望まない妊娠を繰り返し、出産するたびに赤ちゃんの遺体を押し入れに。3人の我が子が眠るその場所の近くに布団を敷いて寝起きした。
その女性は今年2月、殺人と死体遺棄の罪で懲役6年を言い渡され、受刑者となった。
なぜそんな状況が生まれてしまうのか。記者が女性とやり取りした手紙の一部を紹介する。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●「といって私の犯したことは許されない」
初めて届いた手紙の冒頭、女性は事件を起こすまでの経緯を次のように書いてきた。
私自身は、とても生き辛いとずっと思っていました。
精神鑑定をしてもらい、知能指数が87で正常域内なのですが、下限で、できないことがあり、生き辛さがあってもおかしくはないと言われ、ADHDと診断されました。
日常生活で問題を起こしてしまうこと…わざとではないのに親は原因がADHDと分かっていないので小学生になった頃から度々叱責されることの積み重なりと祖母から「いらない子」と言われ続けたり、小2〜中3でいじめを受けたことも含めて、非常に自己肯定感が低いと言われました。
この事件を起こしたことで、分からなかったら、私はずっと生き辛い、しんどいと思うことの多い人生を歩み続けたと思います。
女性は手紙に「祖母から『いらない子』と言われ続けた」と書いてきた(弁護士ドットコムニュース撮影)
人に頼ること、相談、自分の思いを伝えること、わがままを言うことが苦手で、嫌な顔を見るくらいならガマンをして耐えるというのが私です。耐えることは一番慣れてしまっていました。
だからといって私の犯したことが許されることではありません。
私が生きている一生は子ども達を忘れてはならないし、謝り続けることしかできません。
私は恋人にとても依存してきました。恋人の言うことは絶対というように徒ってしまっていました。
地元で介護職をしていた私は当時の恋人に言われて介護職を辞めて風俗店で働くように言われたところからおかしくなりました。
地元の風俗店で働いている時、出稼ぎに行くように言われて●県■市に来ました。
地元の知り合いも出稼ぎに来ておりその子と飲みに行ったメンズパブのホストに風俗嬢ということで色恋され一緒に住むようになりました。
その際、デリヘルで働いていた私はホスト(Dさん)からソープへ移るように言われ、ソープへ移籍しました。Dさんはソープ店からスカウトバックをもらっていて(知りませんでしたけど)私が思ったより稼がない為別れてアパートを出て行きました。
生理が遅れていて、もしかしたら妊娠したかもしれないと思っている頃に出会い系アプリでボーイズバーで働くホスト(Mさん)と知り合いMさんが私のアパートに住みつきました。Mさんも色恋だったそうです。
Mさんは暴力、スマホチェック、行動の制限、売上報告させて管理、携帯を解約させられ、搾取され続けました。
携帯はMさんからwifiを持たされていたので、ラインやネットは使えました。(wifi、Mさんの携帯代、Mさんの食費・服代・交通費、その他娯楽費など全て私が支払いでした)
そして私は住民票がなく(職権削除されていました)、保険証もなくて病院へは行けず、搾取により困窮していました。住民票はMさんから「結婚する時にうつせばいい」と言われていて、うつしていませんでした。
それをふまえて、お聞きしたいと思っていらっしゃることにお答えさせて頂きます。
●3人を遺棄した経緯
──どんな経緯で赤ちゃん3人の遺体を遺棄した?
Mさんにより色々制限されている中、1人目を死産しました。解約された携帯では119もできず、出産すぐで公衆電話まで行くには難しい状態でした。
届が必要なことは分かっていましたが、病院にどうやって行くか、行っても冷たくあしらわれるのでは…それに病院代を支払えないとなっていました。
それに届をもらえたとしても、その時の私は■に住民票がないから、地元でないと手続きができないと思っていました。
どうすることもできず、どうしよう…となりました。
いつかちゃんと供養してあげなくては…とは思いつつ、その時はそうするしかないと思ってしまい押し入れに入れました。
警察が来た時はやっと供養してあげれるとほっとしました。
地元にいる2人の子どもに私のしたことの影響があるのではと思いそれを避けたい気持ちもありました。結局は影響させてしまって申し訳ないです。
──これまで出産したのは5人?
合計5人出産で合っています。2人が存命、事件の1人目が死産、2人目が殺害、3人目は死因不明になります。
3人目は気を失っている間に死亡しています。過失致死と言われてもおかしくはなかったと思います。
──出産時のリスクは考えていた?
リスクがあることは分かってましたが、その時はこれで死んでしまったらそれはそれでいいやと思ってました。 (私がです)
「一緒にいたいけど、いれない…いてあげれない」。受刑者となった女性から届いた手紙にはそう書かれていた(弁護士ドットコムニュース撮影)
●「ホストがヒモ化」、費やしたのは2000万円以上か
──いつごろから経済的に困るように?
介護の仕事をしていた頃から。 子にかかるお金や家から会社が遠く、ガソリン代や車の維持費、友達や会社の人との付き合いからです。
■に来てからは、ホスト…になりますね。 そのホストがヒモ化してしまって、お金がないという感じです。
──ホストクラブに通うようになったきっかけは?
専門学校の同級生がたまに行っていて、その子に誘われて行ったのが最初です。
──ホストクラブに行く頻度と使ったお金の額は?
週2、3回くらいで2〜5万が平均でした。
Mさんと知り合ってからはMさんが呼ぶ時なのでまちまちですが、週4〜5が多かったです。
合計金額は2000万くらいだと思いますが、それ以上かもです。
家計のやりくりについて記者が質問したところ、女性は詳しく説明してくれた(弁護士ドットコムニュース撮影)
●オムツなくなり電気止まり、殺害を決意
──4人目の赤ちゃんを殺害しようと決めたきっかけは?
おおつの残りがなくなったのがきっかけです。 でもあきらめたのは電気が止まって、支払いをして赤ちゃんポストに行けるお金がなくなったこと。
そこから殺害のことは少なからず考えてました。 一緒にいたいけど、いれない…いてあげれない。 という感じでした。
──4人目を殺害する時、自分の母乳がついたタオルを赤ちゃんの顔にかぶせて外出した理由は?
理由は、せめて自分のにおいのあるもの、一番身近であったもの(赤ちゃんにとって)として、母乳をあげてない時に胸にあてて、乳パット代わりにしていた母乳のついたタオルを使いました。
──赤ちゃんの顔にタオルをかけた時の気持ちは?
一緒にいてあげれなくてごめんねという気持ちでいっぱいでした。
前後の行動は、添い寝した後に服を着替えて、泣き声を聞いてしまうと気持ちがゆらいでしまうと思ってすぐに立ち上がれるようにまくらに座ってかけたらすぐに立ち、部屋を出ました。
我が子を殺めようとした時の心情を説明した女性の手紙(弁護士ドットコムニュース撮影)
──息を引き取った赤ちゃんと添い寝した時の気持ちは?
少しでも一緒にいる時間がほしかったんだと思います。離れたくなかったです。
──赤ちゃんの遺体を自宅の押し入れに入れた理由は?
離れたくなかったのと、いつかちゃんと供養をしてあげたかったです。
においはあって、Mさんも住んでいるので、消臭剤を置いたり、香水やボディスプレーなどを部屋にふってました。
●「何より風俗の仕事についていなければよかった」
──中絶しようとは思わなかった?
中絶はどの子でも考えましたが、Mさんによるさくしゅにてお金がなかったことが理由です。保険証もなかったですし…。
──妊娠して出産するまでの間、おなかの赤ちゃんについて何を思いながら生活していた?
ずっと『どうしよう』という思いでした。でもその中にも元気に産まれてくるかな?男かな?女かな?となってました。なんとかしなきゃとはなるんですが、なかなか行動にできませんでした。
──相談したり頼ったりできる人はいた?
ADHDの特性でもあり、頼ることが苦手で、友人関係もMさんに制限されていたので、相談できる人はいませんでした。
家族はずっと親に叱責され続けた私にとって相談できる相手ではありませんでした。
──今振り返って、「こうしておけば事件を防げたかもしれない」「こうすればよかった」などと感じることがあれば教えてほしい。
安定していた介護職を辞めてしまったことです。辞めてなければ住民票も保険証もあって、こうはなっていなかったと思います。
今となればですが、役所にかけこめば良かった、暴力をふるわれた時に110しておけば良かった、何より風俗の仕事についていなければ良かった。
視野がせまかったこと、依存してしまったことが原因です。
塀の中から記者に届いた手紙は丁寧な文字で書かれていた(弁護士ドットコムニュース撮影)
●「『よく頼ってくれたね。大丈夫』それだけで救われます」
──望まぬ妊娠や赤ちゃん殺害事件を防ぐために、社会や周囲の人ができることはある?
周囲の人が気付いてあげてほしいと思いました。難しいことかもしれません。
住民票の職権削除も役所からすれば業務の1つだと思いますが、さらに追いつめられる人もいます。(私はそうでした。)忙しいとは思うけど、ちゃんと調べてほしいと思いました。
SOSを出すのが何より苦手な人達です。
相談窓口というと電話か直接が多いです。携帯が止まっている、強制解約されている人はできません。
それに「今忙しいのでは…」「こんなこと言われても困らせてしまうのでは…」と遠慮している人もいます。
相手のいいタイミングで見れるメールやラインは相談としてはまだしやすいと思います。
相談のハードルはとても高いのです。困ってなんとか相談ができても、窓口では解決しません。
「じゃあ病院に行かなきゃ」「家族と相談しなきゃ」と言われても分かってるんです。できなくて困っているから立ち止まり、どうしていいか分からず途方にくれるのです。
相談窓口から色々なサポートまでつないでくれれば、こういった事件は防ぐことができていくんじゃないかと思います。
あと、否定をしないであげてほしいです。「よく頼ってくれたね。大丈夫」それだけで救われます。頼っていいんだ…と安心するのです。
親が「困った子」と判断し叱責を続ける、心配しすぎて過保護になるは自己肯定感が低くなります。
子どもにとって親は一番の味方のはずなんです。
親が子を見ているか、気付いてあげられているか、そして気付いた時にサポートしたりそういう所へつなげれるか…それが犯罪自体の減少へつながっていくのではないかと私は考えます。
親にかぎらず、周囲の人(近所の人、幼稚園・保育園・学校の先生)も気付いてあげることができるか…ですね。
少なくともその人の生き辛さは減っていくと思います。
「今までだったら逃げだしたり、あきらめていたことをせずに向き合い、一人で解決できないと思ったら相談をするをできるようになりたい」(弁護士ドットコムニュース撮影)
●「1人で解決できないと思ったら『相談する』をできるようになりたい」
──これからの服役生活をどう過ごしたい?
自分の不得意に対して向き合う時間にしたいです。
今までだったら逃げだしたり、あきらめていたことをせずに向き合い、一人で解決できないと思ったら相談をするをできるようになりたいです。
自分の思いの内を話すのは苦手ですが、しなくていいガマンをしないようになるというのは目標です。