「パン屋に併設されたカフェで何も買わずにウォーターサーバーの水を水筒に入れて持ち帰ろうとしている男性がいました。これは窃盗にならないのでしょうか」という質問が弁護士ドットコムニュース編集部に寄せられました。
質問した人が男性を目撃したのは都心部のオフィス街。パン屋に併設されたカフェスペースで、イートインを利用するお客さん用のウォーターサーバーから、自分の水筒に水を入れて持ち帰っているのを見かけたそうです。
パンやコーヒーを購入せずに、無料提供されている水だけを持ち帰った場合、それは犯罪などになってしまうのでしょうか。
●カフェで提供される「水」は窃盗罪の対象になるのか?
刑法上の「窃盗罪」(刑法第235条)が成立するかどうかが問題になります。
窃盗罪は、「他人の財物」を盗んだ者に成立する犯罪ですが、カフェで提供されている水は「財物」にあたるのでしょうか。
法律上、形のある「物」は基本的に財物として扱われます。そういう意味で、水も財物といえます。
「少しの水だから問題ない」と思うかもしれませんが、法律上は必ずしもそうとはいえません。無料で提供されている水であっても、「他人の財物」であることに違いはありません。
また、お店としては、パンを購入してその場で飲食する人のためにサービスとして水を提供しているのであって、水筒に詰めて持って帰ることを許しているわけではありません。
したがって、お店の同意なく、水を自分の水筒に入れて持ち帰る行為は、「窃取」(盗むこと)と評価される可能性があります。
もちろん、実際に罪に問われるかどうかは別です。一度こういうことをしただけで刑事事件になる、ということは考えられません。ただし、繰り返し行えば警察沙汰になる可能性はあります。
●建造物侵入罪は成立するのか?
別の問題として、もし男性が最初から水だけを持ち帰る目的で、パンやコーヒーを買うつもりもなくカフェスペースに入ったとすれば、店舗の利用目的の範囲を逸脱しているとして、「建造物侵入罪」(刑法第130条前段)が成立する可能性も考えられます。
ただし、同罪の立証は、現実には容易ではないでしょう。なぜなら、商品を買うか買わないかは入店前から確実に決まっているわけではなく、「買うつもりで入ったけど、結局何も買わずに水だけ飲んだ」ということも十分あり得るからです。正当な購入検討目的で入店した場合は、侵入罪は成立しません。
●民事上の責任はどうなる?
お水は、特定の場所の天然水を利用しているなどの特殊な場合をのぞいて、ごく低額のものです。その代金を請求される可能性は低いでしょう。
もっとも、お店の判断で、以後出入り禁止にされる可能性はあります。
なお、「水を汲んだのだからパンを買え」とお店側が主張した場合に、パンを買う義務が生じると思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ウォーターサーバーを利用したらパンを買う義務があることが明示されているようなケースを除いては、直ちに購入義務が発生するわけではありません。
●まとめ
先にも書きましたが、実際にこうしたケースで警察が動いたり、起訴されたりすることは考えにくいでしょう。ただ、法律の建前としては、こうした行為も犯罪の要件を満たす可能性があるということです。
お店が善意で提供している水やサービスは、やはりお店のルールの範囲内で利用したいものです。ちょっとした行動でも、節度をもって利用することが大切ですね。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)