先の参院選で15議席を確保し、存在感を増している参政党。その主張や政策は賛否を呼び続けている。
同党が掲げる「新日本国憲法」草案は、全体を33条にまとめたコンパクトさが特徴だ。
憲法訴訟を多く手がける平裕介弁護士は「条文の少なさと読みやすさがSNS時代に受け入れられたのではないか」と分析する一方で、現行憲法の特質である立憲主義の観点が「大幅に欠落している」と強い懸念を示す。
とりわけ基本的人権の扱いについては「個別の規定が明らかに不足している」と厳しく指摘した。
●「基本的人権」が消えた草案
現行の憲法第11条は「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」と明記している。
ところが、参政党草案には「基本的人権」という言葉が一度も登場せず、代わりに「国民の基本的な自由と権理」が第8条に規定されている。
平弁護士は「これが、はたして基本的人権にあたるのかというところから曖昧で不明瞭だ」と指摘。そのうえで、この概念が憲法から消えれば「裁判所が違憲審査をまともにおこなうことすらできなくなってしまう」と警鐘を鳴らす。
「裁判所は、そもそも権利が憲法で保障されているかどうかという点から審査を始める。基本的人権が明記されていなければ、そもそもその人権や自由が保障されているのかということが大きな問題となり、仮に保障されていないとか、保障の程度が弱いなどという話になれば、その結果、司法のチェック機能が阻害されてしまう」
●「主体的に生きる自由だけでは不十分」
草案第8条1項では「すべて国民は、主体的に生きる自由を有する」とあり、注釈では「包括的な自由権との解釈である」とされている。
しかし、表現の自由や信教の自由、財産権などの個別規定は見当たらない。
平弁護士は「財産権が憲法上保障されていないように読め、私有財産制すら否定されかねない」と警告する。人権を列挙する現行憲法と異なり、「主体的に生きる自由」にほとんど集約するようなやり方では、裁判所が適切に人権侵害の審査をしにくくなってしまうと強調する。
参政党草案は計33条と現行憲法の103条に比べ条文数が大幅に少ない。平弁護士は「戦略的に読みやすくしたのかもしれない」と分析しつつも「人権条項が明らかに不足している」と断じた。
●NHK調査が示す「生存権」重視の国民意識
参政党草案第8条2項には「国民は、健康で文化的な尊厳ある生活を営む権理を有する」としており、現行の憲法第25条の「生存権」の規定に一応相当するもののようにもみえる。
少ない条文の中で、この規定を盛り込んだ背景について、平弁護士は「憲法の人権規定に関する国民の意識を反映させた結果ではないか」と分析する。
根拠の一つが、NHK放送文化研究所が1973年から2018年までおこなってきた「日本人の意識調査」だ。
2018年の調査では「憲法によって、国民の権利ときめられているのはどれか」と問われた際、「人間らしい暮らしをする(生存権)」を選んだ人が74%にのぼった。一方で「思っていることを世間に発表する(表現の自由)」を権利として認識していた人はわずか30%にとどまった。
平弁護士は「生存権を基本的人権だと考える国民の意識が特に強いことを踏まえ、マーケティング的に生存権に関係する文言を草案第8条1項とは別に第8条2項に盛り込んだのだろう。逆に表現の自由などへの関心は低いため、第8条1項にまとめて入れ込んだようにも一応読めるように作ったのではないか」と指摘する。
●「公益」がもたらすより強い人権制約
さらに草案では「公共の福祉」ではなく「公益」という言葉が採用されている。平弁護士は「2つのワードは全然違う」と強調する。
現行憲法での「公共の福祉」については「さまざまな考え方があるが、基本的には人権相互間の矛盾や衝突を調整するための原理であり、個人の基本的人権の制約の根拠となる中核部分は、他の個人の基本的人権である」と理解されてきた。
しかし「公共の福祉」ではなく、「公益」というワードに変わると、国家や社会全体の利益がさらに優先されやすくなり、「より基本的人権を制限しやすくなる」という。
平弁護士は「もし草案の第2案を作るのであれば、『公共の福祉』というワードを入れるべき」と述べた。