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「転勤」を条件とする昇進はNGに!? 男女雇用機会均等法の「間接差別」ってなに?
2013年10月09日 13時50分

子育てと仕事を両立させようとする女性にとって、会社から「転勤」を迫られることは大変なプレッシャーだ。そのため、男女雇用機会均等法(均等法)では、総合職の募集・採用にあたって「転勤に応じること」という条件を付けることは、女性に対する「間接的な差別」にあたるとして禁じている。

しかし、いまだに多くの女性が「転勤の壁」に苦しんでいる実態があるという。そこで厚労省は、このルールの対象を、総合職以外や募集・採用時以外にも拡大するという「報告書」(案)を公表し、審議会で検討を始めた。

この報告書では、総合職という限定を外し「あらゆる職種」に対象を拡大。さらに、募集・採用時だけではなく、昇進・職種変更時にも適用するというアイデアが示されている。弁護士はこのアイデアをどう見るのだろうか。働く女性への法的支援に取り組む板倉由実弁護士に聞いた。

●女性は「男性と同じ働き方」と「家庭の責任」の両方を要求される

まず、なぜ「転勤」と「性差別」が結びつくのかを、板倉弁護士に説明してもらおう。

「日本では、全国転勤や長時間労働をいとわないことが典型的な『正社員』モデルとされています。いわゆる『総合職』と呼ばれる立場ですね。

一方、日本には、育児・介護・家事など、家庭の責任は女性が担うものだという、性別役割分担意識も根強く残っています」

そうなると、もし『総合職の女性』が出世しようとすれば、全国転勤・長時間労働をしながら、育児も、介護も、家事も全てこなさなくてはならないことになる。そんなことは不可能だ。

「これまでの日本では、妊娠・出産・育児などで転勤や長時間労働ができない総合職の女性は、昇進・昇格の対象から外され、能力・実績を正当に評価されない……という不平等な結果がもたらされてきました。

それが女性の昇進・昇格への意欲・意思を減退させ、女性をパートや派遣社員といった非正規就労に導く要因になっています」

●均等法には「抜け道」があった

それでは悪循環だ。今回のルール変更案は、そういった状況を変化させられるのだろうか。

「均等法は、募集・採用から退職にいたるまで、雇用のあらゆるステージにおいて、性別を理由とする『直接差別』を禁止しています。

ただ、『直接差別』の禁止対象はあくまで《同一の雇用管理区分内での差別》です。

そこで企業は、コース別管理制度を導入し、総合職と区別した転勤を前提としない『一般職』や『限定正社員』として女性を採用し、均等法の適用をすり抜けてきました」

《最初から別コース》として採用し、格差があっても禁止対象にはならないのであれば、「実質的な差別」がなくせないのは明白だ。そこで、こうした直接差別に当たらなくても、客観的に見て実質的に性差別といえるような場合の『間接差別』も禁止されているのだという。

「ところが、均等法が禁止する『間接差別』は別途『指針』(法律の解釈基準)で定める3つの類型に限定されていて、適用範囲が極めて狭いのが問題です。

具体的には次の3つです。

(1)募集・採用時の身長・体重・体力要件

(2)総合職の募集・採用時の転居を伴う転勤要件

(3)昇進時の転勤経験要件」

●「正社員モデル」を変えるきっかけとはなるが、まだまだ不十分

今回出てきた「報告書」は、この部分に変更を加えるという話だ。板倉弁護士は続ける。

「報告書は、指針が定める類型(2)と(3)を修正する内容です。コース別管理制度を前提とする『総合職』の限定を外し、広く一般的に、募集・採用および昇進、職種の変更の要件として『転居を伴う転勤要件』を課すことを間接差別の類型とするとしています。

これは、ワーク・ライフ・バランスと逆行する『正社員モデル』の働き方を変える契機となる点では、評価できます。

しかし、今回は法文そのものを改正するわけではなく、また禁止の対象とされる間接差別を限定的に捉えている点では不十分と言えるでしょう」

それでは、どんなルールをつくるべきなのだろうか。

「政府は2020年までに、指導的立場にある女性の割合を30%にするという目標を掲げています。しかし実際には、役職者(課長職以上)に占める女性の割合はまだ14.4%程度で、諸外国に比べても極めて低い水準にあります。

こうした性差別的な雇用慣行を変えるには、法律で禁止される間接差別を限定するべきではありません。限定列挙そのものを廃止する必要があるでしょう」

つまり、実質的な性差別を幅広く禁止し、男女比率などの観点で、客観的に見てその会社が雇用面で男女差別を行っている場合、国が積極的に指導すべきということだろう。女性が積極的に働ける社会を創り出すことは、喫緊の課題と言えるはず。今後の議論に注目していきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

子育てと仕事を両立させようとする女性にとって、会社から「転勤」を迫られることは大変なプレッシャーだ。そのため、男女雇用機会均等法(均等法)では、総合職の募集・採用にあたって「転勤に応じること」という条件を付けることは、女性に対する「間接的な差別」にあたるとして禁じている。

しかし、いまだに多くの女性が「転勤の壁」に苦しんでいる実態があるという。そこで厚労省は、このルールの対象を、総合職以外や募集・採用時以外にも拡大するという「報告書」(案)を公表し、審議会で検討を始めた。

この報告書では、総合職という限定を外し「あらゆる職種」に対象を拡大。さらに、募集・採用時だけではなく、昇進・職種変更時にも適用するというアイデアが示されている。弁護士はこのアイデアをどう見るのだろうか。働く女性への法的支援に取り組む板倉由実弁護士に聞いた。

●女性は「男性と同じ働き方」と「家庭の責任」の両方を要求される

まず、なぜ「転勤」と「性差別」が結びつくのかを、板倉弁護士に説明してもらおう。

「日本では、全国転勤や長時間労働をいとわないことが典型的な『正社員』モデルとされています。いわゆる『総合職』と呼ばれる立場ですね。

一方、日本には、育児・介護・家事など、家庭の責任は女性が担うものだという、性別役割分担意識も根強く残っています」

そうなると、もし『総合職の女性』が出世しようとすれば、全国転勤・長時間労働をしながら、育児も、介護も、家事も全てこなさなくてはならないことになる。そんなことは不可能だ。

「これまでの日本では、妊娠・出産・育児などで転勤や長時間労働ができない総合職の女性は、昇進・昇格の対象から外され、能力・実績を正当に評価されない……という不平等な結果がもたらされてきました。

それが女性の昇進・昇格への意欲・意思を減退させ、女性をパートや派遣社員といった非正規就労に導く要因になっています」

●均等法には「抜け道」があった

それでは悪循環だ。今回のルール変更案は、そういった状況を変化させられるのだろうか。

「均等法は、募集・採用から退職にいたるまで、雇用のあらゆるステージにおいて、性別を理由とする『直接差別』を禁止しています。

ただ、『直接差別』の禁止対象はあくまで《同一の雇用管理区分内での差別》です。

そこで企業は、コース別管理制度を導入し、総合職と区別した転勤を前提としない『一般職』や『限定正社員』として女性を採用し、均等法の適用をすり抜けてきました」

《最初から別コース》として採用し、格差があっても禁止対象にはならないのであれば、「実質的な差別」がなくせないのは明白だ。そこで、こうした直接差別に当たらなくても、客観的に見て実質的に性差別といえるような場合の『間接差別』も禁止されているのだという。

「ところが、均等法が禁止する『間接差別』は別途『指針』(法律の解釈基準)で定める3つの類型に限定されていて、適用範囲が極めて狭いのが問題です。

具体的には次の3つです。

(1)募集・採用時の身長・体重・体力要件

(2)総合職の募集・採用時の転居を伴う転勤要件

(3)昇進時の転勤経験要件」

●「正社員モデル」を変えるきっかけとはなるが、まだまだ不十分

今回出てきた「報告書」は、この部分に変更を加えるという話だ。板倉弁護士は続ける。

「報告書は、指針が定める類型(2)と(3)を修正する内容です。コース別管理制度を前提とする『総合職』の限定を外し、広く一般的に、募集・採用および昇進、職種の変更の要件として『転居を伴う転勤要件』を課すことを間接差別の類型とするとしています。

これは、ワーク・ライフ・バランスと逆行する『正社員モデル』の働き方を変える契機となる点では、評価できます。

しかし、今回は法文そのものを改正するわけではなく、また禁止の対象とされる間接差別を限定的に捉えている点では不十分と言えるでしょう」

それでは、どんなルールをつくるべきなのだろうか。

「政府は2020年までに、指導的立場にある女性の割合を30%にするという目標を掲げています。しかし実際には、役職者(課長職以上)に占める女性の割合はまだ14.4%程度で、諸外国に比べても極めて低い水準にあります。

こうした性差別的な雇用慣行を変えるには、法律で禁止される間接差別を限定するべきではありません。限定列挙そのものを廃止する必要があるでしょう」

つまり、実質的な性差別を幅広く禁止し、男女比率などの観点で、客観的に見てその会社が雇用面で男女差別を行っている場合、国が積極的に指導すべきということだろう。女性が積極的に働ける社会を創り出すことは、喫緊の課題と言えるはず。今後の議論に注目していきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

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