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「特定の病気」への偏見を助長する!? 自動車事故「厳罰化法」の問題点とは?
2013年11月21日 11時45分

悪質な自動車運転で他人を死傷させた場合の罰則を強化する「自動車運転死傷行為処罰法」が11月20日、参議院で可決、成立した。

新法の柱は、悪質な運転に適用される「危険運転致死傷罪」に、新しいルールが盛り込まれたことだ。飲酒や薬物使用、特定の病気の影響により「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で事故を起こした場合の罰則を、死亡事故は懲役15年以下、負傷事故は懲役12年以下とする、という内容だ。

ところが、この「特定の病気」に関する条項に対して、日本てんかん学会や日本精神神経学会などは反対の声を上げていた。「特定の病気」には、てんかんや統合失調症などが想定されているからだ。

この「特定の病気」に関する条項は、なぜ盛り込まれたのだろうか。また、反対があるのは、なぜなのだろうか。重大な交通事故案件を多く扱う宮田卓弥弁護士に聞いた。

悪質な自動車運転で他人を死傷させた場合の罰則を強化する「自動車運転死傷行為処罰法」が11月20日、参議院で可決、成立した。

新法の柱は、悪質な運転に適用される「危険運転致死傷罪」に、新しいルールが盛り込まれたことだ。飲酒や薬物使用、特定の病気の影響により「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で事故を起こした場合の罰則を、死亡事故は懲役15年以下、負傷事故は懲役12年以下とする、という内容だ。

ところが、この「特定の病気」に関する条項に対して、日本てんかん学会や日本精神神経学会などは反対の声を上げていた。「特定の病気」には、てんかんや統合失調症などが想定されているからだ。

この「特定の病気」に関する条項は、なぜ盛り込まれたのだろうか。また、反対があるのは、なぜなのだろうか。重大な交通事故案件を多く扱う宮田卓弥弁護士に聞いた。

●新法の背景には「てんかんの発作」によって起きた事故がある

「今回の法律に病気に関する条項が含まれることになった直接の背景は、2011年に栃木県鹿沼市で発生した死亡事故です。

この事故の加害者(運転手)は、クレーン車を運転中にてんかんの発作を起こし、6名の児童を死亡させました。加害者にはてんかんの持病がありましたが、運転免許の取得や更新の際に持病を申告せず、薬の服用を怠っていました。加害者はまた事故当時、別の事故で有罪判決を受け、執行猶予中でした」

この事故をめぐり、どのような議論があったのだろうか。

「加害者には当初、危険運転致死罪(最高刑・懲役20年)の適用が検討されましたが、この罪の処罰対象である『故意による無謀運転』があったかどうかが問題となり、最終的に同罪の適用は見送られました。

この加害者は結局、自動車運転過失致死罪(最高刑・懲役7年)で処罰されましたが、遺族らは刑があまりにも軽すぎると指摘し、法改正を求めていました」

今回の法律は、こうした状況に対する立法府のリアクションで、高いハードルがあった「危険運転致死傷罪」と、それ以外の「自動車運転過失致死傷罪」(最高刑・7年以下の懲役)とのギャップを埋めるため、その中間となる「新類型」を作りだした、ということだ。

「今後、政令によって、てんかんが『特定の病気』として定められれば、鹿沼市の事故と同じような事故が起きた際に、この『新類型』で処罰できるようになります。その意味では、今回の法案は、刑罰に被害者の意向を重視しようとする最近の傾向に沿った形といえます」

●問題なく運転できる「患者」が大半を占めている

この新ルールには、どんな問題点があるのだろうか。

「いま懸念されているのは、法律が病名を特定することによって、その病気が自動車の運転に支障を及ぼす危険なものである、との誤った偏見を形成・助長するおそれです」

どういうことだろうか?

「特定の病気の患者が事故を起こせば、すぐにこの条項が適用されると考えるのは『誤解』だということです。

本来、この法律が処罰しようとしているのは、たとえば、てんかんの持病を申告せずに運転免許を取得し、服薬を怠って運転し、てんかんの発作により運転が困難になった結果、人を死傷させたような場合です

現実的には、てんかん患者であっても、治療により運転適性を有する状態を維持している人が大半を占めています。このような方々は、新しい法案の処罰対象には含まれてこないでしょう」

残念ながら、こうした話は、まだ十分周知されているとは言えなさそうだ。

「このままだと、特定の病気だけを理由に処罰されるという『誤解』が国民に広まってしまう可能性があります。そうなってしまえば、病気に対する差別が助長され、患者の社会参加を妨げることにつながりかねません」

ごく一部に悪質なケースがあったからといって、それが患者全体の差別につながるような事態は、絶対に避けなければならないだろう。宮田弁護士のこうした思いが、一人でも多くの読者に伝わることを願いたい。

(弁護士ドットコムニュース)

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