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「スパイ」とみられる男の逮捕容疑 なぜ著作権法違反なのか?
2013年01月23日 18時27分

大阪府警外事課は2013年1月10日、北朝鮮の工作員とみられる兵庫県尼崎市の運送会社社長を再逮捕した。すでに詐欺容疑で捕まっていたのだが、今度の逮捕容疑は「著作権法違反」である。米国の調査会社から購入した世界の軍事情報に関する報告書を無断で複製し、北朝鮮にメールで送信したというのだ。

新聞報道によると、詐欺罪で公判中の運送会社社長から押収したパソコンを調べた結果、兵器や通信技術などの軍事関連情報についてのページを無断複製したものを、暗号も使いながら北朝鮮に送っていたという。大阪府警はその社長を北朝鮮の工作員、すなわち「スパイ」と判断しているようなのだが、スパイとみられる男の逮捕容疑がなぜ「著作権法違反」なのだろうか。 

そもそも、スパイ行為そのものを取り締まる法律は日本にないのだろうか。この問題に詳しい新海聡弁護士に話を聞いた。

●「秘密でも何でもない情報」を外国政府に伝えても処罰されない

「スパイ行為、と言いますが、スパイ行為って何でしょうか?『国の秘密』を外国に漏らすことを『スパイ行為』とするならば、公務員が仕事で知った秘密を漏らすと公務員法違反で処罰されますし、自衛隊法や日米同盟に関するいくつかの法律でも秘密を漏らすことは厳しく処罰されることになっています」

つまり、公務員の機密漏洩を取り締まる法律はすでに存在しているのだ。

「一方、『秘密でも何でもない情報』を外国政府に伝えるだけでは処罰されません。第一、外国で流通している情報を入手して自国政府に伝達することはどこの国でも行っています。それなのに、秘密でも何でもない情報を外国に提供することを『スパイ行為』として処罰する制度を設けようとすると、私たちの人権を間違いなく侵害することにつながります」

そのように指摘したうえで、具体的にどのような人権侵害の恐れがあるのか、新海弁護士は次のように説明する。

「まず、その国で生活する人の行動を厳しく監視することが前提となります。たとえば、外国を旅したときに知り合った現地の友人や学生時代に知り合った留学生の友人と日本での流行や政治状況について連絡したり、意見を交わしあうことは珍しくありません。ところが、たまたまその友人の母国と我が国との関係が悪化したとしたらどうでしょうか。友人同士の連絡が監視され、スパイ行為の疑いをもたれる可能性も出てくるのです」

もしそのような疑いを持たれたら、どうなるのだろうか。「自分がスパイでないことを証明するために、電話やメールなどの通信内容まで国に示さなければいけなくなるかもしれません。つまり、憲法が保障する『通信の秘密』はどこかに行ってしまうのです」

そのうえで、新海弁護士は日本の現状について「スパイ天国」と揶揄し、「現行法では不十分」とする意見が一部にあることについて次のように語る。

「秘密とされている情報を漏らすことについては、すでに法律等によって厳しい対策がとられています。ところが、国は、まだまだ不十分だ、といっています。そのホンネは、政府の情報をできるだけ公開しないようにしたい、ということではないでしょうか。政府が情報を公開しなければ、政策に反対することが難しくなり、政権にとって都合がよいからです」

実際に政府はそのような動きを見せていると、新海弁護士は指摘する。

「政府が制定を目指している法律に『秘密保全法』というものがありますが、これなどはその最たるものです。スパイという言葉に惑わされず、私たちの自由や民主主義の問題として、『情報』はどう扱われるべきかということを冷静に考えるべきです」

「国家の秘密」を守ろうとすることが、個人の「自由」を侵害することになってはいけない、ということだろう。

弁護士ドットコム トピックス編集部

大阪府警外事課は2013年1月10日、北朝鮮の工作員とみられる兵庫県尼崎市の運送会社社長を再逮捕した。すでに詐欺容疑で捕まっていたのだが、今度の逮捕容疑は「著作権法違反」である。米国の調査会社から購入した世界の軍事情報に関する報告書を無断で複製し、北朝鮮にメールで送信したというのだ。

新聞報道によると、詐欺罪で公判中の運送会社社長から押収したパソコンを調べた結果、兵器や通信技術などの軍事関連情報についてのページを無断複製したものを、暗号も使いながら北朝鮮に送っていたという。大阪府警はその社長を北朝鮮の工作員、すなわち「スパイ」と判断しているようなのだが、スパイとみられる男の逮捕容疑がなぜ「著作権法違反」なのだろうか。 

そもそも、スパイ行為そのものを取り締まる法律は日本にないのだろうか。この問題に詳しい新海聡弁護士に話を聞いた。

●「秘密でも何でもない情報」を外国政府に伝えても処罰されない

「スパイ行為、と言いますが、スパイ行為って何でしょうか?『国の秘密』を外国に漏らすことを『スパイ行為』とするならば、公務員が仕事で知った秘密を漏らすと公務員法違反で処罰されますし、自衛隊法や日米同盟に関するいくつかの法律でも秘密を漏らすことは厳しく処罰されることになっています」

つまり、公務員の機密漏洩を取り締まる法律はすでに存在しているのだ。

「一方、『秘密でも何でもない情報』を外国政府に伝えるだけでは処罰されません。第一、外国で流通している情報を入手して自国政府に伝達することはどこの国でも行っています。それなのに、秘密でも何でもない情報を外国に提供することを『スパイ行為』として処罰する制度を設けようとすると、私たちの人権を間違いなく侵害することにつながります」

そのように指摘したうえで、具体的にどのような人権侵害の恐れがあるのか、新海弁護士は次のように説明する。

「まず、その国で生活する人の行動を厳しく監視することが前提となります。たとえば、外国を旅したときに知り合った現地の友人や学生時代に知り合った留学生の友人と日本での流行や政治状況について連絡したり、意見を交わしあうことは珍しくありません。ところが、たまたまその友人の母国と我が国との関係が悪化したとしたらどうでしょうか。友人同士の連絡が監視され、スパイ行為の疑いをもたれる可能性も出てくるのです」

もしそのような疑いを持たれたら、どうなるのだろうか。「自分がスパイでないことを証明するために、電話やメールなどの通信内容まで国に示さなければいけなくなるかもしれません。つまり、憲法が保障する『通信の秘密』はどこかに行ってしまうのです」

そのうえで、新海弁護士は日本の現状について「スパイ天国」と揶揄し、「現行法では不十分」とする意見が一部にあることについて次のように語る。

「秘密とされている情報を漏らすことについては、すでに法律等によって厳しい対策がとられています。ところが、国は、まだまだ不十分だ、といっています。そのホンネは、政府の情報をできるだけ公開しないようにしたい、ということではないでしょうか。政府が情報を公開しなければ、政策に反対することが難しくなり、政権にとって都合がよいからです」

実際に政府はそのような動きを見せていると、新海弁護士は指摘する。

「政府が制定を目指している法律に『秘密保全法』というものがありますが、これなどはその最たるものです。スパイという言葉に惑わされず、私たちの自由や民主主義の問題として、『情報』はどう扱われるべきかということを冷静に考えるべきです」

「国家の秘密」を守ろうとすることが、個人の「自由」を侵害することになってはいけない、ということだろう。

弁護士ドットコム トピックス編集部

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