先の参議院選で非改選分を含めて15議席を確保し、大きな存在感を示した参政党。「日本人ファースト」というキャッチコピーで注目を集める一方、その排外主義的な色彩には強い批判も向けられている。
その参政党が公表した憲法草案「参政党が創る作る 新日本国憲法(構想案)」は大きな議論を呼んでいる。今回は、憲法に関する訴訟を多く手がけてきた平裕介弁護士にこの草案を深掘り解説してもらった。
平弁護士は「一見すると、多くの法律家がまともにコメントしても仕方ないのではないか、と思うような草案ですが、実は、よく練られた内容となっており、侮れない」と評価をしつつも、「このまま運用すれば人権侵害だらけの世の中になる」と厳しい問題点を指摘する。
●「怪文書」にもみえるが、実は「よく練られた文章」
参政党の憲法草案をめぐっては、一部の学者から「こんなの憲法じゃない」「素人が作った怪文書」といった批判も出ている。だが、平弁護士は異なる見解を示す。
「割と練られているんじゃないかなという印象です。多くの日本国民のメンタリティや、考える憲法のイメージを踏まえて作り込まれたものではないか」。
憲法をよく知っている人が、よく知らない人に向けて作成した「練られた文章」だという。
一方で、その内容については「近代的な憲法、立憲的な憲法とは到底言えない。このまま運用したら人権侵害だらけの世の中になってしまう」と断じた。
●「十七条憲法」に近い発想
草案の特徴として、平弁護士が挙げるのは、「国の基本的なあり方を定めたルール」という性格を強調している点だ。これは、国民の権利や自由を守るために国家権力を縛る──という立憲主義的な発想のものではない。
「聖徳太子の『十七条憲法』の発想に似ています。道徳的な規範を憲法に盛り込んでいる」と分析。そのうえで「道徳を入れ込みすぎると、抽象的なルールによって基本的人権を制限できることになってしまう」と警告した。
●「国民主権」が欠落している
とくに深刻な問題として、平弁護士は「国民主権が明記されていない」ことを挙げる。
現行憲法は国民主権を明確に規定しているが、参政党の草案では第4条に「国は主権を有し」とあるだけで、国民主権には一切触れられていない。
「読み方によっては、あらゆる意味の主権が国家だけにあるとも解釈できてしまう。主に、主権には外国との関係での『対外的独立性』と、国内政治との関係での『政治的な最終決定権』の意味があるが、後者が不明確になっている」と指摘する。
「当たり前のことだから書いていない」という参政党側の反論に対しても、平弁護士は「他の政党や政治家が政権を取ったときに、『明確に書いていないから、国民主権という意味ではなく、国家主権だ』という形で、市民の基本的人権を簡単に侵害してしまう危険性がある」といい、現行憲法前文や第1条のように、国民主権を明記することの重要性を強調した。