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交通事故の被害者が診察を拒否して「死亡」 それでも加害者に「致死」責任がある?
2013年07月30日 15時03分

車にはねられたが、病院受診を拒んだ被害者男性がその後、死亡した。そんな交通事故で、車の運転者が「自動車運転過失致死」の疑いで書類送検された。

報道によると、被害者男性は今年4月、佐賀県鳥栖市を自転車で通行しているとき、ワゴン車にはねられた。男性に目立った外傷はなかったものの、駆けつけた警察官や救急隊員らに病院へ行くよう再三勧められた。だが、男性は病院で診察を受けることをかたくなに拒み、事故は「物損」として処理された。

だが、男性は6月上旬、一人暮らしの自宅で死亡した状態で発見された。佐賀新聞によると、佐賀県警は男性の死亡原因がこの事故だと断定し、7月22日、ワゴン車の運転者を自動車運転過失致死の疑いで書類送検した。男性は頭を強く打って脳の機能障害を起こし、事故後24時間以内に死亡した可能性が高いとみられている。

佐賀県警は同紙の取材に対し「加害者は事故後の対応に手を尽くしたと考えられるが、結果の重大性から摘発せざるを得ないと判断した」とコメントしている。

運転手は事故後、被害者男性を自宅まで送り届け、受診するよう念押ししたと報じられている。悔やんでも起こった事は覆らないが、もし被害者の男性が病院に行っていれば、助かった可能性も皆無ではなさそうだ。こんなケースでも、加害者は「致死」の責任を問われなければならないのだろうか。櫻井光政弁護士に聞いた。

●法的な「因果関係」があれば、責任を免れることはできない

「確かに被害者のみならず加害者にとっても、気の毒な事件だと思います。しかし、法的に『致死』の責任を問われることはやむを得ないでしょう」

――なぜ、そう言えるのか。

「もし事故がなければ、死亡していなかっただろうという関係性、すなわち『因果関係』があるからです。まず、事故による傷害が死亡原因である以上、一般的な意味での因果関係(自然的因果関係)があるのは否定できませんね。

また、法的な責任を問うためには、より厳密な『法的因果関係』が成立する必要がありますが、病院に行かなかったことそれ自体が積極的な死因とまでは言えませんから、こちらも『あり』と判断されるでしょう」

――今回と似たような裁判例は、過去にあった?

「交通事故と死亡の『因果関係』が問題になったケースでは、交通事故で小指を怪我した被害者が、傷口からの感染で破傷風にかかったのに、病院が適切な治療を怠ったために死亡したという事例があります。これも、交通事故による『致死』が認定されました(高松高等裁判所昭和47年5月23日判決)」

――結局、被害者が治療を受けたかどうかは、あまり関係ない?

「いえ、関係はあります。本件では被害者がきちんと病院の診察を受けていれば死を免れた可能性がありますから、情状面では、加害者(被告人)に有利に作用するでしょう」

考えるほど、やるせない気持ちがわいてくる事故だが、今後もし自分が何らかの形で事故に遭遇したときのためにも、この教訓は胸にとどめておきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

車にはねられたが、病院受診を拒んだ被害者男性がその後、死亡した。そんな交通事故で、車の運転者が「自動車運転過失致死」の疑いで書類送検された。

報道によると、被害者男性は今年4月、佐賀県鳥栖市を自転車で通行しているとき、ワゴン車にはねられた。男性に目立った外傷はなかったものの、駆けつけた警察官や救急隊員らに病院へ行くよう再三勧められた。だが、男性は病院で診察を受けることをかたくなに拒み、事故は「物損」として処理された。

だが、男性は6月上旬、一人暮らしの自宅で死亡した状態で発見された。佐賀新聞によると、佐賀県警は男性の死亡原因がこの事故だと断定し、7月22日、ワゴン車の運転者を自動車運転過失致死の疑いで書類送検した。男性は頭を強く打って脳の機能障害を起こし、事故後24時間以内に死亡した可能性が高いとみられている。

佐賀県警は同紙の取材に対し「加害者は事故後の対応に手を尽くしたと考えられるが、結果の重大性から摘発せざるを得ないと判断した」とコメントしている。

運転手は事故後、被害者男性を自宅まで送り届け、受診するよう念押ししたと報じられている。悔やんでも起こった事は覆らないが、もし被害者の男性が病院に行っていれば、助かった可能性も皆無ではなさそうだ。こんなケースでも、加害者は「致死」の責任を問われなければならないのだろうか。櫻井光政弁護士に聞いた。

●法的な「因果関係」があれば、責任を免れることはできない

「確かに被害者のみならず加害者にとっても、気の毒な事件だと思います。しかし、法的に『致死』の責任を問われることはやむを得ないでしょう」

――なぜ、そう言えるのか。

「もし事故がなければ、死亡していなかっただろうという関係性、すなわち『因果関係』があるからです。まず、事故による傷害が死亡原因である以上、一般的な意味での因果関係(自然的因果関係)があるのは否定できませんね。

また、法的な責任を問うためには、より厳密な『法的因果関係』が成立する必要がありますが、病院に行かなかったことそれ自体が積極的な死因とまでは言えませんから、こちらも『あり』と判断されるでしょう」

――今回と似たような裁判例は、過去にあった?

「交通事故と死亡の『因果関係』が問題になったケースでは、交通事故で小指を怪我した被害者が、傷口からの感染で破傷風にかかったのに、病院が適切な治療を怠ったために死亡したという事例があります。これも、交通事故による『致死』が認定されました(高松高等裁判所昭和47年5月23日判決)」

――結局、被害者が治療を受けたかどうかは、あまり関係ない?

「いえ、関係はあります。本件では被害者がきちんと病院の診察を受けていれば死を免れた可能性がありますから、情状面では、加害者(被告人)に有利に作用するでしょう」

考えるほど、やるせない気持ちがわいてくる事故だが、今後もし自分が何らかの形で事故に遭遇したときのためにも、この教訓は胸にとどめておきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

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