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あおり運転で初の「殺人罪」適用、交通事故では異例…「未必の故意」はどう判断する?
2018年08月11日 08時24分

大阪府堺市内でバイクに乗っていた男子大学生が亡くなった事故で、大学生をあおり運転で死亡させたとして、大阪地検堺支部が7月下旬、自動車を運転していた男性を起訴した。読売新聞の報道によれば(7月23日付け)、男性は大学生が運転するバイクに追い抜かれたことに腹を立て、加速して追跡。時速96~97キロで追突して転倒させ、殺害したという。

あおり運転への殺人罪の適用は異例とも報じられている。今回の事件において、なぜ殺人罪が適用されることになったのか。この判断について、交通問題に詳しい弁護士はどのように評価するだろうか。清水卓弁護士に聞いた。

大阪府堺市内でバイクに乗っていた男子大学生が亡くなった事故で、大学生をあおり運転で死亡させたとして、大阪地検堺支部が7月下旬、自動車を運転していた男性を起訴した。読売新聞の報道によれば(7月23日付け)、男性は大学生が運転するバイクに追い抜かれたことに腹を立て、加速して追跡。時速96~97キロで追突して転倒させ、殺害したという。

あおり運転への殺人罪の適用は異例とも報じられている。今回の事件において、なぜ殺人罪が適用されることになったのか。この判断について、交通問題に詳しい弁護士はどのように評価するだろうか。清水卓弁護士に聞いた。

●なぜ殺人罪で起訴?

なぜ、異例とも報道されている殺人罪で起訴がなされたのか。

「報道を通して現時点で得られた情報から検討してみます。

前提として、殺人罪が成立するためには、殺人罪の故意=殺意があること、すなわち、相手が死ぬということがわかっていて殺人行為をしたことが必要とされています。

交通事故の場合、一瞬の不注意(過失)で死傷事故が起き得ることもあり、事故を起こした加害者の事故当時の認識を立証することが困難なことも多く、殺人罪での起訴が難しいという事情があります。殺人罪の適用が異例と報道されているのは、このような事情によるものと思われます。

しかしながら、相手が確実に死ぬとわかっている(確定的故意がある)場合のみならず、相手が確実に死ぬとはまではわかっていないが、もし死ぬなら死んでもかもわないと思っている(未必の故意がある)場合にも、殺人罪の故意があるものとして処罰の対象になります」

●「未必の故意があるとして踏み切った」

報道によれば、今回の事故では、加害車両に搭載されていたドライブレコーダーの解析捜査等により、加害車両の運転者が約1キロにわたってバイクをあおり続け、時速100キロ近くで加害車両をバイクに追突させたことが確認されているようだ。

「今回は、あおり運転の動機(バイクに追い抜かれたことに立腹)、あおり運転の態様・経路(車線変更して逃げようとしたバイクの運転者を執拗に加速して追跡)、あおり運転を継続した時間・距離、追突の仕方、追突時の速度等が検討されたはずです。

このような危険なあおり運転をすれば、バイクの運転者が死ぬかもしれず、それならそれでかまわないと加害車両の運転者が思っていた、すなわち、未必の故意があると言えるものとして、殺人罪での起訴に踏み切ったものと思われます」

●「あおり運転に厳正に対処する動きの一環」

今回の捜査機関の対応について、清水弁護士はどのように評価しているのだろうか。

「今回の警察の対応は、社会問題化しているあおり運転に厳正に対処する動きの一環と思われます。

この数年、あおり運転による事故が社会問題化しており、悪質・危険な運転に対する厳正な対処の動きが出てきています。例えば、2018年1月には、警察庁から全国の警察に対し、あおり運転等の悪質・危険な運転に対し、道路交通法違反、危険運転致死傷罪(妨害目的運転)、暴行罪等あらゆる法令を駆使して、厳正な捜査を行うよう通達がなされています。

今回、起訴がなされたことにより、あおり運転という危険な運転行為による死亡事故を殺人罪に問えるか否かにつき、裁判所の判断が示される見込みです。また、ドライブレコーダー等、事故当時の状況を客観的に立証可能な証拠があったことも、今回の殺人罪での起訴を可能にさせた大きな要因と思われます。

裁判所がどのような判断を下すのか、刑事裁判の行方を注視したいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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