元人気タレントの中居正広さんが、フジテレビのアナウンサーだった女性に性暴力を加えた問題で、総務省は、フジテレビと親会社フジ・メディア・ホールディングスに対して、厳重注意の「行政指導」をおこないました。
行政指導は、村上誠一郎総務大臣の名で出され、理由について「自主自律を基本とする放送法の枠組みを揺るがすものであり、極めて遺憾」としています。
報道によると、総務大臣の名で出されることが少なく、総務省が「非常に重いもの」と説明している今回の行政指導。それが持つ意味とは何なのでしょうか。行政法にくわしい吉村類弁護士に聞きました。
⚫︎「法的拘束力」がない行政指導
行政指導は、行政手続法に定義されています。
行政手続法2条6号:行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
たとえば、高層マンション建設によって日照の影響を受ける近隣住民との紛争を円満に解決するために行政が建築主に対して住民との話し合いを求めたり、行政の窓口に申請書を提出する際に申請の内容を変更するように求めることなどが行政指導としておこなわれています。行政指導はそれ自体では「法的拘束力」を発生させません。
よく似た言葉として、行政処分というものがあります。こちらは一方的に相手方に義務を課したり権利を制限するなどの法的効果を発生させるものです。
たとえば、事業者が営業許可を受けようと申請した場合にこれを拒否する処分(申請に対する処分)、飲食店で食中毒事件が発生した際に食品衛生法に基づき営業を一時停止する処分(不利益処分)などがこれにあたります。
一般に、行政指導は、法令に直接の根拠がない場合にもニーズに合わせて相手方に任意の協力を求める手法として多く利用されています。
⚫︎テレビ局に行政処分をおこなった例はない
テレビ局に対して従前よりおこなわれてきた行政指導はTBSの「オウム報道事案」(1996年8月)や関西テレビの「発掘!あるある大事典II事案」(2007年3月)などがありますが、これらは番組の問題に関するものです。
総務省によれば、行政処分を下されたテレビ局は今までにありません。
番組内容は「表現の自由」や「国民の知る権利」といった憲法上の権利に関わるものであり、公権力による介入は控えるべきものと考えられています。
放送法も「放送番組編集の自由」(放送法3条)を規定し、放送事業者の自主自律によることを基本とすることを定めています。
⚫︎最大級の強い姿勢も「処分」にはつながらない?
テレビ局に対して行政指導が出された近年の例では、総務大臣名で出されることもありましたが、情報流通行政局や総務省の地方支分部局の局長名などで出されることが多くありました。
今回の行政指導は、所管する総務省の長である総務大臣名で出すことで、両社に対して最大級に強い姿勢で対応を求めたことを示そうとしたものと思われます。
では、「処分」まで検討しているのかというと、そうとは言えません。
放送法に違反した場合の行政処分として、総務大臣は3カ月以内の期間を決めて放送業務の停止命令(放送法174条)、停波処分(電波法76条1項)をすることができることになっています。
第三者委員会の調査報告書は両社が組織として極めて重大かつ根深い問題を抱えていることを示していますが、この調査は放送法違反の有無等の調査を目的としておこなわれたものではありません。
今回の行政指導でも「再発防止に向けた取組が十分でないと認められる場合には、貴社が真摯に取り組むよう必要な措置を求めることがある」と記すに留まっています。
そのため、現時点では、今回のケースに関して行政処分をおこなうことまでは想定していないように思われます。