(2)重大な肉体的または精神的な危害を加える、(3)肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を課す、(4)出生防止の措置を課す、(5)児童を強制的に移す、といった行為のいずれも「ジェノサイド」と定義している(2条)。

そして、(a)ジェノサイドそのものだけでなく、(b)共同謀議や(c)直接かつ公然の教唆、(d)未遂、(e)共犯についても罰すると定めている(同3条)。

締約国は、ジェノサイドが平時・戦時を問わず、国際法上の犯罪であることを確認し、これを防止し、処罰するための必要な立法をおこなう必要がある(1条、5条)。

国連のウェブサイトによると、ジェノサイド条約は1948年12月に採択され、1951年1月に発効。ウクライナやロシアを含む152カ国・地域が批准しているが、日本はいまだ批准していない。

●批准していない理由とは

批准していない理由について、2013年11月5日の衆議院法務委員会で、外務省からの政府参考人は、「我が国におけるこの条約に入る必要性そして国内法の整備の内容等につき、引き続き慎重に検討を加える必要があるというのが現在の政府の立場」と答弁した。

また、2021年3月10日の衆議院外務委員会で、ジェノサイド条約批准の必要性の有無を問われた茂木敏充外務大臣(当時)が、同条約が「締結国に対して、集団殺害の行為等を犯した者を国内法により犯罪化する義務を課している」とし、「締結する必要性であったりとか、締結の際に必要となる国内法整備の内容等について、引き続き慎重に考える必要がある」と答弁。2013年11月以降、政府の立場が変わっていないことを示した。

2022年4月時点で、日本の国内法でジェノサイドそのものを罰する法律は定められていない。仮に日本国内でジェノサイドがおこなわれた場合は、刑法などで定められている既存の犯罪に当てはまる限りで処罰することになる。

日本のジェノサイド条約批准について、外務省の担当者は4月6日、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「今のところ特に動きなどはない」と話した。

茂木外務大臣は、2021年4月21日の衆議院外務委員会で、条約がジェノサイドを国内法で犯罪化する義務を課していることを理由として批准できないとは考えていないとしたうえで、批准について「国民的な議論」が必要との認識を示している。

ウクライナで起こっていることが本当にジェノサイドなのかどうかは冷静に見極める必要がある。もっとも、ジェノサイドがあった場合にそれを「許さない」とする姿勢をいかに示すのかについて、今後、条約批准も含めた国民的な議論が飛び交う可能性はありそうだ。

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