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75歳男性、航空機内で「爆弾が入っているよ」と手荷物渡す…問われた罪は?
2022年07月26日 10時11分

航空機内で手荷物に爆弾が入っていると話し、出発を遅らせ業務を妨害したとして、宮城県警が軽犯罪法違反の疑いで同県の男性(75)を書類送検したと報じられた。送検は7月15日付。

報道によると、男性は2022年5月19日昼頃、仙台空港から那覇空港へ離陸直前の航空機内で、客室乗務員に対し、手荷物のバッグを手渡す際に「爆弾が入っているよ」と言ったという。安全確認のために航空機の出発が約50分遅れた。当時、機内には約100人の乗客がいたようだ。

その後、男性が爆発物を持っていないことが確認されたため、機長の判断で離陸。男性は那覇まで搭乗し、そのまま沖縄旅行をした。航空会社は被害届を出していないという。

もっとも、トラブル時に空港から通報を受けていた警察は悪質性が高いと判断。旅行から帰った男性を任意で取り調べ、業務を妨害したとして、軽犯罪法違反の疑いで書類送検した。男性は「冗談で言ってしまった」と話し、容疑を認めているという。

結果として冗談だったとはいえ、言われた側としては最悪の事態を思い浮かべてしまうだろう。書類送検された容疑は軽犯罪法違反のようだが、刑法上の業務妨害罪などにはならないのだろうか。荒木樹弁護士に聞いた。

航空機内で手荷物に爆弾が入っていると話し、出発を遅らせ業務を妨害したとして、宮城県警が軽犯罪法違反の疑いで同県の男性(75)を書類送検したと報じられた。送検は7月15日付。

報道によると、男性は2022年5月19日昼頃、仙台空港から那覇空港へ離陸直前の航空機内で、客室乗務員に対し、手荷物のバッグを手渡す際に「爆弾が入っているよ」と言ったという。安全確認のために航空機の出発が約50分遅れた。当時、機内には約100人の乗客がいたようだ。

その後、男性が爆発物を持っていないことが確認されたため、機長の判断で離陸。男性は那覇まで搭乗し、そのまま沖縄旅行をした。航空会社は被害届を出していないという。

もっとも、トラブル時に空港から通報を受けていた警察は悪質性が高いと判断。旅行から帰った男性を任意で取り調べ、業務を妨害したとして、軽犯罪法違反の疑いで書類送検した。男性は「冗談で言ってしまった」と話し、容疑を認めているという。

結果として冗談だったとはいえ、言われた側としては最悪の事態を思い浮かべてしまうだろう。書類送検された容疑は軽犯罪法違反のようだが、刑法上の業務妨害罪などにはならないのだろうか。荒木樹弁護士に聞いた。

●軽犯罪法違反にとどまったのは「温情的な処分」

——今回の軽犯罪法違反はどのようなものでしょうか。

軽犯罪法は、「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」(1条31号)を処罰の対象としており、これに違反した場合には、拘留または科料に処せられます。

拘留とは、30日未満の刑事施設への収容であり、科料とは1万円未満の金銭の納付の刑罰で、刑罰としては非常に軽いものです。

他方、刑法でも、業務妨害に対する処罰の規定があり、「偽計を用いて、人の業務を妨害した者」(偽計業務妨害、233条)や、「威力を用いて人の業務を妨害した者」(威力業務妨害、234条)は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。軽犯罪法と比べると、相当に重い処罰になります。

——軽犯罪法違反と刑法上の業務妨害罪はどのように違うのでしょうか。

法律上「悪戯などで妨害した」場合が軽犯罪法違反とされており、これは「一時的なたわむれで、それほど悪意のないもの」を指すとされています。もっとも、実際の区別は容易ではありません。

たとえば、私生活でうまくいかなかったことから、ストレス解消のために、インターネットの掲示板に著名人の殺害予告を書き込む事案がしばしばあります。

この種の事案は、容疑者の主観だけを見れば、まさに「一時的なたわむれ」ですし、具体的な殺害計画もなく、危険性もないことが大半です。しかし、この種の事案は、偽計業務妨害として立件されています。

それは、たとえ虚偽の書き込みであったとしても、殺害予告を受けた者は、虚偽であると判断できない以上、警備の強化や警察への相談などの対応を余儀なくされ、他の本来業務に支障が生じ、影響が大きいからです。

結局、軽犯罪法違反か刑法上の業務妨害罪の区別は、犯人の主観だけではなく、犯行によって生じた結果の重大性も考慮して、違法性の程度の大きさを総合的に判断して区別するというよりほかありません。

——今回のケースで、軽犯罪法違反にとどまった理由にはどのようなことが考えられますか。

本件では、男性が、離陸直前の航空機内で、客室乗務員に対し、手荷物のバッグを手渡す際に「爆弾が入っているよ」と言ったという事案であり、航空機の出発も約50分遅れるなど、現実的な被害も発生しています。威力業務妨害または偽計業務妨害罪での立件の可能性も十分にありえるところです。

しかし、約50分ほどの遅れがあったものの、そのまま男性客を乗せたまま出発しています。このような対応を見る限り、被害者である航空会社側も、もともと男性の言動を本気にしていなかった様子がうかがえます。

また、航空会社も被害届を提出していないようであり、結果が重大とまでは言えないと判断したものと思われます。

やや特殊な背景事情があると思われ、被疑者の男性にとっては、温情的な処分と言えるでしょう。

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