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「債務整理は受けたくないよ」ミュージシャン弁護士が歌詞にこめた「弁護士のホンネ」
2015年04月04日 10時23分

ライブハウスでギターをかき鳴らしながら、心の叫びを熱唱するミュージシャン。だが、なぜか男性はスーツ姿で、歌詞に「弁護士」というフレーズが何度も出てくる。それもそのはず、男性はホンモノの弁護士なのだ。どうして弁護士が、自作した曲をライブで歌うのだろうか? 東京・新宿に事務所を構える藤元達弥弁護士にそのワケを聞いた。(取材・構成/重野真)

弁護士始めて約2年

初年度売上げ400万

感謝されるときもあるけど、争うのはつらいよ

藤元さんが弁護士になって初めて作った曲、その名もズバリ『弁護士の歌』は、こんなフレーズで始まる。司法試験に合格した後、弁護士になってすぐに、個人事務所を開いた。そうした新人時代ならではの葛藤が、この曲の歌詞には反映されている。

「突然電話してくる、怪しい会社経営者」

「無料相談の予約入ったけど、人生相談で終わる」

「そもそもアドバイスしても、相手にほとんど響かない」

弁護士でなくても、その光景が思い浮かび、ついクスッと笑ってしまうような内容だ。

ライブハウスでギターをかき鳴らしながら、心の叫びを熱唱するミュージシャン。だが、なぜか男性はスーツ姿で、歌詞に「弁護士」というフレーズが何度も出てくる。それもそのはず、男性はホンモノの弁護士なのだ。どうして弁護士が、自作した曲をライブで歌うのだろうか? 東京・新宿に事務所を構える藤元達弥弁護士にそのワケを聞いた。(取材・構成/重野真)

弁護士始めて約2年

初年度売上げ400万

感謝されるときもあるけど、争うのはつらいよ

藤元さんが弁護士になって初めて作った曲、その名もズバリ『弁護士の歌』は、こんなフレーズで始まる。司法試験に合格した後、弁護士になってすぐに、個人事務所を開いた。そうした新人時代ならではの葛藤が、この曲の歌詞には反映されている。

「突然電話してくる、怪しい会社経営者」

「無料相談の予約入ったけど、人生相談で終わる」

「そもそもアドバイスしても、相手にほとんど響かない」

弁護士でなくても、その光景が思い浮かび、ついクスッと笑ってしまうような内容だ。

●「笑ってほしくて作っている」

「自分としては、笑ってほしいと思って作っている曲が多いんですけど、反応はいろいろですね。リアルな曲なので、笑っていいのかどうか迷っているみたいな反応もあります(笑)」

藤元さんは、自分の曲についてこう語る。

音楽は大学時代に始めた。司法試験で一時中断していたが、弁護士になって2年ほど経ったころに再開した。日々の忙しい業務のなかで、自分が自分でなくなっていくように感じたことがキッカケだったという。

「弁護士の仕事って、自分で感じたことをそのまま言えるような場面が少ないんですよ。たとえば法律相談を受けたとき、依頼者が知りたいのは法律的・客観的にどうかで、僕が何を感じたかではありません。裁判で出す書面も、自分の意見を書くというより、法律や判例を調べて客観的なことを書くだけです。だから、自分のなかで押し殺されていることを、何かで表現したいなと思ったんです」

その表現方法が「自作曲のライブ演奏」だったわけだ。

●営業面でのメリットは・・・「ありません」

そんな思いで始めた「弁護士ライブ」だから、仕事への直接的なメリットはほとんどないという。それどころか、『債務整理の歌』という曲には、「債務整理の依頼は受けたくないよ。それがどっかの弁護士の思ってること」というフレーズすらある。どうしてこんな歌にしたのだろうか?

「債務整理の歌」の動画はこちら。

Youtube:https://www.youtube.com/watch?v=bKihkBoKuSE

ニコニコ動画:http://www.nicovideo.jp/watch/1427795945

「『弁護士だから』といって作ると、説教くさい歌や格好つけた歌になっちゃうのがすごく嫌で、そうなると普通の人に全然響かないと思うんですね。やっぱり泥臭くても、自分自身が苦しんでいたり、感じたことを歌わないと共感は得られないなと思って。営業的にはマイナスでしかないですけど、歌的にはそっちのほうがいいかなと思ってやっています」

たしかに藤元さんの歌は、「弁護士目線」ではあるのだが、いちライターとしても共感できる部分が多々ある。もし、真面目な法律相談の場で言われたらギョッとするような内容も、ギターの音色に乗せてなら「ああそうなんだ」と納得できる。そんな不思議さもあった。

そんなわけで、営業面では「かける労力に比べたら明らかにマイナス」ということだが、音楽をやっているおかげで依頼者と話が弾むこともあるそうだ。

ある覚せい剤事件で国選弁護を引き受けたときには、たまたま被告人がミュージシャンだった。しかも、その人が行ったことのあるライブハウスに、藤元さんも出演していたという縁があったそうだ。

保釈請求して薬物依存症の治療を受けてもらい、裁判でも再犯の可能性がないと主張したが、あえなくこのミュージシャンは刑務所に入ることとなった。それでも最後は「出所したら同じライブハウスで共演しよう」と約束したという。こんな会話が出来るのは、音楽をやっていたからだろう。

●歌を聞いた人から依頼がきたことも

ユーモアのあふれる曲は、どんな風に生まれるのだろうか。

本業の合間を縫って、細切れに作っていくのが、藤元さんの創作スタイルだという。仕事が落ち着いたあと、家でギターを弾きながら、頭に浮かんだ歌詞を口ずさみ、スマートフォンに録音しておく。そうして貯めた短いフレーズ・アイデアを、最終的にまとめてひとつの曲にするのだ。忙しい本業とうまく両立させるための、効率的な作曲手法と言えそうだ。

弁護士を始めてから、こうして作った曲がこれまで20曲。今年2月には、『遠くの裁判所』『マルエツの弁当』など人気の6曲を収録した「CD」を完成させたという。

ところで、このCDには『債務整理の歌』も含まれているが、藤元さんは本当に債務整理の仕事を受けたくないのだろうか?

「それは、もちろん半分冗談ですよ(笑)。債務整理の仕事もきちんと受けています」

刑事事件をはじめ、性的マイノリティや外国人を対象とした法律相談、離婚、交通事故、企業法務など、幅広く手掛けている藤元さんだが、債務整理は実際のところ、手がける案件の中でも比較的件数が多いほうなのだという。

「不思議なもので、この『債務整理の歌』を聴いた人から、債務整理の依頼がきたこともあります。依頼者の気持ちを代弁するようなフレーズもあるので、気持ちを理解してくれる弁護士だという印象を持ってくれたのかもしれません」

藤元さんの歌う「弁護士ソング」が、目に見えないところで、弁護士という存在をほんの少し身近にしているのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

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