2977.jpg
輸血でHIVに感染――「献血した男性」と見抜けなかった「日赤」の責任は?
2013年12月19日 20時20分

エイズウイルス(HIV)に感染した献血者の血液が、日赤の検査をすり抜けて患者2人に輸血され、このうち1人がHIVに感染していたことが11月下旬、明らかになった。HIVの感染初期はウイルスや抗体が微量であるため、検査をすり抜けたとみられている。感染者の血液が輸血に使われたのは、2004年に日赤が対策を強化して以来、初めてのことだという。

日赤は「感染初期には、最も鋭敏な検査方法を用いても(HIVを)検出できない期間がある」として、検査前の「問診」でHIV感染リスクが高い行動をとった人を洗い出し、該当者の献血を回避している。

しかし報道によると、献血した男性は献血前の「問診」に事実と異なる回答をしていたという。もし正しい回答をしていれば、今回の事態は避けられた可能性があるが、この男性は何らかの法的責任を問われることになるのだろうか。また、結果的にHIV感染を防げなかった日赤も、責任を問われるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。

エイズウイルス(HIV)に感染した献血者の血液が、日赤の検査をすり抜けて患者2人に輸血され、このうち1人がHIVに感染していたことが11月下旬、明らかになった。HIVの感染初期はウイルスや抗体が微量であるため、検査をすり抜けたとみられている。感染者の血液が輸血に使われたのは、2004年に日赤が対策を強化して以来、初めてのことだという。

日赤は「感染初期には、最も鋭敏な検査方法を用いても(HIVを)検出できない期間がある」として、検査前の「問診」でHIV感染リスクが高い行動をとった人を洗い出し、該当者の献血を回避している。

しかし報道によると、献血した男性は献血前の「問診」に事実と異なる回答をしていたという。もし正しい回答をしていれば、今回の事態は避けられた可能性があるが、この男性は何らかの法的責任を問われることになるのだろうか。また、結果的にHIV感染を防げなかった日赤も、責任を問われるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。

●なぜ「事実と違う回答」をしたのか?

「輸血をした男性は、過失傷害罪(刑法209条)に問われる可能性があると思います。また、民事での損害賠償責任を負う可能性も高いと思います」

齋藤弁護士はこのように述べる。なぜだろうか。

「問診に事実と違う回答をしたということは、自分がHIV感染リスクの高い行為をしたことを知っていたということだと考えられます。そうであれば、輸血を受けた人にHIVを感染させるリスクも予想できたと思われるからです」

こうしたリスクを知りながら、それでも献血を行うことは、違法と見なされる可能性があるわけだ。

●日赤が責任を問われる可能性も

一方、日赤の責任についてはどうだろうか?

「日赤については、製造物責任法上、不法行為法上の損害賠償責任が認められる可能性もあると思います」

どうしてだろうか?

「今回、輸血で感染した方は、献血から1年間使用することができる血漿(けっしょう)製剤を輸血され、感染しました。

もし、HIVのウインドウ・ピリオド(検出されない期間)を考慮し、保管検体を再度チェックしていれば、輸血による感染を防止することができた可能性があります。

そうであれば、損害賠償責任も否定できないと考えられます」

医療側には厳しい見方にも思えるが、こうした際の責任について、何か参考になる判例などはあるのだろうか?

「東大病院梅毒感染事件の最高裁判決は、医師の注意義務について、『(医師は)危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される』と判断しています。

この判決では、医師は梅毒感染の危険性があるかどうか判断するのに必要な情報を問診するだけではなく、緊急ではない限り、リスクのない給血者から輸血すべきだと判断しました」

裁判所はこのように、医療従事者の注意義務を厳しく判断しているようだ。

齋藤弁護士はこのように述べたうえで、「なお、輸血で感染された方は、こういった賠償とは別に、生物由来製品感染等被害救済制度等による救済を受けることができる可能性があります」とつけ加えていた。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る