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なぜ被害者が「悪者」に? アディーレ殺人事件に専門家が警鐘 真面目な人ほど陥る思考の「落とし穴」
2025年07月12日 09時28分
#誹謗中傷 #SNS #アディーレ

東京・東池袋の法律事務所内で男性職員が同僚に刺されて死亡した事件をめぐり、一部のインターネットやSNS上では被害者を「悪者扱い」するような憶測が広がっている。

男性の勤務先だったアディーレ法律事務所は7月4日、公式ホームページで声明を発表。根拠のない情報の拡散が「二次被害」だとして、強い懸念を表明した。

この状況を受け、殺人事件や航空海難事故、災害派遣など様々な惨事ストレス下にて心のケアに従事してきた神崎保孝氏は「弁護士の先生方とは仕事で協働することも多く、法律分野で働く方々を身近に感じていたため、衝撃と心痛の極み」と語る。

なぜ、被害者が責められてしまうのか。その背景にある「思考の癖」を指摘する。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)

東京・東池袋の法律事務所内で男性職員が同僚に刺されて死亡した事件をめぐり、一部のインターネットやSNS上では被害者を「悪者扱い」するような憶測が広がっている。

男性の勤務先だったアディーレ法律事務所は7月4日、公式ホームページで声明を発表。根拠のない情報の拡散が「二次被害」だとして、強い懸念を表明した。

この状況を受け、殺人事件や航空海難事故、災害派遣など様々な惨事ストレス下にて心のケアに従事してきた神崎保孝氏は「弁護士の先生方とは仕事で協働することも多く、法律分野で働く方々を身近に感じていたため、衝撃と心痛の極み」と語る。

なぜ、被害者が責められてしまうのか。その背景にある「思考の癖」を指摘する。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)

●「真面目な人」ほど陥る罠

神崎氏が警鐘を鳴らすのは「公正世界仮説」と呼ばれる心理バイアスだ。

これは、「世界は公正であり、良い行いをした者には良いことが起こり、悪い行いをした者には悪いことが起こる」という思い込みだ。一見、道徳的で望ましい考え方にも思えるが、現実の世界には理不尽や不条理が確かに存在している。

「この仮説に囚われすぎると、『被害にあったのは、その人に落ち度があったからでは』と、無意識のうちに被害者の責任を探し始めてしまう」と神崎氏は説明する。

さらに「皮肉なことに、自分自身の責任感が強く、生真面目な方ほどこのバイアスに陥りやすい傾向があります」と強調。

こうした思考は、被害者やその関係者へのバッシング、あるいは学校・スポーツ現場における教育的虐待や体罰を正当化する思考にもつながるという。

●アディーレも「根拠ない憶測」強い懸念

アディーレ法律事務所は7月4日、公式サイトに声明を掲載し、ネット上で拡散する被害者に関する憶測や誹謗中傷に対して強い懸念を表明した。

声明では、「被害者に関する憶測による根拠のない情報発信は、故人の尊厳を深く傷つけ、ご遺族の心を二重に苦しめる、極めて痛ましい『二次被害』に他なりません」と強く批判。

続けて「このような情報の投稿・拡散をお控えいただくとともに、既に投稿されたものにつきましては、削除対応を強くお願い申し上げます」と呼びかけた。

●「不利益=努力不足」という誤認

公正世界仮説の厄介さは、自己責任論の過剰な強化にもつながる。

「犯罪被害に限らずあらゆる不利益が、努力不足や管理不足によるものだと思い込む危険性があります」と神崎氏は憂慮する。

そうした考え方が強まれば、理不尽な状況―たとえば病気や災害、失業などまでもが、本人の責任だとみなされ、必要な共感や支援が遠のいてしまう恐れがあるという。

●「黙って見守る」ことも支援

最後に神崎氏は、事件を受けて何か行動したくなる人々へこう呼びかける。

「“働きかけること”と“そっとしておくこと”の境界を見誤らないことが、真の支援につながります。大切なのは『Do No Harm(さらなる害を与えない)』という姿勢です」

事件の背景や真相が明らかになるには時間がかかる。今必要なのは、誰かを軽率に裁くことではなく、事実に基づいて冷静に受け止め、当事者の尊厳を守る姿勢かもしれない。

【プロフィール】
神崎保孝(かんざき・やすたか)
現在までに東京大学大学院医学系研究科、九州大学理事主宰北九州政策研究ネットワークなどに在籍。行政の重大事態第三者調査委員や精神鑑定人として弁護士とも協働。医療系大学や総合病院のアドバイザー、教育委員会スーパーバイザー、オリンピック代表選手のメンタルアドバイザーなどを歴任。熊本地震、航空・海難事故、殺人事件、自死遺族支援などで心のケアに従事。

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