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服役11回、刑務所に半世紀の男性「今、幸せです」 生き直しを支えるもの
2018年12月24日 09時39分

服役11回、刑務所生活はおよそ50年――。どんな人相の人が出てくるのかと思えば、登場したのはむしろ気の弱そうな、小柄な老人だった。

福田九右衛門さん(87)は、人生の半分以上を刑務所で過ごした。軽度の知的障害があるものの、障害福祉サービスとつながったことはなかった。身元引受人はおらず、出所するたびホームレスになっては、刑務所に戻るため犯罪を繰り返した。

しかし、2016年に出所したときは違った。ホームレス支援のNPOが出迎えてくれたのだ。福田さんは現在、北九州市内の施設で暮らす。「僕は今、幸せです」――。もう刑務所には戻らないと誓っている。

NPO法人監獄人権センターは11月、出所後の福田さんに密着したテレビドキュメンタリー「生き直したい〜服役11回・更生の支え〜」の上映会を開いた。イベントには、福田さんもゲスト参加した。

服役11回、刑務所生活はおよそ50年――。どんな人相の人が出てくるのかと思えば、登場したのはむしろ気の弱そうな、小柄な老人だった。

福田九右衛門さん(87)は、人生の半分以上を刑務所で過ごした。軽度の知的障害があるものの、障害福祉サービスとつながったことはなかった。身元引受人はおらず、出所するたびホームレスになっては、刑務所に戻るため犯罪を繰り返した。

しかし、2016年に出所したときは違った。ホームレス支援のNPOが出迎えてくれたのだ。福田さんは現在、北九州市内の施設で暮らす。「僕は今、幸せです」――。もう刑務所には戻らないと誓っている。

NPO法人監獄人権センターは11月、出所後の福田さんに密着したテレビドキュメンタリー「生き直したい〜服役11回・更生の支え〜」の上映会を開いた。イベントには、福田さんもゲスト参加した。

●「重大犯罪の当事者を主人公にして良いのか」という反対も

福田さんは京都生まれ。父から虐待を受けることもあったといい、そんな父を困らせようと、22歳のとき放火したのが服役生活の始まりだった。父は自殺し、親類とは疎遠になった。

最後に服役したのは、2006年1月に起きた下関駅放火事件。深夜だったため、幸いにして死傷者は出なかったが、貴重な文化財でもあった駅舎が全焼し、被害額は5億円以上にもなったという。

番組ディレクターの長塚洋さんは、「重大犯罪の当事者を主人公にして良いのかという反対も多かったんです」と企画当時を振り返る。

それでも押し通したのは、「判決まで」で終わってしまう報道への問題意識からだった。

長塚洋さん

番組は高く評価され、テレビ朝日系列24社の自社制作番組から選ぶ「プログレス賞」(2018)の最優秀賞などを受賞した。

なお、下関駅放火事件は、福田さんが福岡刑務所を出所して8日後の出来事だった。福田さんは「刑務所に戻りたい」と万引きを繰り返すなど、この短期間に警察や区役所、福祉事務所など8つの公的機関と接触している。しかし、どこも対応できなかった。

だからといって放火が許されるわけではないが、第一報の「出所してすぐに放火」とは違う印象を受けるのもまた確かだ。事件は司法と福祉の連携不足など、多くの課題を浮き彫りにした。

●「今まで誰も引き受けんでね、寂しくて」

番組は、福田さんの出所シーンから始まる。出迎えたのはホームレス支援などに携わる東八幡キリスト教会(北九州市)の牧師・奥田知志さん、伴子さん夫妻。

「あなたは一人じゃない」「ずっと待っていましたよ」。関係者らも福田さんに声をかける。当時84歳が経験する、初めての温かい歓迎だ。

福田さんはしばらく教会で暮らした後、奥田さんが理事長を務める認定NPO法人「抱樸(ほうぼく)」の支援付住居施設「抱樸館北九州」で生活を始める。カメラはそんな福田さんに密着する。

「生き直したい〜服役11回・更生の支え〜」

教会のイベントやホームレス支援の炊き出し、デイ・サービスなど。さまざまな人とかかわる中で、福田さんに笑顔が増えていく。

2016年の夏には、全焼させた下関駅に謝罪に行った。「みんなに迷惑をおかけしました」。福田さんの言葉に駅長は「体に気を付けて頑張ってくださいね」と声をかけた。

先々を考え、教会の小さな納骨スペースも予約した。周りには同じように身寄りのない人たちも眠る。「安心した。無縁仏じゃ困る」。そうつぶやく福田さんに、奥田さんは語りかける。

「もう無縁やないわな。亡くなってからも(福田)九右衛門さんのことを覚えてくれてる人がずっとまだおるっちゅうことよ。出会った人がここに来て九右衛門さんの話をするわけ。もう無縁やないよ」

番組中、「もう火をつけないか」と尋ねられ、福田さんは「つけない」と答える。過去10回と何が違うのか。「今まで誰も引き受けんでね、寂しくて…。今寂しくない」――。

●「出会い」が支えに

この日、会場で番組を観た福田さんは、感想を聞かれて「照れくさい」と答えた。

会場に着いたときは、多くの人から「ようこそ」「会いたかった」と声をかけられたそうだ。福田さんに同行した奥田さんは、「刑務所で『ようこそ』なんて言われない」と笑いを誘いながら、「自分で自分には言えない言葉。他者性の極みのようなもの」だと話した。

福田九右衛門さん(左)、奥田知志さん

奥田さんは言う。「人間が大元持っている問題はなくならないと思う。(福田さんに)火をつける可能性は残っている。あの時の状況が再来するとそうなりますよ。そのリスク以上に、もっと大事なものができたということ」

それは多くの人との出会い、つながりだ。「この人たちがあの日、駅にいたら大変なことになる。それが分かるのも出会いがあるから。だから、できるだけ一緒に(講演の)旅に出て、たくさんの人に会ってもらいたいと思う」

妻の伴子さんは、「引き受けが決まって、84年間を丸ごと一緒に生きてみるかと覚悟を決めた」と話した。

「(福田さんは)この2年間、日に日に人生を取り戻していて、とても明るく、楽しく生きている。出会いによって、そういう風に生きられる人はたくさんいると感じています」

奥田伴子さん

●「太いロープではなく、たくさんの細い糸で」

福田さんには、奥田さん夫妻や施設関係者のほか、精神科医や保護観察官など、多くの専門家がかかわっている。しかし、出所から2年以上がたち、その役割は減っている。奥田さんは「日常に入ると質より量」だと言う。

「太いロープではなく、細い糸みたいなもの、何百本もの絡みの中で生きていくのが共生社会。資格がある人が集まって、『よっこらせ』とやっているわけじゃない。どれだけ多くの人の中で、ごまかしごまかし絡めていくか」

福田さんは、「刑務所の中に友だちはいた。外にはいなかった」と話す。しかし、今は多くの人に囲まれ、「幸せ」だという。現在87歳。「100歳まで生きる」と力強く語った。

イベント後、福田さんは会場の出口に立ち、参加者と握手を交わした。福田さんの前に並ぶ列はなかなか途切れなかった。

福田さん

「生き直したい〜服役11回・更生の支え〜」は、12月下旬にテレビ朝日系で約1時間の完全版が放送される。テレビ朝日は12月29日午前4時50分から。

【放送予定】

・12月24日、岩手朝日テレビ(4:25~)

・25日、九州朝日放送(26:40~)

・27日、秋田朝日放送(13:55~)、愛媛朝日テレビ(26:20~)

・28日、長野朝日放送(10:32~)、北海道テレビ(25:25~)

・29日、テレビ朝日(4:50~)、メ~テレ(4:50~)、山口朝日放送(4:50~)、新潟テレビ21(4:55~)、熊本朝日放送(27:50~)

・30日、北陸朝日放送(4:50~)、瀬戸内海放送(4:50~)

・31日、朝日放送テレビ(4:50~)

(弁護士ドットコムニュース)

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