健康にもかかわらず、ある日突然「認知症」だとして強制入院させられた男性と、その代理人弁護士が8月7日、東京都内で記者会見を開き、当該病院に対する予告なしの立ち入り調査や第三者委員会の設置を厚生労働省に要望したと発表した。
●羽交い締めで400キロ連行、薬で心身に変調
強制入院させられたのは、富山市在住の江口實さん(83)。
代理人の西前啓子弁護士によると、江口さんは2018年12月12日、富山市内の勤務先で突然羽交い締めにされ、自宅から400キロ以上離れた栃木県の報徳会宇都宮病院に車で連れて行かれた。
幸い、江口さんの知人が外部に相談したことで退院できたが、37日間の入院中に向精神薬の服用を強いられた結果、物が二重に見える、手が震えるといった症状が現れるようになったという。
江口さんは、病院の医師らの行為に疑問を抱き、病院を相手取り損害賠償を求めて提訴。宇都宮地裁は今年5月、江口さんに対する医療保護入院は違法だったと認定し、医師らに損害賠償を命じる判決を下した。
●「予告なしの立ち入り調査を」厚労省に10項目を要望
この判決を受けて、江口さんの代理人と、精神医療の問題に取り組む団体「市民の人権擁護の会日本支部」は7月、同様の人権侵害を防ぐため、以下の10項目を求める要望書を厚労省に提出した。
(1)宇都宮病院に対して、予告なしの立入調査を行い、直ちに適切な情報収集を行ってください。 (2)栃木県内の他の精神科病院にも同様に、予告期間なしの実態調査を行ってください。 (3)第三者調査委員会の設置命令を発出してください。 (4)医療保護入院の必要性が認められない患者を、直ちに適切に退院させてください。 (5)医療法に基づく開設許可を取り消し、入院患者を転院させてください。 (6)国に対して「司法が認定した違法な強制入院」の事例として報告してください。 (7)3人の医師免許に関する処分を国に求めてください。 (8)刑事訴訟法第239条第2項に従い、刑事告発してください。 (9)栃木県当局の監督権限強化を求めてください。 (10)適法性だけではなく、良質な医療の実現を前提とした指導・監督を行ってください。
●「デタラメな診断」で強制入院
西前弁護士らは8月7日の記者会見で、厚労省から一応の回答はあったものの、具体的な再発防止策は示されなかったと明らかにした。
江口さんは、自身が精神科病院に連れて行かれた当時の状況を次のように振り返った。
「宇都宮病院の精神科医は、僕がまったく病気ではないのに病気にしてしまった。身体に必要ない薬を大量に飲まされ、今も苦しんでいます。医師はそういうことをするべきではないし、絶対にしちゃいけないと思います」
病院側は認知機能に問題のない江口さんについて、「記銘障害」「妄想」「感情失禁」「焦燥」「興奮」「暴言・暴力行為」などと記載した入院届を栃木県知事宛に提出していたという。
西前弁護士らは、精神障害のない人に対して医師が根拠のない診断を下すことで、容易に強制入院させられてしまう点に深刻な問題があると指摘。現状の調査では、こうした違法な人権侵害を防ぐことができないとうったえている。
●「精神科病院はブラックボックス」
西前弁護士は会見で「一見、適法に見えるような手続きでこうした医療保護入院をさせられることが問題であり、なぜこんなことができるかというと、精神医療においては科学的に根拠がないことも通るという点が一番大きいと思います」と話した。
市民の人権擁護の会日本支部長の小倉謙さんは次のように強調した。
「精神科病院で何が起きているのかは、まったくのブラックボックスです。その中で患者への虐待や不正行為がおこなわれています。第三者の目にいかにふれさせるかが喫緊の課題で、退院を促していく制度をつくることも重要です」